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771 秘密は一個ばれると他のもばれちゃうんだよ

 僕が頭をこてんって倒してたらね、ロルフさんがゴホンってせきをしたんだ。


「ロルフさん、どうしたの? かぜ?」


「いや、いまのはそういうのではない」


 だから風邪でもひいてるのかなって思ったんだけど、そうじゃなかったみたい。


「あー、皆も解っておるとは思うが、先ほどのことは他言無用じゃ」


「さっきのこと?」


 なんかあったっけ?


 そう思った僕は、お母さんを見たんだよ。


 そしたら僕の頭をポンポンって叩いてこう言ったんだ。


「ルディーンは忘れちゃったのかな? キャリーナが治癒魔法を使えるのはナイショにしなさいってハンスに言われたでしょ」


「あっ!」


 そう言えばキャリーナ姉ちゃんがキュアを使えるって解ったら、悪もんが寄ってくるかもしれないんだっけ。


 そう思った僕は、慌ててお口に両手を当てたんだよ。


 でも、もうしゃべっちゃった後だから、みんなそれを見て笑い出したんだ。


「他言無用なのはキャリーナちゃんだけじゃなく、ルディーン君のこともですよね?」


 クリームお姉さんが聞くと、ロルフさんは大きく頷いてこう言ったんだよ。


「うむ。ルディーン君の治癒魔法に関してはすでに知っておる者が大勢いるが、むやみやたらに広げるべき話ではないからな」


「僕もなの? でも前に、冒険者ギルドでいっぱいキュアとキュアポイズン使ったことあるよ」


 冒険者さんたち、いっぱい治したことあるよね?


 それにユリアナさんとアマリアさんの足が取れちゃった時も、治したことを冒険者ギルドで話したでしょ。


 だから僕はいいんじゃないかなぁって思ったんだ。


 でもね、ロルフさんは僕のこともあんまり話さない方がいいんだよって言うんだよね。


「神殿に所属しておる以外で、治癒魔法が使える者は君が思っている以上に貴重なのじゃよ」


「だからね、ルディーン君もあまり他では言わないでほしいかな」


 ロルフさんだけじゃなくバーリマンさんにまでこう言われちゃったもんだから、僕はナイショにしないとダメなんだねって思ったんだ。


「そう言えば、ペソラは知っているのよね。ルディーン君が治癒魔法を使えること」


「はい。髪と肌のポーションのことがありましたから」


 ペソラさんは、錬金術ギルドの人でしょ。


 僕がお肌つるつるポーションと髪の毛つやつやポーションが作れるようになったのは治癒魔法が使えるからだってことを知ってたみたい。


 だからそのお話をしてくれたんだけど……。


「ペソラ!」


 そしたらバーリマンさんが急にペソラさんのお名前を大きな声で呼んだもんだから、僕はびっくり。


 どうしてそんな声を出したの? って聞こうとしたんだけど、その前にクリームお姉さんがこう言ったんだ。


「肌と髪のポーション?」


 それを聞いた瞬間、ロルフさんとバーリマンさんはおでこに手を当てて首を振ったんだよ。


 でね、言ったクリームお姉さんはというと、お母さんのお顔をじっと見たんだ。


「なるほど、解ったわ。ルディーン君。君、美容に関するポーションを開発したわね」


「びようってなに?」


「人の美しさのことよ。でも、そっか。シーラちゃんの髪、この間裁縫ギルドで再会した時から昔よりきれいになってるなぁとは思っていたのよ。でもそれはグランリルで日常的に魔物の肉を食べているからだと思ってたけど、どうやら違ったみたいね」


 クリームお姉さんはうんうん頷いた後、バーリマンさんに聞いたんだよ。


「先ほどの話からすると、髪だけじゃなく肌のポーションもあるのですね。それはどんなものなんですか?」


 話し方は丁寧だけど、お顔がちょっと怖い笑顔のクリームお姉さん。


 体がおっきくて筋肉ムキムキのクリームお姉さんがそんなお顔で近づいてきたもんだからバーリマンさんもあきらめちゃったみたい。


「今のところ、ルディーン君しか完全なものは作れないからこの話も他言無用よ。私でも、まだ劣化版のポーションが入った石鹸しか使っていないのですから」


「劣化版があるということは、すでに商品化するための道筋はできているということですね」


 ぐいぐい来るクリームお姉さんに、バーリマンさんはちょっと困ったお顔をしてるんだ。


 だからそれを見たロルフさんは、おっきなため息をついてからこう言ったんだよ。


「これ。先ほどもギルマスが言ったであろう。このポーションは今のところ、ルディーン君一人しか完全なものが作れないのじゃ。劣化版とはいえ、早々外にもらせる話ではないことくらい解るであろう」


「ええ、それは理解できます。ですが美に関することとなると、私もそう簡単に引き下がるわけにはいかないのです」


 クリームお姉さんは男の人だけど女の人の格好をしてるでしょ。


 でも、それってすっごく大変なんだって。


「女性に比べてどうしても肌のきめが落ちますから化粧ののりは悪いですし、髪だって太く硬いのでこれでもかなり苦労しているのです。それに将来的には薄くなる可能性だってあるでしょう。そこにもしかするとその問題を解決できる可能性が出てきたのですから、いくらフランセン様のお言葉でも引くわけにはいかないのです」


