表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/50

24 乱戦

 ―――……フェイが立ち去った後、刻印の者を追いかけるために町民らも走り去っていった。


 残されたのは十二勇将であるシェル、ザドー、リゲルと、帝国騎士アレットの4人だけだ。

 アレットは、フェイが消えた方へふらり、と歩を進めた。


 最後に見せた、悲痛な表情。その顔を見たアレットは、何故か胸を痛めた。

 彼女が救世主なのか、ただ騙していただけなのか、アレットには分からない。分からないが、駆けつけなければと焦るのだ。


「……、救世主様……」


 呆然と名を呼び、心のままに従おうと地を蹴った時だった。

 それまでザドーと闘っていた筈のリゲルが目の前に現れ、アレットへ剣を薙ぐ。咄嗟に避けたアレットは続けて奮われた二撃目を、剣で防いだ。


「っ、貴様……どういうつもりだ……っ!」

「フェイの下には俺がいく」


 剣越しに告げたリゲルは、次の瞬間、左足でアレットの胴を蹴り倒すと、踵を返し駆け出した。

 蹴られた方へ身体を崩したアレットは、されど両足を踏ん張って地に伏せることだけは回避する。


「いい加減にしろよ……!」


 そしてリゲルの背を睨むと、露わとなった胸元のペンダントを握り締め―――剣に『魔力』を込め始めた。



「『開くは七つの門、巡るは因果の業。


 起源の祖よ、混沌の礎を築きし祖よ、

 脈々と胎動せしこの力、

 この意思を以て、対する者に廃滅を望む。

 

 ―――許しを此処に。

 

