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トリニティアイ -転生平民魔術師の王城勤務-  作者: 栗木下
1:転生平民魔術師

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6/51

6:第三者から見たミーメ ※

今回はヘルムス視点となっております。

ご注意ください。

「……」

 ユフィール様にミーメ嬢……師匠を届けた私は、王城内に存在する私の部屋で師匠の為の書類を書いていた。

 書類は単純な手続きに関わるものに始まり、つい先ほど練兵場で起きた一件の後始末に関わるようなものも含んでいる。

 まったく、ソシルコットと言う騎士もやってくれたものだ。

 騎士団で新人教育が終わって、偶々私に付けられた騎士だったが、まさかあれほどまでに師匠の登城を拒絶するような思想の持ち主だったとは……。


コンコンッ


「どうぞ」

「おう」

 私は部屋の扉がノックされたのを聞いて、返事をする。

 入ってきたのは、鎧姿の男……だが、騎士ではなかった。


「ジャンか。どうした?」

 ジャン・フォン・ベリンリン。

 『焔槍の魔術師』の二つ名を持つ宮廷魔術師であり、その目は右が赤く、左は鉄のような色合いをしている。

 騎士上がりの宮廷魔術師で、私と歳も近く、こうして先触れもなくお互いの部屋を訪れるくらいには仲も良い相手だ。


「お前がいつも言っていた年下師匠様の属性確認。アレを俺っちも見てたんで、その感想を言い合いに来た。ほらっ、茶菓子のクッキーもあるし、休憩ついでに語ろうぜ」

「分かった。それは私としても望むところだ」

 私は書類を書く手を止める。

 そして、水の魔術を利用して素早く茶を淹れると、ジャンへと差し出す。

 で、茶とクッキーを一口ずつ口に含んだところで、話を始める。


「さて、ヘルムスの年下師匠様だが……アレはヤベーな。マジで16歳なのか?」

「間違いなく16歳だ。師事して第二属性に目覚めた後に家が勝手に調べたのだが、ちゃんと王都に両親も兄姉も存在しているし、子供の頃も確認されたよ」

「マジか。あの『ダークボール』の安定性と美しさで16歳かよ……」

 ジャンが何処か呆れつつも感心した顔をしている。

 実際、師匠の『ダークボール』は美しかった。

 まるで穴が開いたかのように深い黒、何処から見ても形も大きさも変わらない真球、それが揺らめかない安定性。

 アレを見て、込められた魔力の少なさだけを感じ取って馬鹿にしていた連中は、直ぐにでも目を入れ替えた方が良いと私としては断言するところだ。

 最低限の魔力だけで、あれほど安定した球体を作る事がどれだけ難しい事か……どの属性であっても、真似する事は一朝一夕で出来るような事ではないだろう。


「次にミーメ嬢が使ったのは闇人間だったか」

「アレな。俺っちとしては、アレ一つだけでもヘルムスの年下師匠様は絶対に王城へ迎え入れるべきだと判断するね」

「だろうな。アレの有用性と使い道は少しでも頭が回る人間なら、幾らでも思いつく」

「同感だ。アレ一つあればあの時だって部下たちはよ……」

「……」

 闇人間の魔術も素晴らしいものだった。

 師匠は何でもないように発動し、自由自在に動かして見せていたが、相当の研鑽を積んでいなければ、アレは出来る事ではない。

 そして、その有用性は語るまでもない。

 射程次第ではあるが、あの魔術一つあれば、『決死の覚悟』と言う言葉の下に行われる幾つかの行動が必要なくなるのだから。

 とりあえず、師匠の闇人間を見てもなお馬鹿にするような表情を浮かべていた連中は小隊長以上にしないように具申しておく必要はあるだろうな。


 ジャンが悔しそうにしているのはあの件……二年前、一頭のドラゴンを討伐するために、部下と同僚を何人も亡くした話を引きずっているからだろうな。

 まあ、気持ちは分かる。

 ただ、もしもあの時あの場に師匠が居たならば……たぶん、師匠一人で勝ってしまったような気もするな。

 師匠ならそれが出来てもおかしくはない。


「で、証明の最後は呪いの握り潰しだったか。アレを見た瞬間に俺っちは確信したね。ヘルムスの年下師匠は第二属性持ちだって」

「具体的な根拠は?」

「呪いは闇に近しいものではあるが、その術式を破壊して、魔力に還元してみせていただろ。アレが出来ているのに第二属性を持っていないは通らねえよ。後、お前が散々言っているだろうが。『私が第二属性に目覚める事が出来たのは師匠のおかげです』ってな。お前が第二属性持ちなのに、その師匠が第一属性だけってのはおかしいだろ」

