第31話 クウガ視点 イフの温泉街
イフの温泉。
温泉とは天然のお湯がでる風呂というか、様々な効果があるお風呂と言った所だろう。
古傷や痛み、魔力の回復、美容効果などもあって年齢に問わずに人気があると僕はアリシアから出発前に聞いている。
そのアリシアはスータン行きの馬車の中で倒れた。
ボクやミーティア、クィルも当然あわてる、最近覚えた僕のヒールでも一向に回復しないのだ。
僕らを乗せていた御者の話によるとこのままスータンにいくよりはイフにいって体を休めたほうがいいだろう。というので僕らは途中で行先をかえた。
「さて……アリシアの体調はどうかな……昨日やっと目が覚めたけど、まだ油断はできない。リーダーである僕がしっかりしないと」
イフの冒険者ギルドで欲しい情報を手に入れた僕は泊っている宿へと帰って来た。
珍しい引き戸タイプの扉を開け皆に挨拶を……。
「ただいま。ミーティア、クィル。アリシア起きれそう? 他の2人の調子はどう…………え?」
布団。という特殊なベッドで寝ているはずのアリシアがいなく、半裸のミーティア。クィルが僕を見ていた。
4つの胸が僕の思考を止めてくる。
「クウ兄ちゃん、普通ノックするよね? わざとだよね?」
「クィル、強い雄好き。アリシアいないあいだに、スル?」
「クィル! クウ兄ちゃんは、そんなエッチな事しない!」
「え? あ、うん……当然?。そ、それよりごめん!」
ボクは後ろを向いて2人にアリシアの事を聞いた。
「アリ姉ちゃんなら温泉と整体あっ帰って来た」
「あれクウガ君、どうしたの?」
「どうしたの? じゃない! 突然倒れて……直ぐに動くとか」
「ごめんねクウガ君。スータンに行きたかったんだよね、私が倒れたから行先を変えてイフに来たって2人に教えて貰ったよ」
アリシアが僕に謝ってくる。
僕がスータンに行きたかった理由は占い師マリンダに会いたいからと、強くなりたいからである。
あのアリシアに《《色目を使い》》、貴族という地位を逆手にアリシアを気を引こうとして、真剣勝負すら逃げ出す。
彼がまだ弱いならわかる、あの余裕そうな顔。地下下水で戦闘には参加してなかったが緊張感のない顔、思わずアリシアじゃないけど僕は見とれてしまった。
僕の目標であり倒すべきライバル……いやライバルと言う事さえ僕は彼の足元にも行ってないだろう。
彼に勝ちたい。
勝つとはなんだ? 彼は勝負からヘラヘラとにげる……男と男の真剣勝負でさえ。
もしかしたら彼を殺す事が勝ちなのかもしれない。
彼は貴族だ……僕が彼を倒すには色んな条件がいるだろう、だからこそ僕が彼を殺すまで彼には死なないで欲しい。
「別に謝って貰いたいわけじゃなくて調子が悪かった、それは僕の責任でっぶ!?」
「ぶっ?」
えっな……アリシア、いや幼馴染のアリシアさん!? のおっぱいが二つ僕の前に現れた。
「あ、アリシア! そ、その薄着は何、中に何か着てると思ったら……」
「あっこれ? 浴衣っていうんだって。男女兼用で羽織るだけの衣服、下着は付けない方がいいって言われたんだけど少し恥ずかしいね」
だったら着なきゃいいじゃないか! いや道理で街にいる人々が浴衣? を着ている率が多かったわけだ。
今の今まで、そういう趣味の人達が集まる街かと思っていた。
喉まで出かかってその言葉を飲み込んだ。
「にっしっし、クウ兄ちゃんえっちー」
「馬鹿ミーティア! 大人をからかうな!」
「クウガ、我慢はよくナイ」
僕をからかってくるミーティアとクィルも浴衣を着ていた。
「な、何の話だよ。それよりも僕の方こそごめん。アリシアに無理をさせていたみたいだ」
「うん。わかればよろしい、だめだよ? 突然人に斬りかかったり暴れたり」
「うん」
素直に謝ろう。
僕は僕だ。強くなるのに仲間を犠牲にしたくはない。
「じゃぁスータンの街いこっか」
アリシアが僕に提案してくる。
「いや、もういいかな。さっきギルドに聞きに行ったら占い師マリンダは既に亡くなっていた。孫がいるらしいけど、そっちは占いの力はないみたい。治安も最近はいいみたいで水着大会が盛んらしいね」
訓練もかねているのに訓練すら出来そうにない。
「せっかくクウガ君の呪いを解くヒント貰えると思ったのにね。え、でも大丈夫? 水着大会みたいんじゃないの?」
アリシアが僕をどう思っているのか……。
見たくないと言えばウソだよ、3人の水着姿とか気にはなるし。
「あはは、ありがとう。水着大会っても僕が出るわけじゃないし、それに今からスータンの街に行くよりはこのまま北を目指したほうがいいかも、どうも魔物が活発らしいんだ」
