57:装飾品店ではあるが
「それでヘルムス様。装飾品の店は直ぐ近くとの事でしたが?」
「歩いて数分。と言うところですね。行きましょう」
衣服の店を後にしたワタシはヘルムス様と手を繋いで道を歩く。
時間は昼近くで、貴族街と言えども大通りと言う事もあり、道行く人の数はそれなりに多いので、こうして手を繋いでいると人目を惹く。
ただ、そうしてワタシたちに向けられる視線の中身は様々。
「……」
大半は一瞬だけ興味を持つも直ぐに外されるものか、微笑ましい物を見るような目で少しだけ長く見ているもの。
前者は本当に普通の人で、後者はワタシたちの事を歳が多少離れた兄妹として認識しているような気もしなくともない。
残りの視線についても、だいたいはヘルムス様の方へ訝し気な視線を向けるもの。
これは……視線の主が兵士である事も考えると、かどわかしの類を警戒してのものだろう。
職務に忠実で、大変結構な事である。
で、ほんの僅かにだが……ヘルムス様ではなくワタシに敵意を向けているような視線があるような、無いような……微妙な気配がある。
まあ、ヘルムス様はイケメンなので、それで惹かれてしまった女性が居るのだろう。
ただ、ワタシとヘルムス様が婚約者と言う事情も知らずに、外見年齢が貴族院入学前でも通じるワタシに嫉妬心を向けている辺り、ちょっとヤバい気もするが。
でも、出所も何も分からないので、警戒をしておくしかないか。
「ミーメ嬢。どうかされましたか?」
「いえ、大したことではありません。色々な人に見られているなと思っただけです」
「そうですね。確かに人目は惹いているでしょう。ですが、それこそを目的として歩いていますから」
「そうでしたね。犯罪抑止のための牽制。でしたか」
「ええそうです。抑えるのは犯罪だけではありませんが」
「? ……。 !?」
ヘルムス様はご機嫌な様子で歩き、ワタシの方へと微笑みかけている。
ワタシはそれを見つつ考えて……気づく。
なるほど、犯罪抑止の意味もあるが、こうしてワタシとヘルムス様の仲が良い様を見せつけておく事で、防止できる面倒事もあるのか。
主に恋愛や婚約の方面での話になるが。
「……。そ、そう言う事でしたら……もう少し体を近づけますか? あるいは腕を組むなど」
「私としては嬉しい話ですが、無理はしなくても大丈夫ですよ。ミーメ嬢。歩きやすさの方を優先しましょう」
「そ、そうですか」
い、今更な事になるが、やはり今日のお出かけと言うか活動は、実質的にデートのような物なのでは?
そう意識してしまうと、頬が赤くなると言うか、緊張してしまうと言うか……。
落ち着こう。とりあえず落ち着いて、ちゃんとヘルムス様の手を握って歩調を合わせて歩こう。
婚約者と手を繋いで歩いているだけ。恥ずかしい事なんて何もない。何もないったらない……。
「さて、着きましたよ。ミーメ嬢」
「あ、はい」
そうこうしている内に目的の店に着いたらしい。
ワタシたちは揃って店の中に入る。
「「「いらっしゃいませ。『船の魔術師』様。『闇軍の魔女』様」」」
で、当然のように従業員一同でのお出迎えである。
「本日は誠にありがとうございます。ささ、奥へどうぞ」
「ああ、分かった」
「し、失礼します」
ワタシたちは店の奥、個室となっているスペースに向かっていく。
その間にワタシはこの店の店頭に並べられている品々も見ていく。
装飾品の店と言う事で、売っているものは多種多様。
指輪、腕輪、ネックレス、ピアス、髪飾り辺りが多いが、アンクレットやチョーカーと言った物も売られている。
材質は……店頭にある物だと、木か銅か鉄で出来た物ばかりのようで、飾りに使われている石や魔物の素材もそこまで大したものではない。
が、どれも職人の技が光る手の込んだ作りとなっているので、平民や男爵や子爵ぐらいの貴族だったら、十分な代物なのではないかと思う。
ちなみに、少なくない品が魔道具にもなっていた。
詳しく見たわけではないが、簡単な防御魔術や解毒魔術、傷の再生や消毒を促す治癒魔術などが込められているようで、身に着けるだけで着用者の安全が少しは高められるような品になっている。
