672 これは孤児院で作ったのに似てるけど違うもんなんだよ
私のもう一つの作品、「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」もよろしくお願いします。
https://book1.adouzi.eu.org/n1737jf/
テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
ルルモアさん、僕が作った小っちゃいボーリングをすっごく気に入ったみたい。
だからさっきからずっと遊んでたんだよ。
そしたらさ、僕たちのいるお部屋のドアが急にガチャって開いたんだ。
「邪魔をする。ルディーン君が何やら新しいものを作ったと聞いたのじゃが」
「あっ、ロルフさんだ。こんにちわ!」
だからドアの方を見たんだけど、そしたらロルフさんが入ってきたんだよ。
それにね、一緒に来たのかその後ろからバーリマンさんも入ってきたんだ。
「これはこれは、フランセン老と錬金術のギルドマスター。よくぞおいでになられた」
それを見たギルドマスターのお爺さんは、立ち上がってご挨拶。
でもルルモアさんは、ちょっと不思議そうなお顔をしたんだ。
「どうしたの? ルルモアさん」
「いえ、使いに出した者がいっしょじゃなかったから」
ルルモアさんはね、ロルフさんを呼びに行った人がいっしょにいなかったからあんなお顔をしてたんだって。
そしたらさ、それを聞いたロルフさんが笑いながら教えてくれたんだ。
「ああ、わしが案内はせずとも良いと言ったのじゃよ」
「伯爵は、ルディーン君が作ったものを早く見たかったのですよね」
ギルドの人と一緒に来ると、まずその人がギルドマスターのお爺さんに来たよって言いに来ないとダメでしょ。
ロルフさんはそんなことより早く僕の作ったものを見たかったから、このお部屋の場所を聞いてさっさと来ちゃったんだってさ。
「それで、ルディーン君が作ったというのはその大きな板のような物かな?」
ルルモアさんの前に置いてあるボーリングゲームを見てそういうロルフさん。
でも、ギルドの人がロルフさんを呼びに行った時にはまだこれ、作ってなかったでしょ。
だから僕、違うよって言おうとしたんだけど、その前にギルドマスターのお爺さんが言ってくれたんだ。
「フランセン老をお呼びしたのは、孤児院で何やら新しい遊具を作ったと報告があったからで、これは違うのです」
「ふむ。ならばこれは誰が作ったのかな?」
「僕だよ」
そう答えると、不思議そうなお顔になるロルフさん。
そのままギルドマスターのお爺さんの方を見たもんだから、ルルモアさんが慌てて教えてあげたんだ。
「これはルディーン君が作ったという遊具のミニチュアです。本物はもっと大きいそうでして」
「これを大きくしたもの?」
そう言ってボーリングゲームを見るロルフさん。
「どれくらいの大きさになるのかは解らぬが、物によってはかなりの場所を取りそうに思えるのじゃが」
「違うよ。作ったのはボールを転がす台とこっちの棒だけだもん」
ボールを転がす板はこれで遊べるように作ったんだよって教えてあげると、ロルフさんは納得したみたい。
「なるほど。この鉄の玉を入れる道具と、それで倒す変わった形の棒の大きなものを作ったのじゃな」
「違うよ」
僕が作ったのは木の玉を転がす台と、木の輪っかを入れる棒だもん。
だから違うよって教えてあげたんだけど、ロルフさんはまた不思議そうなお顔になっちゃったんだ。
「……先ほど、そう教えてもらったと思うのじゃが」
「えっと、ルディーン君。ここからは私が説明するわ」
そんな僕たちを見たルルモアさんが、大慌てで僕が何を作ったのかを教え始めたんだ。
「基本はこれを大きくしたものらしいのですが、球は鉄ではなく木製で、この棒も別の形をしているそうです」
「実物を見たことがあるのは……イザベルさんと言ったか。その他にも、いくつかの遊具を作ったとのことであったな?」
「ひゃいっ!」
ルルモアさんに続いて、ギルドマスターのお爺さんがイザベルさんに聞いたんだよ。
それが急だったからなのか、イザベルさんはビクッてなって変なお返事をしちゃったんだ。
「そっその他には子供たちが滑って遊ぶ遊具や、木で作った輪を投げて棒に通す遊具を作ってくだしゃりましたです」
「これこれ、そう緊張せずとも良い。言葉が変になっておるぞ」
ギルドマスターのお爺さんは、そんなイザベルさんに大丈夫だよって。
でもイザベルさんは、それを聞いてもびしって感じで立ったままだったんだ。
「この調子では、話は聞けそうにありませんね」
「うむ。実物はまた後日、見せてもらいに行くとしよう」
そんながちがちのイザベルさんに、ロルフさんとバーリマンさんはこれ以上聞いてもしょうがないって思ったみたい。
だからそっちはまた今度にして、別のお話しを始めちゃったんだ。
