第37話 温泉かっぽアリシアとの遭遇
俺に出来るのは脱衣所で急いで浴衣を脱ぐことだけだ。
備え付けのタオルで股間を隠し慌てて扉を開けた。
岩に囲まれた大きな湯で、詰めれば30人は入れそうな湯だ。
幸い、というか他の客はいなかった。
これから師匠の裸を見るのに他の客がいたら吹っ飛ばすしかない。と考えていただけによかった。
手前が体を洗う場所、岩に刺さった筒からはお湯がどんどんあふれているのがわかる。
湯の色は白。
美容にもよさそうで、ワレ絶景なり! じゃない。
これからもっと絶景なのを見るために、急いで体に湯をかける。
マナーとしていきなりお湯に入るのはNGだ。
お湯の中に入りはじの方に入る。
作戦としては「いやぁここは混浴じゃないですよ? どうしても一緒に入りたかったんですか? すりすり」という作戦だ。
そうこう考えているうちに人の気配がする。
失敗すれば死。成功しても死だ、しかし男にはやらなければいけない事もある。
全神経を扉の開く音に集中する。
ガラララと音を立てた時、俺は素早く湯舟からでた。
「おーっと、お湯で体が滑ったー! そこの人危ないですよ。誰かと思ったら師匠じゃないですか。ここは混浴じゃないですよ。どうしても一緒に以下略! もみもみもみ」
俺は師匠の生尻を揉む。
あれ? 師匠にしてはお尻が小ぶりだ。
と言う事は師匠じゃなくてノラだろう、本当にごめん。
「む、ノラすまん! 間違えて……あれ……顔が見えない」
ノアの胸は絶壁であるから腰の位置から上を覗いても顔は見えるはずだ。
にもかかわらずタオルに隠れた山が見えた。
「これが揉まれるって事なんだね。クロウ君久しぶり」
「アリシア!?」
俺が横にずらずと、長い髪のアリシアだ。
白いタオルを全身に巻いて出る所は出ている。
俺が固まっていると「ああああああああああああああ、ここここおは男湯ですよ!?」と男性の叫び声が聞こえた。
「いまのはクウガ君の声だ」
慌てて垣根を見ると女性の声も聞こえてくる。
「のじゃあ! お主こそここは女湯なのじゃ! ライトニングバースト!!」
「メル姉さん! や、やりすぎだよ!?」
いやまて、アリシアがこっちにいるのはどうでもいい。師匠の声だよね。
仕切りからクウガが吹き飛んでこっちに来たのが、背後の温泉に豪快に落ちると、ぷかーっと浮いてくる。
「このド変態! アリ姉ちゃんから離れろ!」
「ん?」
前を振り向くと、足がふたつ見えた。
とっさに掴んで背後に投げ飛ばす。
「ひゃ!?」
「あっごめん」
一応は謝るが、条件反射というかもう間に合わない。
タオルを巻いたミーティアが起き上がろうとしたクウガにぶつかってさらに倒れる。
「クロウ君。普通はそこクロウ君が吹き飛ばされてクウガ君と仲良く温泉に浮くところだよ?」
「いや、本当にごめん」
俺としてもそうしたかったんだけど。
「ええっと、どうしよう」
俺はアリシアに助けを求めると、慈悲深いアリシアは「しょうがない」と言っては助け舟を出してくれる。
まさにアリシア様だ。
「《《誰のイタズラが知らないけど》》……看板が逆になっていたんだね。本当誰のイタズラだろうね。それに気づいたのがクウガ君なのかな?」
「そ、そうだね」
アリシアは俺を見てはニコッと笑う。
「まずは出てってくれると助かるかな」
「……ごもっとも」
俺は急いで着替えをし部屋へと戻る。
当然後で合流したい。とアリシアには部屋番号をつたえての事だ。
待つ事30分前後。
風呂を堪能した師匠達とアリシア達が戻って来た。
「ドアホウ、もう上がったのじゃ? もっとゆっくり入ってればよかろうに」
「そ、そうですね」
あれ? 怒ってない?