魔境に赴くにはまるで足りない強度の品ではあるが、街中で生活して普段遭遇するようなトラブルぐらいなら無難に凌げる。そんな品だ。
「ヘルムス様。こちらも今日は意匠を決めるだけですか?」
「基本的にはそうなりますね。衣装との兼ね合いもありますので。ただ、ミーメ嬢が欲しい物があれば購入して構いませんよ。私から贈らせていただきます。先日のお返しと言う事ですね」
「欲しい物ですか……」
さて、奥の個室に通されると、様々な品がワタシたちの前に並べられた。
そのいずれもが店頭に並んでいた物よりも豪華な物ばかり。
主に使われているのは金、銀、宝石、それに上質な魔物の素材たち。
殆どの装飾品は魔道具にもなっていて、込められている魔術の種類は店頭で見た物と変わりないが、魔術の出力や使える回数は段違いになっていそうだった。
「……」
うん、とは言えだ。
作ってくれた職人の方には申し訳ないのだが、防御も解毒も治癒も、ワタシの場合は自分でやってしまった方が強力だし、自分で作ってしまえるので……はい。
純粋にデザインが気に入るかどうかという話になってしまうな、これは。
「とりあえずネックレスは無いですね。その、首周りには何も付けたくないので」
「そうでしたね」
ワタシの言葉と共に一応用意されていたらしいネックレスたちが片付けられる。
ネックレスの先が第三の目に当たる都合上、そこを考慮して用意された物でないと付けづらいので。
「残りの中でとなると……」
その後、ワタシは幾つかの品を挙げていき、ヘルムス様もそれに頷いて何か指示を出していく。
ヘルムス様によると、ここから先の細かいデザインについては服の方の担当者とも相談しつつ、と言う話になるらしい。
なお、魔術を付与して魔道具にするのはお断りした。
ワタシには本当に不要なので。
仮に魔道具にするにしても、魔術の付与は自分ですれば良い。
「と、そう言えばヘルムス様。先日、グロリベス森林の深層に行った際に回収した石があるのですが、此処で出してみても良いですか?」
「石、ですか? ……。どうぞ」
と、ここでワタシはお披露目会の前日、グロリベス森林の深層で魔物の素材と一緒に回収した、魔力を含む石を持っていた事を思い出す。
今日は装飾品店に行くと言う事で、もしかしたら何かに使えるかもしれないと、持ってきていたのだ。
「これですね」
見た目は黒曜石に近い、光沢のあるちょっと綺麗な黒い石。
大きさも1センチぐらいの小さな物だ。
「宝石や魔石の類……ではなさそうですね。単に魔力を含んだ石のように見えますね。ですが、ただの石にしては含んでいる魔力が多い。ミーメ嬢、グロリベス森林の深層にはこのような石が多くあるのですか?」
ただ、ヘルムス様の言う通り、魔力は多く含んでいる。
しかも、黒曜石のように簡単には割れないし、黒玉……ジェットのように燃えるわけでもない。
見ていると不思議な魅力もある。
そんな不思議な石である。
余談だが、ヘルムス様の言葉に出てきた魔石と言うのは、魔物の体内で生成される魔力を多分に含んだ石の事であり、ぶっちゃけると胆石とか尿路結石の類である。
人間にとっては、薬や魔術の面から見て有用な素材であり、宝飾品として見ても良い物なのだが……前世知識があると、何とも言えない感情が湧く事もある代物でもある。
閑話休題。
「多くは無いですね。昔に一度、もっと薄っぺらいのを拾ったことがありましたが、それはもう売ってしまいましたし。それ以来です」
「そうですか。……。ミーメ嬢、こちらの品は先に宮廷魔術師の方で調べてみても良いですか? 正体が分からない物を身に付けさせるわけにもいかないので」
「構いませんよ」
「では、今のところはミーメ嬢が持っておいてください。その方が安全でしょうから」
とりあえず、今日この場で装飾品にしてもらえる事はないらしい。
まあ、それならそれで、と言う奴だ。
その後、特に問題もなく、お茶会の為の装飾品候補は決まっていき、ヘルムス様からワタシに贈ってもらえるらしい装飾品も幾つかの候補を挙げてもらった。
これで後日、衣装と合わせて、一体感があるように正式な物を選ぶそうだ。
12/25誤字訂正




