710 ゴブリンの村をやっつける日が決まったんだって
ニコラさんたちがお父さんに剣を教わったり、お母さんにお料理を教わったりしはじめてから何日か経った頃。
お昼ご飯を食べ終わって家族みんなでゆっくりしてたら、お父さんがお話があるよって言ったんだ。
「ゴブリンの村をやっつけに行く日、決まったの?」
「ああ、ギルドから連絡が来た。やっと攻略メンバーが固まったらしいな」
さっき冒険者ギルドの人が来て、明後日やっつけに行くよって教えてくれたんだって。
でもお父さんは、できたらもうちょっと後の方がよかったなぁって言うんだよ。
「なんで? 早くやっつけた方がいいんじゃないの?」
「それはそうなんだが、ユリアナちゃんとアマリアちゃんの準備がな」
ニコラさんはお母さんがちゃんと剣を振れるようになってきたよって言ってたでしょ。
でもユリアナさんとアマリアさんは、ゴブリンをやっつけに行くのならもうちょっと練習してからの方が良かったんだけどなぁってお父さんは言うんだ。
「低ランクの冒険者に比べたら、あの二人の方がもう腕は上だろう。だが今回はCランク以上の冒険者が中心メンバーだからなぁ」
「そう言えばギルドマスターのお爺さんがそんなこと言ってたね」
それなら僕もCランクだから行けるかなって思ったんだけど、お母さんがダメって言うんだよね。
僕のすっごい魔法、一度にいっぱいやっつけられるから絶対行った方がいいと思うんだけどなぁ。
お母さんにもそう言ったんだけど、それを教えてあげてもやっぱりダメって言うんだもん。
僕もCランクなのに……。
「やっぱり危ないと思う?」
今までのお話を聞いて、お母さんがそう聞いたんだよ。
そしたらお父さんは、俺一人だと狭い洞窟内では三人をかばいきれない可能性があるからなぁって。
「ゴブリンの集落がある洞窟に入るのは俺たちだけじゃない。ほかの冒険者もいるから、そいつらの動き次第では危険が迫った時、数秒だけでも自分でしのいでもらわないといけないんだが」
「そう考えると、確かに不安が残るわね」
洞窟って暗いでしょ。
だから狭いとこに隠れてたゴブリンがいきなり襲ってくると、Cランクの冒険者でもあわてちゃうことがあるんだって。
そしたらみんな混乱しちゃうから、ユリアナさんたちがお父さんと離れちゃうことがあるかもしれないもん。
それでもすぐに助けには行けるそうなんだけど、それでもちょっとの間はゴブリンと戦わないとダメでしょ。
その時相手が1匹か2匹なら大丈夫だけど、もっと多かったらユリアナさんたちだと心配なんだって。
「やっぱり私も行こうか?」
それを聞いたお母さんは、一緒に行ってあげようかって言ったんだよ。
でもお父さんが、それはダメって。
「ルディーンやキャリーナを街に残して行くんだから、シーラも残らないとダメだろ」
「それなら僕もいっしょに行くよ! そしたらお母さんもいっしょに行けるでしょ」
「「それはダメだ(よ)」」
ちぇっ。
お父さんたち二人でダメって言わなくったっていいじゃないか。
そう思った僕はちょっとしょんぼりしたんだけど、そこで思い出したんだよ。
「そうだ! 冒険者ギルドでニコラさんたちはお外に居て、中から逃げてきたゴブリンを弓でやっつけたらいいって言ってたでしょ。ユリアナさんとカテリナさんはそれをやればいいんじゃない? そしたら洞窟の中に入らなくてもいいし」
僕はいい考えでしょっていったんだけど、お父さんはそれはそれで問題があるんだよって言うんだ。
「なんで? お外は明るいから、隠れてるゴブリンに襲われないでしょ」
「隠れているゴブリンはいないが、集落の外で森を見張っているゴブリンはいるだろ」
僕たちがゴブリンの村を探してる時も、離れたとこで見張ってるゴブリンがいたでしょ。
