759 味によっては冷えるまで待たないといけないのもあるんだよ
「あれ? もうあんまり残ってないや」
あんなにいっぱいあったポップコーンだけど、みんなで食べてたからなのかもうあんまり残って無いんだよね。
「どうしよう。クリームお姉さんにも食べさせてあげないとダメなのに」
僕がそう言うと、ロルフさんが不思議そうなお顔をしたんだよ。
「材料はまだ残っておるようじゃが、あれで作ってはいかぬのかな?」
「いいけど、他にも食べたい味があるもん」
今はまだお塩のポップコーンしか食べてないでしょ。
でも今日はいろんなポップコーンを食べる日だから、甘いのや変わったのを作んなきゃダメなんだよね。
だからそのことを教えてあげると、ロルフさんはなるほどのぉって長いお髭をなでたんだよ。
「ならばひとまずこの残ったものを避けておき、他のものを作ってからまだ材料が残っておるようなら再度足せばよいではないか」
「あっ、そっか。ロルフさん、頭いい!」
そんな訳で、食べるのは一度おしまい。
お塩とはべつの新しい味のを作ることにしたんだ。
「次は何にするの?」
「どうしよっかなぁ」
キャリーナ姉ちゃんに何作る? って言われた僕は、頭をこてんって倒したんだよ。
そしたら決まってないならあれ作ろうよってお姉ちゃんが言ったんだ。
「あれ?」
「ほら。おっきな料理人さんが作ってくれたやつ」
「ああ、キャラメル味のポップコーンか!」
キャリーナ姉ちゃんが言ってるのはきっとバーリマンさんちの料理長、モーガンさんが作ってくれたののことだと思うんだよね。
あれもおいしかったし、次のはキャラメル味にすることにしたんだ。
「お母さん。モーガンさんが作ったのあるでしょ。あれ作って」
「いや、作ってって言われても私は作り方なんて知らないわよ」
僕が作ってって言うと、無理だよって困ったお顔をするお母さん。
でも大丈夫なんだよね。だって僕、作り方が解るもん。
「作り方は僕が覚えてるから、お母さんは言う通り材料を入れてって」
「そうなの? 解ったわ」
ってことでキャラメルポップコーン作り。
錬金術ギルドの台所にある魔道コンロは火をつけるとこが何個かあるから、ポップコーンはレーア姉ちゃんに作ってってお願い。
その間に僕とお母さんはキャラメルを作ってったんだよ。
「使うのはお砂糖とお水、それにバターと牛のお乳ね」
料理スキルのせいなのか、なんとなく牛のお乳は無くてもいい気がするけど、モーガンさんが入れてたから今回はそれのまねっ子。
何をどれくらい入れればいいのかもスキルが教えてくれるから、火を使うのはお母さんに任せて僕は材料を計ってそれを渡す係をしたんだ。
そしたらだんだんおいしそうなにおいがしてきて、色も薄い茶色になってきたからそこで火からおろしてもらったんだよ。
「ほほう、これがキャラメルとやらなのかな?」
「うん。最初はプリンに使うカラメルをかけてたんだけど、モーガンさんが苦いのがじゃまだからってバターと牛のお乳を混ぜて作ってくれたソースなんだ」
「お話し中悪いけど、ポップコーンができあがったわよ」
ロルフさんにキャラメルソースのことを教えてあげてたら、ちょうどポップコーンができあがったみたい。
「やったぁ。レーア姉ちゃん、できあがったポップコーンをお母さんの鍋に入れて」
「解ったわ」
言われた通りレーア姉ちゃんがポップコーンをどばって入れると、お母さんはキャラメルソースの入ったお鍋をゆすりながら木のへらで混ぜてったんだよ。
そしたら白かったポップコーンが、段々と茶色くなってったんだ。
「これである程度混ざったかな?」
「それじゃあ、お母さん。こっちのバットに移して」
僕が銅でできたおっきめのバットをテーブルの上にのっけると、お母さんはこぼれないようにそっと入れてったんだ。
「全部入ったら広げてね」
僕がそう言うと、つぶれちゃわないように今度もそっと広げてくお母さん。
それを見たキャリーナ姉ちゃんが、不思議なお顔をしながら聞いてきたんだよ。
「ルディーン。これはすぐに食べないの?」
「うん。こないだは作ってすぐ食べたからおててがべたべたしたでしょ。だからちょっと冷やしてキャラメルソースが固まってから食べようかなぁって思ったんだ」
キャラメルソースはお砂糖でできてるから、冷やすと固まるんだよね。
そりゃあバターが入ってるから完全には固まらないけど、それでもこないだ食べた時みたいにはならないと思うんだ。
「そっか。じゃあもうちょっと待たないとだね」
「うん」
甘いにおいのポップコーンを見ながらおいしそうだねって言うキャリーナ姉ちゃん。
でもすぐに食べられないのがつまんないのか、また僕に聞いてきたんだ。
「ルディーン。すぐに食べられるポップコーンは無いの?」
「すぐ食べられるの? それだとまたしょっぱいのになっちゃうよ?」
蜂蜜のも、どうせ作るなら売ってたのよりちょっと濃いめにしたいもん。
だからこれとおんなじように、ちょっと冷やして固めた方がいいからダメでしょ。
それ以外だと、僕が知ってる前の世界にあった甘いのって作り方が解らないやつばっかりなんだよね。
他に甘いのは思いつかないから、すぐ食べられるのになると、どうしてもしょっぱい味のを作ることになっちゃうんだ。
「しょっぱいの? お塩のじゃなくて?」
「うん。さっきここで見つけたんだけど、これをかけてもおいしいんだよ」
僕がキャリーナ姉ちゃんに見せたのは、この台所で見つけたおっきな硬いチーズ。
「ルディーン。これって火であぶって溶かすやつじゃないの?」
「違うよ。だって横にこれが置いてあったもん」
僕が見せたのは長さが18センチ、幅が3センチくらいのすっごく細かくてデコボコが付いた洗濯板みたいな刃が並んでる鋼のヤスリ。
「ロルフさん、これってチーズを粉にするやつだよね?」
「よく知っておるのぉ。うむ。これは粉チーズを作る道具じゃな」
やっぱり! じゃあ、これをかければバターチーズ味のポップコーンが作れるはずだよね。
「でも、ルディーン。それ使っちゃっていいの?」
「さっきバーリマンさんが、ここにあるのは全部使っていいよって言ってたもん。だから大丈夫だよね、ロルフさん」
「うむ。それも調味料じゃからな。使っても問題はあるまい」
ロルフさんがいいよって言ってくれたのを聞いて、キャリーナ姉ちゃんは大喜び。
「私、チーズのお菓子なんて初めて」
「僕もだけど、きっとおいしくなると思うよ」
だって料理スキルも、これをかけたらおいしくなるよって言ってるもん。
だから僕はまたお母さんにお願いして、新しいポップコーンを作ってもらうことにしたんだ。




