第百二十一話 前世の記憶の一部 (マイセディナンサイド)
「お願いでございます。国王陛下の後継者にもう一度してくださいませ!」
父国王は、四人の哀願を黙って聞いていた。
この願いを聞いてもらえるだろうか?
希望は持ちたい。
わたしは父国王の言葉を待った。
やがて、話をし始めたのだったが……。
「お前たちの願いは理解する。しかし、この子は今まで王太子にふさわしくないことを行いすぎたのだ。これほどいろいろな人に迷惑をかけていては、王太子でいることはもうできないのだ……」
父国王は涙を流し始めていた。
「これほどお願いをしても……」
四人がそう口々に言うのだが、
「いくら言われても無理なことだ。もうわたしの言うことに従ってくれ」
とその度に言い返される。
父国王の側近たちは、我々のやり取りをじっと聞いているのみで、一切口は出していない。
彼らにとりなしをお願いしてもらう気持ちもあった。
もうそれぐらいしか打つ手は残っていない。
しかし、わたしは彼らのことを大切にしてこなかった。
彼らの意見を全くといっていいほど聞かなかった。
わたしの贅沢を諫めることもあったので、罵倒することもあった。
わたしに対して、決していい気持ちは持っていないと思う。
今さらお願いしても無理だろう。
あきらめるしかない。
もう父国王の命を受け入れなければならないところまで来ていた。
悔しくてしょうがない。
それにしても父国王の気力はすごい。
特にこの一か月ほどは衰えが深刻化していて、何も言う気力がなくなってきていたと思っていただけに、驚くしかない。
そして、我々が言い疲れ始めた時、父国王はより一層悲しい表情になり、
「リンデフィーヌとの婚約を破棄することなどしなければ、こんなことにはならなかったと思っている。あの女性は、マイセディナンと一緒にこの王国を繁栄させてくれるはずのものだった。最初は、わたしぐらいしか、それを理解するものがいなかったが、次第に王室のものたちも貴族のものたちも理解してきて、あの女性の評判も高くなっていった。わたしはうれしかった。わたしの思った通りだと思っていたのだ。それをお前は、わたしが病床にあって気力が衰えた時に、婚約破棄に持っていってしまったのだ。わたしがもっとしっかりしていれば、とどうしても思ってしまう。今日押しかけてきた貴族たちの多くも、『リンデフィーヌ様が婚約者のままだったら、わたしたちだって、ここに押しかけるようなことにはなっていなかったのです』と言っていた。それだけリンデフィーヌは貴族たちの評判も高かったということだ。そういう女性こそ、王太子妃、そして王妃として迎えたかった。しかも、リンデフィーヌは公爵家からも追放されてしまった。今思うと、わたしがもっとしっかりしていればよかったのだ……。そのリンデフィーヌは、今ではリランギュール王国の王太子殿下の婚約者になったと聞いた。これからリランギュール王国は発展するだろう。わたしはそういう方を妃として迎えられなかったのが残念でならない」
と今度は弱々しい声で言う。
わたしも四人は黙って聞いているしかなかった。
リンデフィーヌが婚約をしたということは、わたしも聞いていた。
リンデフィーヌとの婚約は破棄すべきではなかったのでは、と少しずつではあるが思い出したわたしにとっては、打撃になる情報だった。
婚約を破棄したことは、失敗だとは思いたくなかった。
婚約を破棄し、ルアンチーヌと婚約をして、ゼリドマドロンと遊ぶ。
これが最善の選択だと思いたかった。
しかし、わたしは父国王の話を聞いている内に、自分が大きな失敗をしたと思うようになってきた。
言われるのは悔しくてたまらない。
しかし、父国王の言う通りだと思う。
リンデフィーヌとの婚約破棄をしなければ、自分が王太子の地位を奪われることもなかっただろう。
今頃は、リンデフィーヌの評判が良くなっていくのに合わせて、わたしの評判もどんどん上がっていったことに違いない。
そう思っていると、前世の記憶の一部がわたしに流れ込んできた。
前世が存在するとは思っていなかったので、それは驚きの連続だった。
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