冒険者さんたちが村をやっつけに行ったら、きっと大騒ぎになるもん。
そしたらそれに気が付いて、その見張りのゴブリンたちが帰ってくるよってお父さんは言うんだ。
「集落に突入する連中と違って、外で待機するのは低ランクの冒険者ばかりだからな。場合によっては洞窟の中より危険になる可能性もあるんだ」
「そっかぁ、お外も危ないんだね」
洞窟の中なら一緒にいるお父さんが守ってくれるけど、お外にいると誰も守ってくれないでしょ。
だからユリアナさんたちをお外に残してくのは反対なんだって。
「シーラが言うには弓の腕も上がっているそうだし、本当なら突入部隊には加わらずに外で遊撃のようなことをしてもらった方がギルドとしてはありがたいんだろうけどな」
「ゆうげきってなに?」
「ああ、遊撃っていうのはどこか一か所にとどまらずに、移動しながら攻撃する役目のことだよ。この場合、戻ってくる見張りのゴブリンを動き回りながら狩っていく連中のことだな」
さっきお父さんも言ってたけど、お外で待ってるのはあんまり強くない人たちばっかりでしょ。
だから見張りに出てるゴブリンが一度にいっぱい戻ってくると、危ないかもしれないんだよね。
そんなことが起こらないように、戻ってくるゴブリンをやっつける人をユリアナさんたちにやって欲しいなぁってギルドマスターのお爺さんが思ってるかもしれないんだって。
「でも、そんなことしたら危ないんじゃない?」
「ああ、間違いなく危ない。だからユリアナちゃんたちだけにやらせるわけにはいかないんだ」
この場合、強い冒険者さんが一緒に行ってくれるならその人が先に突っ込んで、ユリアナさんたちは遠くから弓を射ればいいんだって。
でも、そういう強い冒険者さんたちはみんなゴブリンの村をやっつける方に行っちゃうでしょ。
だからゆうげきってのに行くとなると、弱っちい冒険者さんと組まないとダメだもん。
その冒険者さんたちがもしゴブリンに負けちゃったらユリアナさんたちも危ないから、それはダメなんだよってお父さんは教えてくれたんだ。
「お父さん。やっぱり僕も行っちゃダメ? 僕だったら遠くからゴブリンを見つけられるし、ユリアナさんたちより強いから危なくないよ」
「だからダメだって」
笑いながら何度言ったら解るんだ? っていうお父さん。
う~ん、やっぱり僕が一緒に行った方がいいと思うんだけどなぁ。
「ルディーンはまだ小さいんだから、お父さんが許すわけないだろ」
そんなこと考えてたら、ディック兄ちゃんに笑われちゃったんだ。
でね、お兄ちゃんは続けてお父さんに言ったんだよ。
「それなら俺が一緒に行くよ。武器屋めぐりも飽きて来たし」
「ディックが?」
ディック兄ちゃんはイーノックカウの冒険者さんたちより強いでしょ。
だから一緒に行けば、ユリアナさんたちも安全でしょって言うんだよ。
「ああ、それなら僕もいっしょに行くよ。ディック兄さんと二人で前衛をやれば、まさかの事故も起こらないだろうし」
それにテオドル兄ちゃんまで一緒に行くって言いだすんだもん。
それを聞いたお父さんとお母さんは、お兄ちゃんたちなら安心して任せられるよねって。
「ギルマスにそう提案するかな。ニコラちゃんは俺と二人で組んで洞窟組ってことで」
「かなり喜ばれるんじゃない?」
お父さんたちはそう言ってニコニコしてるんだよ。
でもね、
「お兄ちゃんたちが行くなら僕も行きたい!」
お父さんだけじゃなくってお兄ちゃんたちも行くんだったら、男の子でお留守番なのは僕だけだもん。
そんなのいやだから、両手をあげて僕もいっしょに行くって言ったんだよ。
だけど、お父さんのお返事はさっきとおんなじ。
「ルディーンはまだ小さいんだから、シーラと一緒にお留守番だ」
ちぇっ。




