691 もしかしたらって思うことが二つあるんだって
「治癒の魔力?」
「うむ。神官などが使う、キュアなどのケガを治す魔法。その効果らしき魔力がこの宝石に付与されておるようなのじゃよ」
ロルフさんはそう言うと、黄色い宝石を渡してくれたんだよ。
「その宝石をすかして見てごらん」
僕は言われた通り、その宝石を覗き込んでみたんだよ。
「あっ、魔石みたいに宝石の真ん中がぼぉっと光っている」
魔石って透かして見ると、中が魔力で光ってるでしょ。
この黄色い宝石、それとおんなじような光が中に入ってたんだ。
「宝石が黄色いから何色の魔力価値と解りづらいが、変色が認められないということは白い魔力。すなわち治癒の魔力が込められておるようなのじゃ」
ロルフさんはそう言ったんだけど、僕、神官さんたちが使う魔力の色なんて知らないもん。
だから黄色い宝石に鑑定解析をかけてみたんだよ。
そしたらほんとに治癒の魔力って出て来たもんだから、びっくりしたんだ。
「ほんとだ。治癒って出てる」
「ルディーン君、解るの?」
それを聞いて、今度はルルモアさんがびっくりした声を出したんだ。
だから僕、鑑定解析で調べたんだよって言おうとしたんだけど、
「ルディーン君は錬金術師でもあるもの。解析が使えるから、それで調べたのだと思いますわ」
その前にバーリマンさんがこんなこと言うんだもん。
でも、僕が使ったのは鑑定解析でしょ。
そのことを教えてあげなきゃって思ったんだけど、そこでロルフさんに肩をポンポンって叩かれたんだ。
「どうしたの、ロルフさん?」
だからどうしたのって聞こうとしたんだけど、そしたらロルフさんがお口に人差し指を当ててシーってやってるんだもん。
それを見た僕は、慌ててお口に両手を当てたんだ。
「うむ、前に約束したことを忘れてはおらなんだようじゃな」
にっこりしながら、ちっちゃな声でそういうロルフさん。
そう言えば鑑定解析はナイショにしないとダメなスキルなんだっけ。
ルルモアさんに聞かれなかったかな? ってちょっと心配したんだけど、バーリマンさんとお話をしてたおかげで気が付いてないみたい。
それを見た僕は、よかったって思いながらロルフさんにちっちゃな声でナイショだもんねって笑ったんだ。
「しかし、どうしてそんなことが起こったのでしょう? ルディーン君は、ただクリエイト魔法を使っただけですよね?」
ルルモアさんの言う通り、僕はいつもとおんなじようにクリエイト魔法を使っただけなんだよね。
なのにこの黄色い宝石の時だけ治癒の魔力がつくのは変でしょ。
だから頭をこてんって倒してたんだけど、そしたらロルフさんがこんなこと言いだしたんだ。
「考えられる理由は二つ。一つはこの宝石の輝きからの連想した可能性じゃな」
それを聞いても、みんなよく解んなかったみたい。
だからバーリマンさんが、どういうこと? って聞いたんだよ。
「連想ですか?」
「うむ。この宝石を加工する前に、光をすかして影を作っておったな。そのことが過去の記憶と結びついて、治癒の魔力が無意識下で発動したのかもしれぬのじゃよ」
「宝石の影を見たことで、そのようなことが起こり得るのでしょうか?」
「大人であれば、まずそのようなことは起こらぬ。しかし、ルディーン君くらいの子は感受性が高いからのぉ」
宝石ってキラキラしてるでしょ。
ロルフさんは僕がそれを思い浮かべながらクリエイト魔法を使ったもんだから、この魔力の光が中に入っちゃったんじゃないかなぁって言うんだ。
「ルディーン君は前に家族と大神殿に行ったそうじゃからのぉ。あそこは多くの場所が金で装飾されておるじゃろ。それがこの黄色の宝石の光と無意識下でつながり、治癒の力が無意識のうちに混ざり合ったのではないかと考えられる。なにせこの子は、この歳からは考えられぬほどの高い治癒魔力を持っておるからな」
「そっか。大神殿の中って壁とかもそうだけど、天井に書いてある絵まで金ぴかだもんね」
僕は前にお母さんたちと行ったイーノックカウの大神殿のことを思い出して、うんうん頷いたんだよ。
「うむ。あれは大神殿に祭られておる神々の力や慈悲を目に見える形で表そうとしておるのじゃ。その光景が深く、君の心の中に焼き付いておったのやもしれぬな」
「なるほど。それは確かに考えられる話ですね」
ロルフさんのお話を聞いて納得したようなお顔をするバーリマンさん。
でもすぐにあれ? ってお顔をして聞いたんだよ。
「伯爵。考えられる原因は二つあると仰いましたわよね? もう一つは何なのですか?」
「そのことなのじゃが……」
ロルフさんはちょっと考えた後で、なんでかちょっと離れたとこにいるイザベルさんの方を見ながらこう言ったんだよ。
「ここにはギルド幹部だけでなく部外者もおるが、まぁ聞かれたところでたいした害はなかろう」
「えっ、私?」
みんなのお話しに混ざらずにずっと隅っこにいたイザベルさんは、急にそんなこと言われてびっくり。
「わっ、私は出て行った方が……」
「いや、よい。ルディーン君との縁ができたのじゃから、多分これからもこのようなことがあるじゃろうからな」
ロルフさんはほっほっほって笑いながら、今度はバーリマンさんの方を見たんだよ。
「もう一つの可能性なのじゃが、もしかするとルディーン君自身が持つ特性ゆえの現象なのかもしれぬ」
「特性ですか? でも、治癒の魔力が関係する特性なんて聞いたことがありませんが」
「そうじゃろうな。わしも聞いたことが無いからのぉ」
ロルフさんにそう言われて、ぽかんってお顔をするバーリマンさん。
「これ、そんな顔をするでない。聞いたことは無いが、ギルマスもその現象が起こったものを知っておるではないか」
そう言われても、何のことか解らないってお顔のバーリマンさん。
ロルフさんはね、それを見てヒントを出してあげたんだ。
「よく思い出してみるのじゃ。この宝石の他にも、ルディーン君が意図せず治癒の魔力を込めたものがあるではないか」
「治癒の魔力を込めたもの……あっ、肌と髪のポーション」
「うむ、正解じゃよ」
バーリマンさんがあてたのがうれしかったのか、ニコニコしながら頷くロルフさん。
「実際のところ、そのどちらが正解なのかは検証してみなければ解らぬ。しかしルディーン君が無意識下でも治癒の魔力を込めることがあるというのは、あのポーションが証明しておる。そのことを考えると、今回のこれもそれほど驚くことではないのではないかな」
「そうですわね。本来の用途として考えれば、宝石に込めるのは利用できる魔法陣に刻んだ治癒魔法であるはず。それが治癒の魔法効果自体の魔力である時点で、あの二つのポーションとも合致しますから」
それが解っても、一応どっちが合ってるのかは調べないとダメみたい。
「そんな訳で、ルディーン君。すまぬが一つ、実験に付き合ってもらえるかな」
ロルフさんはそう言うと、さっきバーリマンさんが選んだ残りの原石をちらっと見たんだ。