「それよりも、アリシアと合流したのじゃ。さすがはワラワじゃな」
「アリ姉ちゃん本当なんだから。絶対にド変態が女湯にいたんだって……」
「いなかったよ? ミーティアちゃん。私達が女湯に入ったら先生がいた。湯あたりしたのよ。クィルさんだってそう言っている」
「クィ姉ちゃん。本当? 卵で買収されてないよね?」
「ナイ」
なるほど。
ミーティアは湯あたりにして……。
「本当にすみません……看板通りに入っていたはずなんだですけど……」
クウガがノラに謝っているのが見えた。
ノラも必死で「大丈夫だよ」と言っているのが聞き取れる。
クィルの姿を探すと一番最後に入って来た、手には大量の温泉卵を桶にいれてもっており、食べては次を食べだす。
俺と目が合うと小さい声で「ワイロ……食べる……?」と1個差し出してきた。
「じゃぁ改めて紹介するね。この人が私の先生。メル先生」
アリシアが師匠を紹介すると、クウガ。ミーティア。クィルがそれぞれ挨拶する。
こちらもノラが「メル姉さん。とクロー兄さんに助けられた少女です」と頭を下げた。
「俺の方は紹介は無くていいよね。ええっと久しぶりアリシア」
「うん。変わらないようで安心したよ」
「待ってくれ!」
俺とアリシアが二回目の再開を喜んでいると、クウガが横やり入れて来た。
「ええっと、どうぞ」
「なんでクロウベルさんが、こんな所にいるんですか! 貴方は貴族でしょ?」
「え、知らなかったっけ? 貴族追放されたよ?」
「そ、そうなんですか……いやなんで」
俺は淡々とクウガに負けたので、貴族として責任果たすべく追放された。とクウガに説明した。
その後で師匠と合流してアリシアの体の事を心配して後を追いかけた事も添えて置く。
「そ、そんな……だって……貴方は本気を出せば僕なんかより……も、申し訳けないです」
「いやまったまった。クウガ君! そ、その土下座は駄目だ。いや本当強かったよ? 誇りに思って、追放されたのも俺が望んだ事もあるし」
「ちなみにドアホウは遊び感覚で東方魔法水龍陣を唱える事が出来るのじゃ」
「師匠!?」
クウガが俺と師匠を見ては「水龍陣……」とだけ呟く。
「うんうん。クロー兄さんは凄く強いんだ」
「クウ兄ちゃんだって強い! そ、それにいくら強くてもド変態だったらクウ兄ちゃんのほうがかっこいいもん!」
ノラが言うとミーティアが反論してきた。
妹組よその辺で辞めて置いて、このクウガ君、俺を殺すっていうんだよ?
「結婚するならクウ兄ちゃんが一番だよ!」
「……あっボクは別にクロー兄さんと結婚はしたくないし」
「ワラワもじゃ」
「まさかの味方からの追い打ち! ま、まぁ俺も師匠とは式上げなくても事実婚でいいですので、ちょ暴力はまずいです暴力は」
クィルがもって来た茹で卵を食べ一息ついたアリシアは俺と師匠に向き合った。
「で、私を追いかけ来たって言っていたけど?」
「…………」
「…………」
俺も師匠も黙ってしまう。
「アリシアよ、隣の部屋に行くのじゃ」
「ううん。先生大丈夫、ここで言ってほしいかな」
「………………ふう。わかったのじゃ。入浴中にも少し確認したがアリシアはこのままでは死ぬじゃろう」
周りの空気がざわっとなった。
師匠の口から正式に伝えられると、俺としても緊張感が増してくる。
「もちろん、今すぐとはじゃないのう。アリシアの魔力の状態は袋に入った小さな水のようなものじゃ。そこに大きな魔法を使うとどうなると思うのじゃ?」
「足りないですね……」
「うむうむ、足りないだけなら普通は魔法は発動しない。じゃが優秀過ぎるアリシアは生命力を魔力に変えてるのじゃ」
当のアリシアは、えへへへ。とはにかんでいる。
喜ぶ所ではない。
「わかった……アリシア。僕は君をパーティーから追放する」
クウガがパーティーリーダーらしく言い切った。
俺としては意外な言葉だ、だってゲームでは一時離脱はあってもほぼ一緒のメインヒロインだ。
「ふーん……そういう事いうんだ。クウガ君は」
アリシアの笑みが何か怖い。
クウガも感じ取れたのだろう、言い切った後に「一時的?」や「少しの間だけ」などひよってきてる。
「ミーティア! 避難じゃないや、買い物いってきます」
「クィルも」
「な、二人とも!?」
あっという間にクウガ陣営から2人消えていく。
正直俺も逃げたい。
「師匠ど、どうあれ? 師匠!?」
「メル姉さんなら窓から逃げたよ? じゃっボクも大人の話は大変そうだから」
ノラは窓の手すりに手をかけるとひょんっと飛び降りた。
いやまって。
「…………ええっとじゃぁ、俺も」
「他の人は《《見逃したけど》》クロウ君は残ってね」
「あっはい……」