「そうだった」

 私は笑みを浮かべる。

 どうやらジャンはちゃんと私の話を覚えてくれていたらしい。


 ああそうだ。

 この世界の人間は魔力に目覚め、それをある程度扱えるようになると第一属性に目覚める。

 人間の第一属性は12種類で、その中から一つ目覚める形だ。

 そして、第一属性の扱いを一定水準以上に修めると、人間は第二属性を目覚める。

 で、この第二属性に目覚めるために必要な技術の中には、魔術の少々特殊な扱い方も含まれている。

 そして、師匠が呪いの握り潰しと共にやったのは、正にそれだった。


「ちなみにヘルムスは年下師匠様の第二属性については知っているのか?」

「教えられていないな。だが、あの後のミーメ嬢の決闘を見れば、だいたいの想像は着く。どうして隠しているのかもな」

「ま、そりゃあそうだわな」

 さて、第二属性として授かる属性には法則のような物は感じられないものになっている。

 私ならば『船』、ジャンならば『槍』、ユフィール様ならば『治療』だったか。

 歴史書を紐解く限りでは、『回転』、『落下』、『蛙』、『指摘』と言った、奇妙な属性もあるようだし、本当にどんな属性に目覚めるのかは分からないようになっている。


 それで師匠の第二属性だが……恐らくは『人間』かそれに近しい属性なのだろう。

 でなければ、師匠の闇人間の魔術の精度と出力に説明が付かないし、わざわざ人間の形にする理由もないからだ。

 同時に、第二属性を隠している事にも納得がいく。

 もしも本当に第二属性が『人間』なら、第一属性の『闇』と組み合わせた際に出来る事があまりにも危険すぎる可能性があるからだ。


「で、その後はソシルコットとか言う馬鹿騎士との決闘だったが……まあ、圧倒的だったな。ただ、正直なところ、俺っちもアレに初見で対処しろと言われたら、無理と返す他ないな」

「だろうな。私も対処できる気がしない。あまりにも速すぎる」

「おまけにヘルムスの年下師匠様としては、アレは大勢の人間に見られても何の問題もない魔術な訳だろ。強すぎるわ。俺っちの勝ち筋は超長距離からの不意打ちくらいしか思いつかねぇ」

「ミーメ嬢ならそれも対応して見せる事だろう。と、弟子である私としては言わせてもらおうか」

「本当に対応されそうで俺っち困るんだが……」

 具体的に言えば、師匠が使う全ての闇属性魔術に人間を対象とした特効作用を持たせて、その効力を飛躍的に高める。くらいの事は出来るのではないだろうか。

 そして、それが本当に出来てしまうのなら……この王国に居る人間では、誰もその気になった師匠を止められない可能性がある。

 それは非常に危険な可能性だった。


「幸いにしてミーメ嬢は善良な人間だ。犯罪歴は無く、助けられる人間は助ける、権力に付随する面倒事も理解しているし、真っ当な権力者が苦労している事も分かっている。礼節を以って正しく遇する事こそが、一番の対策になるだろう。それは弟子である私が保証しよう」

「そうかい。ま、今は友人の言葉を信じさせてもらって、陛下たちにもそう伝えさせてもらうわ」

「頼む」

 私はジャンに一度頭を下げる。

 こういう話は弟子である私が直接伝えても説得力がないだろうから。


「ところでヘルムス」

「どうした? ジャン」

「なんで年下師匠様の事をミーメ嬢って呼んでいるんだ? 今まではずっと師匠師匠と、俺っちたちの耳にタコが出来そうな頻度で言ってたじゃないか」

「うぐっ……その、だな。先日、ミーメ嬢の自宅に赴いて王城へ誘う際に、二人きりの時以外はミーメ嬢と呼ぶように約束させられてしまってだな……」

「あー。なるほどな。そういや、師事した一週間の時は地位関係はほぼほぼ隠してたって話だったもんな。で、今になって公爵家の三男様かつ宮廷魔術師と分かれば、そりゃあ真っ当な人間なら止めてくれとは言いたくもなるか。なるほどなるほど、対策にも信憑性が出てちょうどいいな」

「ぐうっ……」

「まあ、妙な事になる前にバラしておいてよかったんじゃねえの。ただでさえ、婚約者すら居ないって事で、お前にそう言う目を向ける奴は多いんだしよ」

「ぐうううっ……」

 何も返す言葉が無いとはこの事だった。


「ま、そう言う事なら、他の宮廷魔術師たちにもヘルムスの年下師匠様の事はミーメ嬢と呼ぶように伝えておくわ」

「……。頼んだ」

「おうっ。貸し一つな」

 そうしてジャンは部屋から明るく去っていった。


 その後、必要な書類作業を終えると、師匠を迎えに行くべき時間が近づいていたため、私はユフィール様の部屋へと向かうのだった。

以降は基本的に一日一話12時更新予定となります。

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― 新着の感想 ―
弟子さんも第三属性に目覚める、または目覚めかけているんですね…… ロリ巨乳ジト目とか何かに……(ジト目かは分からない)
マジで無能な兵卒多めなのですね。 威力を求めてない試験なんだから「効果が同じなら込める魔力は少なくて一切問題ない(むしろ多量は魔力の無駄)」で当然なのを理解できずに『込めた魔力が低い』で馬鹿にするとか…
上級貴族となると、第二属性を身につけてやっと一人前だったりするのでしょうか。 >『蛙』属性 「梅雨ちゃんと呼んで」
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