757 なんで僕んちには魔道コンロが無いんだろう?
お料理するお部屋につくとね、僕たちはさっそくポップコーンを作る準備を始めたんだ。
「私とレーアはフライパンや食器なんかを準備するから、ルディーンはトウモロコシを乾燥させて、キャリーナと一緒に芯から種を取ってもらえる?」
「はーい!」
錬金術ギルドのお料理するお部屋でポップコーンを作るのはこれで二回目でしょ。
だからどこにフライパンや蓋があるか知ってるから、お母さんたちはそれを出してお水で一度きれいに洗い始めたんだ。
でね、僕はその間に買って来たとうもろこしをテーブルの上に並べてんだよ。
「キャリーナ姉ちゃん。魔法で乾かすから、できたのから種取ってくれる?」
「うん、いいよぉ」
ってことで、とうもろこしを何本かおっきめのボウルの中に入れると僕は体に魔力を循環させたんだ。
それが終わるとそのボウルの中を指定してドライの魔法を発動! そしたらシュルシュルシュルって水分が抜けて、とうもろこしが乾燥したんだ。
「ルディーン。これ、もう種取っていいの?」
「うん。僕は次のをボウルに入れて乾かすから、取っちゃって」
キャリーナ姉ちゃんの前に乾いたとうもろこしをごろごろって出すと、僕はもう一回その中に新しいとうもろこしを入れたんだよ。
だって僕たちだけで食べるんだったら最初の一回だけでもいいと思うんだけど、今日はロルフさんやクリームお姉さんたちの分も作んなきゃダメだもん。
だからさっきと同じことを何回かやって、買って来たとうもろこしを全部乾燥させちゃったんだ。
「キャリーナ姉ちゃん。全部乾かしたから、僕も手伝うね」
「お願いね」
そこからは二人でせっせと種取り。
このとうもろこしは乾燥してるし、元々種の皮が硬いやつでしょ。
だからぽろぽろ取れて、結構楽しいんだよね。
「あら、もうそんなに取れたの?」
そんな僕たちのところにフライパンやできたポップコーンをのせるお皿とかを洗い終わったお母さんが来て、取れたとうもろこしの種の山を見てすごいねって言ったんだよ。
「だってぽろぽろ取れちゃうんだもん。すぐにお山になっちゃうんだよ」
「本当に山のようね。これならいっぱい作ることができるわ」
お母さんはそう言うと、僕たちの横に座って残ってるポップコーンの種を一緒に取り始めたんだ。
おかげで残ったのも、あっと言う間に全部芯から取れちゃったんだよ。
「それじゃあ作り始めるけど、最初は何味がいい?」
「お塩! だってさっき、蜂蜜味のを食べたもん」
甘いのを食べたから、今度はしょっぱいのを食べたくなったんだよね。
だからそう言うと、お姉ちゃんたちも最初は普通のがいいよねって言ってくれたんだ。
「そう。それじゃあ、最初は塩味にしましょうか」
お母さんはそう言うと、魔道コンロの横にお塩の入ったツボを持ってったんだよ。
こうしとけばポップコーンができあがった時、すぐにお塩をかけられるからね。
「確かフライパンにバターを入れて、その中にとうもろこしの種を入れたら火にかければいいのよね?」
「うん。それに蓋をしてから、火にかけて振ってればポンポン言いだすよ」
お母さんは僕とお話ししながら、材料をフライパンの中に順番に入れてったんだ。
でね、それに蓋をすると魔道コンロのスイッチを入れて火の大きさを調整し始めたんだよね。
「簡単に火力調整ができるなんて、本当に魔道コンロは便利よねぇ」
「僕んちだと火のついた薪を動かさないとダメだもんね」
つまみを動かしながら火の大きさを変えてくお母さん。
それを横で見てた僕は、あれ? って思ったんだ。
「そう言えば、お母さん。何で村のお家には魔道コンロが無いの?」
僕ね、昔はお金がないから魔道コンロが買えないって思ってたんだよ。
でも今はお父さんもお母さんもお金をいっぱい持ってるって知ってるもん。
何で魔道コンロが僕んちにないのか不思議に思ったんだよね。
「そう言えばなんでないんだろう? ルディーンは作れないの?」
それを聞いたキャリーナ姉ちゃんも、おんなじように思ったみたい。
だから僕に魔道コンロは作れないの? って聞いてきたんだ。
「前に読んだ魔道具の本に作り方が書いてあったから、おっきな魔石があれば作れるよ」
「おっきなってどれくらい?」
「う~ん、ここにあるのやお店のだったらブラウンボアくらいのがいるけど、お家で使うちっちゃなのだったらブラックボアくらいの大きさの火の魔石でも作れるんじゃないかなぁ?」
お家で使うんだったらそんなにおっきな火が出なくっても大丈夫でしょ。
だからブラックボアの魔石くらいの大きさでも大丈夫なんじゃないかなぁ?
