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700 ニコラさんたちの武器、どうしよう

「しかし、困ったな。流石に今から打ってもらうには時間がなさすぎる」


 ニコラさんたちの武器、洞窟の中で使ったら折れちゃうかもしれないことが解ったでしょ。


 だからいいものにしなきゃダメなんだけど、今から鍛冶屋さんに行っても作ってもらうのは無理なんだって。


「どうするの?」


「店で売られているものを買うしかないだろうが、どこが質のいいものを扱っているかなんて知らないからなぁ」


 お父さんは自分の使う武器をグランリルで作ってもらってるし、イーノックカウに来た時に欠けちゃったりした時は鍛冶屋さんに行って直してもらってるみたい。


 だから武器を売ってるお店にはあんまり行ったことがないそうなんだ。


「そうだ。シーラはどこかいい店を知らないか? 昔はイーノックカウで冒険者をしていたんだし」


「私がイーノックカウで剣を使っていたのは、まだ駆け出しの頃だけですもの。この子たちが使っているのと大して変わらない武器しか使ってなかったわよ」


 お母さん、途中から武器を弓にしちゃったでしょ。


 だからいい剣を売ってるお店なんか知らないよって言うんだ。


「困ったな。いっそ一度冒険者ギルドに戻って、ギルマスの爺さんにでも聞いてみるか」


「やめておいた方がいいわ。今頃冒険者ギルドはゴブリンの集落攻略のための準備で、多分それどころじゃないと思うわよ」


 わざわざルルモアさんに、領主様の所までお金出してって頼みに行ってねってお願いしてたくらいだもん。


 僕たちが帰った後は、そのお仕事で大変なんじゃないかな?


「困ったな。イーノックカウを拠点にしている腕の立つ冒険者なんて、知り合いにいないし」


「ルディーンの知り合いも、お金持ちのロルフさんや錬金術ギルドのバーリマンさんくらいですものね」


「そうだ! クリームお姉さんは? 強い冒険者さんだったんでしょ?」


 クリームお姉さん、筋肉ムキムキだもん。


 きっとすっごい武器を振り回してたんじゃないかなって思って聞いてみたんだよ。


 でもお母さんは、クリームお姉さんはダメだよって。


「えーなんで?」


「だってクリームさんの狩りは、ナックルガード付きのガントレッドで魔物を殴り殺すってやり方ですもの。剣なんて使っている所を見たことがないわ」


 クリームお姉さんって、魔物を見つけると真っ先に突っ込んでって頭を殴り飛ばすっていう戦い方をしてたんだって。


 それを聞いた僕は、オホホホホって笑いながらブラックボアをガーンって殴り飛ばすところを想像しちゃった。


「クリームさんにガーンてやられたら、強い魔物でも簡単に死んじゃいそう」


「まだ冒険者をやっていたころ、イーノックカウの森の奥にいるクリスタルディアって言うシカの魔物を殴り倒したせいで、一番高く売れるツノが折れてるから報酬が引かれちゃったじゃないかって仲間から怒られている所を見たことがあるわ」


 クリスタルって名前が付いてるくらいだから、きれいなツノなんだろうなぁ。


 わざわざ森の奥までそれを取りに行ったのに、折っちゃったら怒られちゃうよね。


「おいおい、クリスタルディアの角と言ったらブラウンボアの頭の骨並みに硬いって話だろ。それを叩き折るって、どれだけのパンチ力があるんだ」


「とにかくすごい威力らしいわよ。だから引退して裁縫ギルドのマスターになるって言った時は、ギルマスが頼むからやめてくれと縋りついたって話」


 イーノックカウには強い冒険者さんがいないからいっつも困ってるんだよって、前にルルモアさんが言ってたもん。


 そんなに強かったんなら、やめないでって言われるのも当たり前だよね。


「だが、そんな戦い方をしていたのなら、武器屋なんか知らないだろうな」


「ガントレッドは防具屋の管轄ですものね」


 クリームお姉さんも多分知らないってお話になって、困ったなぁってしょんぼりするお父さんたち。


 それを見たキャリーナ姉ちゃんが、頭をこてんって倒しながら聞いたんだよ。


「お兄ちゃんたちに聞くのはダメなの?」


「ディックたちに?」


「うん。だってお兄ちゃんたち、イーノックカウに来るといっつも武器屋を見に行くって言って出てくでしょ。だから知ってるんじゃないかな?」


 そう言えばお兄ちゃんたち、僕やお母さんたちが甘いものを食べに行く時も一緒に行かないで武器を見に行くって言ってたもん。


 だからどっかいいとこを知ってるんじゃないかな?


「ディックたちが見に行っている武器屋かぁ」


「確かにいい所は知っているだろうけど、結構いいお値段がするでしょうね」


 お父さんたちもね、ディック兄ちゃんたちが武器屋を見て回ってることはすぐに思い出したんだって。


 でも、行ってる武器屋が問題なんだよって言うんだ。


「もしかして、すっごいお店なの?」


「グランリルの鍛冶屋が作った武器を使ってるディックたちがわざわざ見に行く店だぞ。そこらの武器屋な訳ないだろう」


 そういえば僕たちが使ってる武器って、いい鋼をグランリルの鍛冶屋さんがトンテンカンして作るすっごくいいものだもん。


 それなのに、あんまりいいものが売って無い武器屋さんなんてお兄ちゃんたちが見に行くはずないよね。


「商会のお偉いさんや貴族の中には、武器をコレクションしている奴らもいるんだ。ディックたちが見に行っている武器屋は、そういう連中が買うようなものをそろえている店なんだよ」


「さすがに魔法剣は扱っていないけど、魔石や宝石に刻んだ魔法陣で切れ味をあげていたりミスリルなんかの特殊な金属を使った武器を売っていたりするのよ」


 ミスリルって、僕でも知ってるくらい有名な魔法金属だもん。


 そんなのを使った剣なんて、すっごく高いんじゃないかな?


 そう思ったのは僕だけじゃなくって、お話を聞いてたニコラさんたちは大慌て。


「そんな武器、使うどころか持つだけで震えちゃいますよ」


「それどころか、見るだけで目がつぶれそう」


 買うとか買わないとか言う前に、そんなの怖くて触れないよって言うニコラさんたち。


 そう言えばロルフさんの馬車も怖くて乗れないって言ってたもんね。


 それなのに、お父さんたちでも高いっていうような武器なんて使えるはずないよ。


「お父さん。ミスリルはダメだと思うよ」


「言われなくても、さすがに選択肢には入らないよ。買おうと思ったら短剣でも金貨数百枚はするだろうからな」


 金貨って一枚でも前の世界で言う10万円くらいの価値があるんだよね。


 ってことは短剣なのに1本5~6000万円くらいってこと?


 そんなの、僕でも怖くて振り回せないよぉ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 戦闘民族であるグランリルの村の人たちは、常日頃から高く売れる魔物を狩っています。


 そのおかげで普通の冒険者では高くてとても買えないものでも、ちょっとやりくりすれば買える可能性があったりするんですよね。


 お金持ちしか相手にしないコレクター向けの高級武器屋にもそれはよく知られているので、グランリルの人は何の問題もなく入れてもらえるという訳です。


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
取り回ししやすいショートスピアとかも考えないと。 っていうか、ルディーンがひとっ走りグランリルの鍛冶屋に行けばいいのでは? 転移魔法ならさほど時間もかからないのだし。(ただし、言い訳とか考えないといけ…
ちょうどいい武器屋 結構探すの大変かも!
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