「クウ兄ちゃんの正義たましいが燃えはじめた」
ミーティアがからかうけど、困っている人がいるのであれば助けたい。
「当たり前だよミーティア。嫌だったら今からでもフユーンに帰ってもらってもいい」
「いっ! あたしだってクウ兄ちゃんの役に立ちたいんだから!」
「クウガ……悪イ……ミンナクウガのたメ」
「ご、ごめん。僕が言いたいのは頼りにしてるけど、強制はしたくない。僕の個人の事に皆を巻き込むのは……」
「クウガ君の顔ちょっと怖いよ? ほら、クウガ君も着替えて着替えて、この街は浴衣を着ると温泉が入り放題なの、クウガ君も」
「アリシア!?」
アリシアが右腕を取ると、クィルが左腕を取る。正面にはミーティアが来てぐふふ。とヨダレを垂らした。
「さぁクウ兄ちゃん、お着替えしようねー」
「ばっ馬鹿! ミーティア!?」
――
――――
カポーン。と、音がした。
木の板で仕切られた温泉の男湯へと僕は入っている。
無理やり服を脱がされて、クィルが僕のパンツまで手をかけてアリシアに怒られていた。
でも、もう少し怒るのを早くして欲しい、あぶなかった。
これも呪いなのかなぁ……いや呪いなんだろう。
幼馴染のアリシアと結婚すると思っていた僕にふりかかる女性がらみのトラブル。
教会で調べた所ハーレムの呪いとわかったのが10歳。
呪いに負けないように訓練して、やっと旅の許可ももらった。
助けてくれる仲間。
英雄になれなくてもいい、歴史に残らなくてもいい、僕は僕の周りの世界を変えたい。
「お、兄ちゃん若いのに温泉とは珍しいな」
「え。はい、旅の途中です」
「グラペンテの話は聞いたか?」
グラペンテ。
数日前まで僕が牢屋にいた街だ。
「ええっと……旅人が暴れて牢に入れられた話ですか?」
「ちげえちげえ。裏カジノ……ってもあんちゃんにはわからんか、ギルド非公認のカジノでよ。毎回毎回場所を変えては逃げていたグループなんだが、そのトップが、とうとうギルドマスターセタがとっつかまえたのよ」
セタ。
若いギルドマスターだ。
僕が牢に入れられた時に《《アリシア達の目を盗んで》》会いに来てくれた女性。
最初は身分を偽って僕が反省するのを確認するとギルドマスター権限で出してくれた。
あの一晩は絶対にアリシア達には言えない。
「さすがセタさんですね」
「と、おもうだろ? じつは旅の冒険者が絡んでいたらしいのよ」
「そうなんですか……」
「一人は兄ちゃんぐらいの若い男。次にその子分、最後に20代後半ぐらいの女だ」
「すいぶんと変わった組み合わせですね」
一瞬彼の姿がよぎったが、そんな事はないだろう。
彼はフユーンの街の貴族、そんな簡単に旅をするような身分じゃない。
それに女性や子分という人物も記憶にない、彼はいつも一人だ。
1人なのに余裕そうな顔、俺はお前達とは違うという空気感。
「ああ。もしあんちゃんがその3人だったら、サインでも貰おうかなって思ってよ、知らねえじゃしゃーないな」
「へぇ……会ってみたいですね」
温泉から出て冷たい飲料を飲みぼーっと過ごす、休憩室で椅子に座っているとアリシアが女湯から出て来た。
サラサラの髪がふわっとなびき、浴衣姿のアリシアを見取れる。
「あれクウガ君待っていたの?」
「え? ああ……1人で部屋にいてもしょうがないかなって思って」
「最近変な事件が多いね、聞いた?」
「ああ、聞いたグラペンテの裏カジノだよね」
「フユーンの夜の昼事件の事なんだけど……クロウ君大丈夫かな」
ああ、そっちか。
アリシアが気にかけていた事件で、僕らは。というか僕が牢に入っていたために駆けつける事が出来なかった事件だ。
「グラペンテのギルドマスターに聞いたら、原因不明で小さい墓が1個壊れていただけ。と」
「そうなの?」
「言わなかったかな?」
「え。だって私達、グラペンテのギルドマスターに《《会ったこと無いよ》》?」
温泉に入ったというのに、体が冷えて来た。
そうだった……彼女、セタは僕にだけギルドマスターの身分を明かして他のメンバーには何も言ってない。
なんだろう、アリシアの目が、顔は笑顔なのに怒っているようにも見える。
「ああ、えっとあの若い受付の人がいたよね、その人がギルドマスターの話を聞いたとか聞かなかったとかだっけかなぁ」
「ふーん、普段記憶力いいのにずいぶん曖昧なんだね」
「え。いや……アリシア! 僕だって全部を覚えてるわけじゃなくて」
「うんうん」
なんだろう、アリシアの信頼度がどんどん下がっていくように思えて来た。




