677 きれいな形の宝石は作るのが大変なんだって
2月14日に転生0の3巻が発売になります。
今回も初版には限定特典の書下ろしをつけて頂けたので、皆様よろしくお願いします。
僕が作ったちっちゃな青い宝石。
それを見てきれいねって言ってたお母さんが、キャリーナ姉ちゃんにこう言ったんだよ。
「キャリーナ。これはさすがに良い物すぎるから私に……」
「だめ! 私のだもん」
さっきキャリーナ姉ちゃんが心配してたけど、お母さんは本当に自分が欲しいって思っちゃったみたい。
でもお姉ちゃんにダメって言われたもんだから、しょんぼりしちゃったんだ。
そしたらさっきまでお母さんと一緒に騒いでたルルモアさんが、こんなこと言いだしたんだよ。
「これほどの宝石となると、子供に持たすのは少々危ないんじゃないかな?」
「私がもらったんだもん。ルディーンも、私のを作るって言ったよね?」
「うん。お母さんもルルモアさんも、キャリーナ姉ちゃんのをとっちゃダメ」
そういうお約束だったんだから、きれいだから欲しいってのはダメだよね。
そう思った僕は、お母さんとルルモアさんをコラーって怒ったんだ。
そしたらさ、それを見てたバーリマンさんがこんなこと言ったんだよ。
「これを取り上げるなんてことはしないけど、一つ約束してほしいことがあるの」
「お約束?」
「ええ。大きくなるまで、人には決して見せないこと。小さいとはいえ、これほどの輝きを放つ宝石だと悪いものを引き寄せる可能性があるからね」
悪もんはきれいな宝石とかが大好きでしょ。
キャリーナ姉ちゃんがこれを持ってるって知ったら寄って来ちゃうかもしれないから危ないんだって。
「お姉ちゃん、大変だ! 悪もんが来るかもしれないんだって」
「それじゃあ、隠しとかないとダメね」
キャリーナ姉ちゃんはペンダントトップにしてって言ってたけど、作っちゃったらつけてお外に出たくなっちゃうでしょ。
だからこれは宝石のまんま、お姉ちゃんが大きくなるまで取っておくことになったんだ。
「ところでルディーン君。この宝石のカットのことなんだけど」
「カットって何?」
僕はよく解んなくって頭をこてんって倒したんだよ。
そしたらバーリマンさんはちょっと苦笑い。
「ああ、そうよね。宝石のことなんてルディーン君が知っているはずないのに」
ほっぺたに手を当ててそう言った後、そのカットってののことを教えてくれたんだ。
「宝石は原石から削りだしたものを砥石というもので形を整えたり磨き上げたりしてきれいな形するの。それをカットっていうのよ」
「そうなのかぁ」
バーリマンさんはね、僕が作ったあのカット? ってののことでお話があるんだよって。
「あのカットは、多くの三角や四角で構成されているでしょ。でもあれほどの細かいカットは、現在の技術ではかなり難しいのよ」
「宝石の職人さんでも、できないの?」
「これほど小さなものでは、腕のいい職人でも無理でしょうね」
バーリマンさんが言うにはね、おっきな原石があればできるかもしれないんだって。
でもそんなのはすっごく高いでしょ。
みんなちっちゃな宝石しか持ってないから、あの形にするのは難しいんだって。
「ルディーン君が見本にした、鉄の宝石くらいの大きさがあれば簡単なのでしょうけどね」
そう言ってテーブルの上に置いてある、宝石の形をした鋼の玉を見るバーリマンさん。
あれはいつものを二個くっつけて作ったもん。
だからおっきなビー玉くらいの大きさがあるんだよね。
もしそんなおっきな宝石があったらできるよって言ってたけど、そんなのすっごいお金持ちしか買えないんじゃないかなぁ。
その考えはあってたみたいで、バーリマンさんはそんなものは私でも見たことないけどねって笑ったんだ。
「それに小さなものでも、もし失敗してしまったらせっかくの宝石がダメになってしまうでしょ。誰も新たな挑戦をしようとしないから、あまり変わり映えしないカットしか見かけないのよ」
「そう言えば比較的安い水晶でも、元々の形のまま磨いただけのものが多いですよね」
バーリマンさんのお話を聞いて、お母さんもそう言えばそうねぇって。
そしたらそれを聞いたルルモアさんがそうか!って言って、両手をパンって合わせながらにっこり。
「もしかして、その挑戦をルディーン君にやってもらいたいというお話ですか?」
「挑戦も何も、現物を創り出してくれいているではありませんか」
バーリマンさんはね、そうじゃなくってもうちょっとおっきな宝石をこの形にして欲しいのよって言うんだ。
「実物を目にすれば、このカットの素晴らしさが伝わるもの。腕のいい職人ならこの形に近づけようと努力し、いずれは達成してくれると思うのよ」
でもね、それを聞いた僕は頭をこてんって倒したんだよ。
「だったら、これとおんなじくらいのでいいんじゃないの?」
見本があればいいなら、僕がキャリーナ姉ちゃんに作ってあげたのとおんなじくらいの大きさのでもいいでしょ。
青いのはもうおっきなのがないけど、緑のならこれよりちょっとだけちっちゃいのがあるもん。
だからそれじゃダメなの? って聞いてみたんだ。
そしたらバーリマンさんが、それじゃダメよって。
「さっきも言ったけど、こんな小さな宝石をこれ程の精度でカットするなんて、帝国一の職人でも難しいの。そんなものが世に出たらどうなるか」
「誰が作ったのかと、大騒ぎになるでしょうね」
もしそんなのを職人さんのとこに持って行ったら、悪もんが僕のところに来るかもしれないんだって。
だから職人さんでもがんばれば作れるって言うくらいのおっきさの宝石じゃないとダメなんだってさ。
「数が出回れば、いずれは技術も向上することでしょう。だからキャリーナちゃんが大きくなる頃には大丈夫だろうけど、今はまだ外に出してほしく無いというのはそういう理由もあるのよ」
誰も作れ無いものを持ってたら、それどうしたの? ってなるもん。
だから悪もんだけじゃなくって、お金持ちや貴族様みたいな偉い人もよってきて大変なことになっちゃうんだって。
そうならないように、今のうちにいろんな形の宝石を作っておいた方がいいんだよってバーリマンさんは教えてくれたんだ。
「そういう訳だから、ルディーン君。宝石の原石を用意させるから、カットをお願いできないかしら」
「うん、いいよ」
キャリーナ姉ちゃんのとこに悪もんが来ちゃったら大変だもん。
だから僕、いいよってお返事したんだ。
でもね、そこでロルフさんが目を細めながらこんなこと言ったんだよ。
「ギルマスよ。まさか自分のアクセサリーのために作らせようと考えておるわけではあるまいな?」
「えっ? そっ、そんなことはありませんよ」
バーリマンさんはちょっと慌てたようなお顔になってそう言ったんだけど、ロルフさんは許してくれなかったんだ。
「ならば職人が作れるようになるまでは、ルディーン君が作った見本を外に出すことはならぬぞ。騒ぎになると困るのであろう?」
「はい、解りました……」
しょんぼりしながらそう答えるバーリマンさん。
ロルフさんはそれを見ながら長いお髭をなでると、楽しそうなお顔でカッカッカッて笑ったんだ。




