770 にんにく油を塗ってから焼くとすっごくいい香りがするよね
にんにくの油漬けを焼いたり、醤油漬けを作ったりしてたでしょ。
だから思ったより時間がたってて、パンを焼いてるオーブンやご飯を炊いてるお鍋からいいにおいがしてきたんだ。
それにね、
「食材をお届けに参りました」
お買い物を頼んでたロルフさんちの人が帰ってきたもんだから、お料理を作る準備ができちゃったんだよね。
「クラークよ。揃った食材で何を作るつもりなのじゃ?」
「そうですね。まずはサラダでも作りましょうか」
にんにくを漬けた油って、それだけでいいにおいがするでしょ。
ノートンさんはそれにワインビネガーとお塩を入れて、さささぁーってかき混ぜてったんだ。
「ノートンさん。葉っぱのお野菜にそれかけるなら、最後に茶色くなったにんにくスライスを載っけるとおいしくなると思うよ」
「なるほど。シャキシャキの野菜にカリカリとした歯ごたえを加えるんだね」
ノートンさんは洗った葉っぱのお野菜をちぎっておっきなボウルに入れると、その上からにんにく油のドレッシングをかけておっきな木のフォークを二本使ってわっさわっさとかき回したんだ。
でね、最後にカリカリのにんにくスライスをパラパラってかけると、それをテーブルの上に載っけたんだよ。
「葉野菜のにんにくサラダでございます」
「わぁ、とってもいいにおいがする」
キャリーナ姉ちゃんはにんにくと酢が合わさった香りに、おいしそうだねって大喜び。
それにバーリマンさんやクリームお姉さんもおんなじ意見みたい。
「肉を煮込んで作るグレイビーソースと違って、植物性の油だから冷たい葉野菜にかけても白く固まらないのがいいわね」
「あっさりしている分、いろいろな料理に合わせることができそうですね」
葉っぱのお野菜って、イーノックカウでは普通はお肉を煮て作る味の濃いたれをかけて食べることが多いんだって。
でもこれは植物油とワインビネガーだから、あんまりくどくないでしょ。
だからあっさりしていいよねって二人で話してたんだよ。
そしたらここで、いつの間にかオーブンの近くにいたモーガンさんが僕に声をかけてきたんだ。
「ルディーン君。パンが焼きあがったよ」
「やったぁ! それじゃあ、焼けたのを持って来て」
僕がそう言うと、モーガンさんはパンが載った天板ごと持って来てくれたんだよ。
だから僕はありがとうって言って、そのおっきめの丸い熱々のパンにナイフで浅く切り込みを入れてったんだ。
「モーガンさん。にんにくが漬けてある油の入れもん、持って来て」
「おお、いいぞ」
モーガンさんはそう言うと、パンが乗っかった天板の横ににんにくの油漬けが入った入れ物をドンって置いたんだよ。
僕はその中からにんにくを取り出すと、一度ナイフの横でバン! ってしてから、とんとん叩いてみじん切りに。
それをパンの切れ目に入るように塗ったら、その上からにんにくを漬けてあった油をおさじで掬ってさぁーってかけてったんだよ。
そしたらそれを見たキャリーナ姉ちゃんが、なにをするのって大慌て。
「ルディーン。そんなことしたら、せっかくのパンがべちゃべちゃになっちゃうでしょ!」
「大丈夫だよ。だってこれ、もう一回焼くもん」
僕はそう言うと、モーガンさんに頼んでまだあっつくなったままのオーブンに入れてもらったんだ。
そしたらパンにしみ込んだ油と刻んだにんにくが焼けてきて、オーブンからすっごくいいにおいがしてきたんだよね。
「なるほど。こうすることで、パンを更に香ばしくするんだな」
モーガンさんはそんなことを言いながらちょっとの間オーブンの扉を見てると、ここだ! って言いながらバン! って開いたんだよ。
そしたらさ、一気に焼けたにんにくの香りがお部屋の中いっぱいに広がったんだ。
「これはまた。暴力的なまでのいい香りね」
真っ先にその香りに反応したのはクリームお姉さん。
モーガンさんが持ってきた天板の上に載ってるまだすっごくあっついはずの丸いパンをそのまま手でつかむと、近くにあったまな板の上に置いて何枚かにスライスしたんだ。
「私、ふわふわのパンなんてほとんど食べたことないから楽しみだわ」