「ルディーンって、普通の魔石を火の魔石に変えられるんでしょ。だったらお母さん、ルディーンに作ってもらおうよ」
キャリーナ姉ちゃんがそう言うとね、お母さんはちょっと困ったようなお顔でそれがダメなのよって言ったんだ。
「え~、なんで? お母さんも魔道コンロがあったらいいって思うんでしょ?」
「それはそうなんだけど、うちの村は魔道コンロは買ってはいけないことになっているのよ」
これを聞いた僕とキャリーナ姉ちゃんはびっくり。
「グランリルの村で魔道コンロを使うと危ないの?」
「いえ、そういう訳じゃないのよ。実は魔道コンロって、使うのにすごく魔道リキッドを消費するの」
魔道具って、使うのに魔道リキッドっていうのがいるでしょ。
魔道コンロは他の魔道具よりもそれをいっぱい使うから、村じゃ使っちゃダメって村長さんが言ってるんだよって教えてくれたんだ。
「魔道コンロって火が出るでしょ。魔石ってその属性、例えば氷なら冷やすとか火なら熱くするとか、そう言うのにはあまり魔力を使わないみたいなんだけど、火を出すような現象を起こそうとすると魔力を多く消費するらしいのよね」
「そっか、だから魔道リキッドをいっぱい使うんだね」
いくら魔道リキッドをいっぱい使うからって、僕の村の人たちだったら買うお金くらいはあるんだって。
でもイーノックカウみたいなおっきな街に来ないと、魔道リキッドは買うことができないでしょ。
だから村長さんは、魔道リキッドをいっぱい使う魔道コンロは買っちゃダメって言ってるんだってさ。
「そっかぁ。そう言えば村長さん、前に魔道具をいっぱい作っちゃダメって言ってたもんね」
「ええ。この頃はただでさえ魔道リキッドの消費量が増えてきてるのに、ここでさらに魔道コンロをルディーンに作ってもらったりしたら怒られてしまうわ」
だからうちでは魔道コンロは使えないのよって笑うお母さん。
それを見てキャリーナ姉ちゃんはそうだねって笑ってんだけど、僕はそこで頭の隅になんかが引っ掛かったんだ。
「ほんとに魔道コンロ、僕んちじゃ使えないのかなぁ?」
「あっ、そっか。私やルディーンが魔石に魔力を込めたらお家でも使えるよ!」
とってもいいことを思いついたって大喜びのキャリーナ姉ちゃん。
でもね、お母さんはダメよって言うんだ。
「キャリーナ。うちの村で魔法を使えるのはあなたとルディーンだけでしょ。ということはうちだけが魔道コンロを使えるってことになってしまうじゃない。そんなことになったら、ご近所さんたちはどう思うかな?」
「そっか、きっとずるいって言うよね」
魔法が使える人がいっぱいいたらそれでもいいんだけど、魔石に直接魔力を入れられる人がいるのは僕んちだけだもん。
だからお母さんは、できるからと言ってやっていいことじゃないよって僕とキャリーナ姉ちゃんに教えてくれたんだ。