 すっごく必死に見えるお顔でそう言うクリームお姉さん。


 それを聞いてたキャリーナ姉ちゃんが、こんなこと言ったんだよね。


「クリームさんの肌。つやつやというよりテカテカだもんね。それにちょっと硬そう」


「キャリーナちゃん、ひどい!」


 キャリーナ姉ちゃんにそう言われて、泣きそうなお顔を両方のおててで覆うクリームお姉さん。


 それを見た僕は、すっごくかわいそうに思えてきたんだ。


「ロルフさん。クリームお姉さんにお肌つるつるポーションと髪の毛つやつやポーション、あげちゃダメ?」


「あの姿を見ると、確かに同情する気持ちは湧いてくるのぉ」


「えっ、それじゃあ!」


 ロルフさんのお話を聞いて、ぱぁっと明るい顔になるクリームお姉さん。


 でもね、


「しかし、こやつに渡すのはダメじゃ」


 ロルフさんはクリームお姉さんにあげちゃダメって言うんだよ。


 だから僕、両手をあげて怒ったんだ。


「なんでダメなの? クリームお姉さん、こんなに欲しがってるんだからあげてもいいじゃないか!」


「それはな、レーヴィ坊が裁縫ギルドのギルドマスターだからじゃよ」


 クリームお姉さんは裁縫ギルドで一番上手に服を作れるギルドマスターでしょ。


 それに貴族様だから、すっごいお金持ちや偉い貴族様でもお姉さんに直接会って服やドレスを注文するんだって。


「そんなレーヴィ坊の肌や髪が急にきれいになどなってみろ。間違いなく話題となって、その理由は何故かという話になるではないか」


「それにオレナン家は男爵位ですもの。それよりも上位の貴族から問い詰められれば、いつまでも口をつむぐのは難しいでしょうね」


 クリームお姉さんはあんまり自分のお家に帰らないって言ってたけど、お家にいるお父さんやお母さん、それに兄弟は違うでしょ。


 どうしてお肌がつるつるになったり髪の毛がつやつやになったのかって聞かれたら、困っちゃってクリームお姉さんに聞きに来るに決まってるもん。


 そしたら話さなきゃいけなくなっちゃうから、ロルフさんとバーリマンさんはポーションを渡しちゃダメって言うんだ。


「そう言う訳じゃから、レーヴィ坊。解ってくれるな」


「はい」


 そうお返事しながら、すっごくしょんぼりしちゃうクリームお姉さん。


 おっきな体がすっごくちっちゃく見えるくらいだから、それを見たバーリマンさんは流石にかわいそうに思ったみたい。


「はいはい。そんな顔をしない。子供たちが心配するでしょ」


「ですが……」


 優しく声をかけたのに、まだしょんぼりしたままなんだもん。


 だからバーリマンさんはおっきくため息をついてから、ロルフさんにこう言ったんだ。


「仕方がありませんね。伯爵、効果を薄めた劣化版のポーション石鹸ならば渡しても宜しいのではないですか?」


「うむ。このまま何もなしでは、あまりにあわれじゃからのぉ。あれはルディーン君のものほどの効果は得られぬが、わしとギルマスでも作れるものじゃからな。誰かに問われた時にわしらの名を出せば相手も黙るじゃろうて」


 石鹸ポーションはセリアナの実の油と魔道リキッドを混ぜてから、必要な三つの薬効に魔力を注いで作るでしょ。


 そっちならロルフさんたちも作れるから、他の人にばれてもいいんだって。


「ルディーン君が作ったものに比べると効果ははるかに落ちるけど、肌がきれいになるのは実感できるからこれで我慢してね」


「ありがとうございます。バーリマン様、フランセン様」


 今はないからまた今度作ってあげるねって、ロルフさんたちは言うんだよ。


 そのおかげでさっきまですっごくしょんぼりしてたクリームお姉さんは、一瞬で違う人に変身したんじゃないかって言うくらい元気になっちゃったんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 制作時は廉価版と言っていたけど、まだ販売していないので今回は劣化版と呼ばれている石鹸型肌用ポーション。


 これでも実はかなり貴重なものなんですよね。なにせこの世界には肌や髪の毛をきれいにするポーションが他には存在していないのですから。


 それにかなり微量の薬効しかセリアナの実に含まれていないので、作るためにはかなり高度な錬金術の技量を必要とします。


 今のところイーノックカウではロルフさんとバーリマンさんくらいしか作れないので、いまだに量産のめどはたっていないという訳です。


 さて、これは毎年のことなのですが、年末に出張があるので今週の金曜日はお休みさせて頂きます。


 それと今のところ29日の月曜日は更新するつもりなのですが、大掃除などの家のことがあるのでまだはっきりとしていません。


 また、年始もうちは本家なので結構お客さんが来るんですよ。


 それに正月を過ぎてもいろいろと家庭の雑事が多いので、申し訳ありませんが2、5、9はお休みさせて頂き、新年の更新は12日からになります。


 因みに「魔王信者に顕現させられたようです」はストックがあるので31日も7日も更新予定です。もし少しでも興味があり、空いた時間があるようでしたら読んで頂けると本当にありがたいです。こちらも頑張って書いているので。


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
伯爵家に喧嘩を売る馬鹿な貴族はいないとは言い切れないけど、上位貴族は近くにいないから問題ないかも。 侯爵あたりから言われたら男爵程度では抵抗できないし。 まあ、「作ってほしけりゃ材料を持ってこい」って…
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