でね、その真ん中を取るとそのままパクリ。
そしたらちょっとびっくりしたお顔になったんだよ。
「たっぷりかけてたから少し油臭いかと思ったけど、刻んだにんにくの焼けた香りで全く気にならないわね。むしろ、その油のおかげで味が濃くなってる気がするわ」
「焼くと油もうま味に変わりますからね」
モーガンさんはそう言うと、一番端っこを取ってパクリ。
「ここには刻んだにんにくはありませんが、かけたにんにく油のおかげで揚げたような香ばしさが加わってとてもおいしくなってますよ」
もぐもぐしてからそう言ってニッコリ笑ったんだけど、キャリーナ姉ちゃんは端っこのカリカリより真ん中のふわふわの方がいいみたい。
「私はここがいい!」
そう言って、真ん中のパンに手を伸ばしたんだ。
でもね。
「熱っ!」
クリームお姉さんとモーガンさんは普通に持ってたけど、これってさっきまでオーブンに入ってた熱々のパンだもん。
そこから出てる湯気だけでもすっごくあっついんだから、そんなのキャリーナ姉ちゃんが持てるわけないよね。
だから持った瞬間、すぐにおててを放しちゃったんだ。
「大丈夫? やけどしてない?」
僕はすぐにキャリーナ姉ちゃんのとこに走ってって、そのおててを見たんだよ。
そしたらちょっと赤くなっちゃってるんだもん。
「大変だ!」
それを見た僕は大慌て。
すぐに体に魔力を循環させて、力のある言葉を唱えたんだよね。
「痛いのなんて、なくなっちゃえ! キュア」
そしたら赤くなってたキャリーナ姉ちゃんのおててが軽く光って、元のきれいな色になったもんだから僕は一安心。
「キャリーナ姉ちゃん。あっついのに触ったらダメじゃないか!」
「だってクリームお姉さんたちが持ってたから大丈夫だと思ったんだもん」
そっか、大人のクリームお姉さんとモーガンさんが持ってたら、もうあんまりあっつくなくなってるって思っても仕方ないかも。
そう思った僕は、クリームお姉さんたちにダメじゃないかって怒ろうとしてそっちを見たんだよ。
でもね、クリームお姉さんもモーガンさんも、それにノートンさんまですっごくびっくりしたお顔してるんだもん。
だから僕、もしかしたら知らない間に何かすっごいことが起こったのかもって周りをキョロキョロしたんだよ。
でもね、さっきと変わったところがないみたいだからもう一度クリームお姉さんたちの方を見たんだ。
そしたらさ、クリームお姉さんが僕を指さしてこう言ったんだよね。
「ルディーン君。あなた、治癒魔法まで使えるの?」
「うん、使えるよ。あっ、そうだ! キャリーナ姉ちゃんもキュアが使えるんだった」
僕が治さなくったって、キャリーナ姉ちゃんは自分で治せるんだっけ。
「キャリーナ姉ちゃん。僕が治しちゃってよかった?」
「うん。だってすっごく痛かったから、うまく魔法が使えるか解んなかったもん」
お姉ちゃんがありがとうねって言ってくれたもんだから、それを聞いた僕は一安心。
これでこのお話は終わりねって思って、次はどんなお料理を作ろうかなぁって考えてたんだけど。
「ルディーン君だけじゃなく、キャリーナちゃんまで……」
なんでかクリームお姉さんがさっきよりももっとびっくりしたお顔になってるんだもん。
だから僕、どうしたんだろう? って頭をこてんって倒したんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
感想で書かれた方もいたのですが、ルディーン君がパンで作ろうとしていたのはガーリックトーストでした。
ただ、スライスした後に焼こうと思うと冷めるまで待たないといけないので、ガーリックフランスの大きな丸いパンバージョンと言った感じになってしまいましたが。
それとルディーン君ですが、キャリーナ姉ちゃんが治癒魔法を使えることはナイショだということをすっかり忘れております。
まぁそれ以前に、本来は神官しか使えないはずの治癒魔法をルディーン君使っている時点で周りはびっくりなんですけどね。
次回の最初に当然書きますが、この後ロルフさんたちから硬く口止めされるのはいつもの流れですw




