第百二十六話 悔しい気持ち (異母姉サイド)
殿下からの贈り物に、三人はそれなりに満足をしたようだ。
自分の贅沢しか頭になかった殿下にとっては、親しいものたちにその贅沢の一部を分け与えるというのは、大きな方針転換だったと思う。
わたしもまあまあ満足したので、殿下の願いに沿う形で、言い争いは下火の方向に向かった。
しかし、人間の欲には限度がないものだ。
殿下の母と妹は、殿下に次々とおねだりをするようになった。
わたしもゼリドマドロンも負けじとおねだりをする。
常にゼリドマドロンよりもわたしの方が高い贈り物をしてもらえるように、殿下にお願いしていた。
愛され方で負けているとしたら、せめて贈り物の値打ちだけでも勝ちたい。
そういう気持ちは強かった。
それだけではない。
公爵家の当主となったわたしは、税率を高くし、臨時の税を次々に取り立てた。
より一層の贅沢をする為だ。
継母に対しても、その増税分を分け与える。
公爵家内で勢力を持っている継母の機嫌を取らなければ、公爵家をまとめることはできないからだ。
悔しいことだが仕方がない。
継母の方もわたしのことを嫌っているのだろうが、表面上は喜んでいた。
そして、贅沢をすることにいそしんでいた。
公爵家内でも、わたしたちの贅沢に反発するものはいたのだが、わたしは全く気にすることはなく、贅沢を推し進めていた。
しかし、今思うと、それはやりすぎだった。
こういう贅沢をすることは、王国の国民や公爵家の領民を苦しめることにつながっていく。
国民や領民から取り立てた税が。わたしたちの贅沢の為に使われるからだ。
いずれ国民や領民の不満が爆発することは、予想できただろう。
どこかで歯止めをかけるべきだったのだ。
もちろん、この頃のわたしは、そういうことを思うことは全くなかった。
他の三人もそうだったし、継母もそうだろう。
自分の贅沢のことしか頭にはなくなっていく。
わたしも贅沢におぼれていった。
殿下の愛が失われ始めてきていたので、なおさらその傾向に拍車がかかっていた。
さらに拍車をかけることになったのが、リンデフィーヌの婚約。
なんと、リンデフィーヌは、隣の王国の王太子殿下の婚約者になったのだ。
殿下との婚約を破棄されただけでなく、この公爵家を追放され、みじめな状態でこの地を去っていったというのに……。
その情報が入った時、継母もわたしも、嫉妬心が一挙に湧き上がっていた。
「魅力がないあの子が、婚約者になるなんて!」
「殿下の愛が薄くなってきていて、つらく苦しい思いをしてきているのに!」
悔しさという点では、継母とわたしは同じ気持ちだった。
その悔しさが、継母とわたしをさらなる贅沢へと向かわせる。
贅沢さならばリンデフィーヌに勝つことができると思ったし、そして、贅沢をすれば心も安定させられると思ったからだ。
しかし、そういう日々は長くは続かなかった。
国民の中の反対勢力が王宮に押しかけてきたのだ。
わたしはその時、殿下の執務室にいた。
この日もゼリドマドロンが殿下と親しそうにしていたが、なんとか我慢をしていた。
すると、
「税金をもっと安くしてくれ! これでは生きていけない! 我々は毎日つらい思いをしているんだ!」
と王宮の門の前から声が聞こえてきた。
殿下やゼリドマドロンと外に出ると、ますますその声は大きくなって聞こえてくる。
殿下は、
「どうせ小さい勢力だろう。たいしたことはない」
と言っていたが、わたしにはそうは思えなかった。
いずれ嵐になっていくのでは……。
そういう気はしていた。
しかし、だからといって、贅沢を止める気にはなれない
三人も同じ気持ちのようで、贅沢を少しつつしもうと思うものすら、わたしを含めて誰もいなかった。
殿下やわたしたちは、何の対策を取ろうともしなかった。
また貴族たちの間にも、殿下に対して反発するものは増えていた。
「今の王太子は贅沢しか能がない。女性は付き合ってはすぐ捨てるし、貴族たちには冷たい仕打ちをする。嫌いだと思った貴族の領地を減らし、お気に入りの貴族の領地を増やす。すべては気分次第。こんな人物にこの王国は任せられない!」
しかし、殿下はこういう声が聞こえてきても、何も対応策を取らない。
そして、時間は過ぎていくのだった。
せめてここで殿下が動いていれば、結果は違っていたのかもしれない。
その数日後、王宮は、王太子の変更と減税を要求する大人数の民衆に取り囲まれることになってしまった。
それだけではなく、王太子の変更を要求する貴族たちが、国王陛下のところへ押しかけた。
国王陛下は、貴族たちと協定を結ばざるをえなかった。
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