 祖は終焉の兆しにして、理を抱く者。

 大門よ開け、溢れて満たせ、我に破滅の導きを―――ッ!』」



 唱え終えた瞬間、アレットの剣はその輝きを失っていく。いや、黒い影に飲まれているのだ。

 まるで浸食するかの如く、光を染める夜の如く。

 闇はうねり、霧を上げ、剣を黒で覆い尽くす。


 そして、アレットは剣を携え駆け出した。

 ―――リゲルの背へ、剣先を向けて。


「、!」


 脅威を感じ身を捻ったリゲルは、穿とうとするアレットの剣を目に留め、咄嗟に刀身を剣で薙ぎ払う。

 だが触れた個所から黒が移り、リゲルの剣を埋め尽くさんと浸食を始めた。


「ッ、『liaison≪結合≫―――circulation≪巡る≫、

 四大の精霊、侍るは理、我に栄華の導きを』!」


 急ぎ詠唱を紡いだリゲルの剣は、黒を排除せんと炎を巻き上げる。思わぬ熱気にアレットが身を挺した瞬間、頭上からザドーが現れ、二人の間に割り込んだ。


「俺を置いてくんじゃねぇよお、リゲルーッ!」


 声を張り上げるザドーは、狂気的な嗤いと共に詠唱を口ずさむ。


「『liaison≪結合≫―――circulation≪巡る≫、

 四大の精霊、侍るは理ぃ、我に栄華の導きをおおおぉぉ』ッ! ひゃあああああははっははあ!」


 掲げた彼の剣はリゲルと同じように炎を纏い―――やがて、猛々しく荒れ狂う黒炎と変わった。

 まるで意思を持つかのように剣から伸びる炎は、ザドーをも飲み込まんと火柱を上げている。


「さあ、決着を着けようぜリゲル! 俺の炎とお前の炎……どっちがより強ぇのかをよお!」

「ザドー……っ!」

「―――全く困りましたね。目的はリゲルただ一人だというのに……ああ、熱気が鬱陶しい。もういっそ全員殺してしまいましょうか……!」


 冷静さを見せていたシェルから、殺意が膨れ上がる。

 高揚に目が見開かれ、殺しきれない笑みが狂気に歪められた。


「『liaison≪結合≫―――circulation≪巡る≫、

 四大の精霊、侍るは理、我に栄華の導きを』……!」


 謳うように唱えた後、シェルの足もとから波紋が広がるようにして、円が三人を飲み込んでいく。

 シェルを中心として発生する、薄い水色の膜は動く度に波紋を作り、さも円の範囲内に水が張られたかのようだ。

 だが濡れる感覚はない。足を上げれば、水から引き上げたかのような感触はするが、微かに涼やかな空気を感じるだけだ。


「さあ、皆さん。始めましょうか―――至高の殺し合いを!」


 気取ったように両手を上げたシェルに合わせ、水の膜から水泡がひとつ、ふたつと浮かび上がる。

 その形が徐々に変わり、鋭利な針状のものになるや―――方向を定め、奔りだした。


「く、!」


 危機を感じ、三人は地面を蹴って回避する。

 彼らのいたところに無数に突き刺さったそれは、水の膜すらも穿ち、地面を深く抉ってみせた。


「なんだあれは―――」

「っ、てめぇ……おいシェルッ! 俺もいんだろぉがよお!」

「ええ、分かっていますとも。ついでに死んでもらおうと思っただけですよ」


 こめかみに血管を浮かべたザドーは、含み笑いを浮かべるシェルに歯を軋ませる。

 そしてシェルの名を叫ぶと、空中へ一閃、剣を薙いだ―――そこから放たれた黒炎が、シェルへと向かっていく。


 だが到達する直前、シェルはその場から離れ彼の攻撃をなんなく避けた。

 黒炎は水の膜を破り、大きな火炎を上げる。


「貴方の攻撃は単調なんですよ、―――っ、!」


 着地したシェルは、言葉を切って咄嗟に剣を構えた。直後に剣がぶつかり合い、衝撃で水が浮き上がる。

 対峙するリゲルの瞳孔は開き切っており、それまで浮かべていた嘲笑を更に深めている。彼もまた愉しんでいるのだ―――この殺し合いを。


「言っておくけど、俺はあいつほど単調じゃないよ」

「リゲル……っ!」


 剣の重みを受け止めきれず、シェルの剣が震えだす。再び水泡が宙に浮き始めるが、リゲルは鼻で嗤うと、剣を纏う炎を霧散させた。

 炎は火の粉となって水泡を消し去る。下唇を噛み締めるシェルは一瞬気が逸れ、リゲルの繰り出した拳に反応が遅れた。


「がぁ、!?」


 殴られた衝動で水膜の上を滑っていくシェルに代わり、リゲルへ向かって飛び出したのはアレットだ。

 首元に薙いだ筈の一撃を防がれるも、そこから闇が放たれ、リゲルの剣にとぐろのように巻きついていく。


 言い知れない不安を感じてすぐさま距離を取ろうとするも、まるで繋がった糸のように剣が引き寄せられた。


「お前、何をした」

「離れられぬようにしただけだ」


 アレットは自身の剣から繋がるそれを引くと、リゲルの剣も合わせて動く。

 早く断ち切らなければ―――そう思った瞬間、黒炎が二人を繋ぐ糸を焼き千切り、勢い衰えることなくアレットへ襲いかかった。

 咄嗟に剣を身構え、炎を切り裂く。だがあまりの熱量に呼吸すらままならない。手が焼ける痛みを訴え始めたとき、背後から飛んできた水泡が炎を打ち消した。シェルだ。口元から血を流したまま、荒い呼気を整えた彼は真っ直ぐにリゲルを睨みあげた。


「……そこを退けよ。お前らが俺に敵うわけないだろうが……!」

「退場するのは貴様だ、……いや、これを機に我らが帝国の力を示してやる!」

「俺の炎こそが最強ッ! それを死んで思い知れええぇえぇッ」

「ああ煩わしい、煩わしい! もう結構、すぐに殺して差し上げます」


 ―――リゲル、アレット、ザドー、シェル。


 彼らは自分以外を敵とみなし、各々の剣を構える。

 それぞれ持つは騎士の称号。この場に集う強者達は、殺し合う為に剣を握る。


 今やこの町は、狂気満ちる戦場と化した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