「ところでこのミニチュアじゃが、なぜ本来のものと違っておるのかのぉ?」
「それはルディーン君が、これ単体でも遊べるようにと作ってくれたのです」
ルルモアさんはそう言うと、実際に遊んで見せてあげたんだよ。
「的である棒をこの木枠を使って立て、それに向かってこの台を使ってボールを転がすことで倒した数を競うゲームなのだそうです」
お話を聞いて感心するロルフさん。
「なるほど。木枠を使うことで、毎回同じ配置で的を並べることができるのじゃな」
「それだけではありません。このゲームのキモは、こちらのボールを転がすための台にあるのです」
ルルモアさんはね、さっきよりちょっとだけ力の入った感じでお話を始めたんだよ。
「台に入れて転がすことで、誰がやっても同じ強さでボールが転がっていきます。そしてこの台の角度も重要で、ほんの少しずれるだけでもうまく的に当たってはくれなくなるのです」
そう言って、実際にやって見せるルルモアさん。
それをロルフさんとバーリマンさんは、興味深そうに見てたんだよ。
「それにです。これこのように真ん中に台を置き、ボールを転がすと頂点の棒に当たりますが全部は倒れてくれないのです」
「ふむ。確かに両端の棒が残ったの」
「はい。ですからほんの少しだけずらしたり、角度をつけたりしなければいけないのですがこれが難しいのです」
なんかね、お話に夢中になってきたからなのかルルモアさんはちょっと怖い感じになってきちゃったんだ。
それを見たギルドマスターのお爺さんは大慌て。
「ルルモア、少々興奮しすぎだ。申し訳ありません、フランセン老」
「いや、大したことではない。その熱の入れようから、これが見た目以上に面白い遊具だというのが伝わってきたほどじゃ」
「そうですわね。ところでルディーン君。一つ聞くのだけれど、この遊具は倒れた棒の数を競うもので合っているの?」
「うん。でもね、一回転がしただけで点数が決まるんじゃないんだよ」
このゲームは一回立てたピンに向かって2回ボールを転がして、その合計で点数をつけるんだよって教えてあげたんだ。
それを聞いてびっくりするルルモアさん。
「そうだったの!?」
「うん。だからただ倒すだけじゃなくって、他のルールもあるんだ」
ボーリングって、一度に全部倒したり二回目に残ったのを全部倒したりしたら、その次の回の点数を足せるって言うルールがあるでしょ。
それを教えてあげると、ルルモアさんだけじゃなくってロルフさんたちもびっくりしたお顔になっちゃったんだ。
「なんと! そのような勝敗を左右する要素が、この一見単純に見える遊具にあったとは」
「ルディーン君。そんな話、さっきはしてくれなかったじゃない」
「だって孤児院で作ったおもちゃの話だったもん。数の計算ができないと意味ないから、お話しなかったんだよ」
僕がルルモアさんにそう言うとロルフさんはちょっとびっくりしながら、でもなるほどぉって感心したんだ。
「確かに、計算ができることを前提にした遊び方ではあるな」
「小さな子供たちはただ棒を倒すだけで楽しめ、大人は計算を必要とするルールの下で競い合う。伯爵、これはかなり考えられたゲームですわよ」
これを発表すればかなり話題になりますよって、ちょっと興奮気味に話すバーリマンさん。
「確かに。知識を競い合うボードゲームは存在するが、このように道具を使ってボールを転がし、さらに計算を持ってその勝敗を決めるというものはわしも聞いたことがない」
「あっ、そうだ! これは木の枠で囲んでるけど、ほんとは両ふちに溝を作らないとダメなんだ。そうしないと、ふちっこに残った棒を狙った時に枠に跳ね返ったのがあたって倒れちゃうなんてことがあるもん」
「なるほど、ずるはできないルールなのじゃな」
このほかにもね、実はちょっとおかしな遊び方もあるんだよ。
僕は前世のテレビってのでやってたある遊び方を思い出して、一人でくすくす笑ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
イザベルさん、貴族であるロルフさんたちがいきなり現れたものだからびっくりです。
そのロルフさんたちですが、ノックも無しに入ってきたのを疑問に思われた方もいると思います。
これはロルフさんが早くルディーン君の作ったものを見たくてあわてたわけではなく、ノックをする必要が無いからです。
そもそもノックというのは中にいる人に入室の許可を採るために必要なものですよね。
しかし貴族であり、元領主でもあるロルフさんは部屋の中にいる誰よりも身分が上なのでそのようなことをする必要がありません。
身分制度から来る、この世界のルールでそうなっているという訳です。
さて、前回も書きましたが、今月は平日に書く時間が取れなさそうです。
ですので今週も金曜日の更新はお休みさせて頂き、次回は来週の月曜日更新となります。




