670 価値観ってのが違うんだって
私のもう一つの作品、「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」もよろしくお願いします。
https://book1.adouzi.eu.org/n1737jf/
テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
お母さんとルルモアさんがお父さんをコラーって叱ってたらね、急にドアが開いてギルドマスターのお爺さんがのそーって入ってきたんだよ。
「応接室が騒がしいからと来てみれば、お前たちか。一体何を騒いでおるのだ」
「ああ、ギルマス。実はですね」
ルルモアさんは僕が寄付金を払ってることと、バーリマンさんがそれが決まった時の説明をお父さんに頼んだのにちゃんとしてなかったことを教えてあげたんだ。
「その際、継続的に寄付金を支払うということさえルディーン君に話していなかったんですよ。だからシーラさんと二人で叱っていたんです。大金なのに何をしているんですかって」
「なるほどのぉ」
それを聞いたギルドマスターのお爺さんはね、しょうがないなぁってお顔をしながらこう言ったんだ。
「それはルルモアが悪い」
「ええっ!?」
これにはルルモアさんだけじゃなくって、僕やお母さんもびっくり。
だってさっきまではお母さんたちが、お父さんが絶対悪いよねって言ってたんだもん。
なのに叱ってる方が悪いなんて言うもんだから、ルルモアさんは怒っちゃったんだ。
「なぜです? 私にどんな落ち度が?」
「落ち度と言うかなぁ」
ギルドマスターのお爺さんはそう言うと、頭をかきながら価値観の違いを理解していないからだよって教えてくれたんだ。
「価値観ですか?」
「うむ。えっと、確かシーラさんはグランリルの生まれではなく、イーノックカウでこやつと知り合ったのだったな?」
急に聞かれたお母さんはちょっとびっくりしたお顔をしたんだけど、すぐにうなずいたんだよ。
「ええ、そうです」
「ふむ。これがグランリルで生まれであったのであれば、今回のような大きなもめ事にはならなかったと思うぞ」
それを聞いたお母さんたちは、何のことだろうってお顔をしてるんだ。
でもギルドマスターのお爺さんはそれを無視して、ルルモアさんにも一つ質問があるよって。
「孤児院への寄付は、金額が決まっておったよな? いくらだ」
「一か所につき金貨10枚、8カ所あるので月に80枚を上限にお願いしています」
それを聞いたギルドマスターの爺さんそうかってうなずいた後、今度はお母さんに別のことを聞いたんだ。
「グランリルでは10歳くらいから森で狩りをすると聞いておるが、その子たちはどれくらいのエモノを獲ることができるのかのぉ」
「狩りを始めたばかりの子ですか? その頃なら親がいっしょに付いて回るので、一度の狩りでビッグピジョンやホーンラビットを2~3匹くらいかな。もう少し大きくなると同じ年ごろの子たちでパーティーを組むようになるので狩れる獲物の数は減少しますけど、それでもすぐにジャイアントラビットくらいなら狩ってくるようになりますね」
お母さんのお話を聞いたギルドマスターのお爺さんは、もう一度ルルモアさんのお顔を見るとこう言ったんだよ。
「わしの記憶では、魔石だけでもビッグピジョンが金貨5枚、ジャイアントラビットにいたっては10枚以上で買い取っておるはず。これに肉や皮など、他の素材が加わればその金額はさらに増えるであろう?」
「えっ? ええ、その通りです」
ルルモアさんのお返事を聞いたギルドマスターのお爺さんはね、ちょっと想像してみなさいって笑ったんだよ。
「まだ狩りを始めたばかりの小さな子供が一度森に入っただけで金貨10枚から15枚稼ぐような環境で生まれ育ったハンスに、高々月に金貨80枚程度の出費をさも大事のように話したところで理解できるはずが無かろう」
「あっ!」
ギルドマスターのお爺さんに言われて、お母さんとルルモアさんは初めて気が付いたみたい。
そう言えば僕もお兄ちゃんたちと初めて狩りに行った時、一緒にジャイアントラビットを狩ったんだっけ。
あの時はお兄ちゃんたち、簡単にやっつけちゃったもん。
きっと近所に住んでる子たちも、おんなじように簡単に狩っちゃうんだろうなぁ。
僕がそんなことを考えてたらね、ギルドマスターのお爺さんがああそう言えばこれも聞いたなって。
「これは先日フランセン老に聞いた話なのだが、前にハンスはブラックボアの魔石を森に行けばただで手に入るものだと言っておったそうだ。して、今の買取価格は?」
「現在は品不足で高騰しているので、税金を引いても金貨80枚を超えます」
あれ、前に聞いた時は50枚って言ってなかったっけ?
そう思ったのは僕だけじゃなくって、お父さんもいっしょだったみたい。
「今、そんなにするのか? ならちょっと森に入って数頭狩って来ればよかった」
「ほらみろ。金貨80枚と聞いても少し残念がるだけであろう。ハンスにとって、金貨80枚の価値などこの程度なのだ」
これを聞いたルルモアさんは納得したみたい。
「なるほど。これは確かに私たちとは認識が大きく違っていますね」
「うむ。これに関しては錬金術のギルドマスターも同じであろうな。いや、冒険者に接する機会などほとんどないだろうから、認識のズレはそれ以上かもしれぬ」
ルルモアさんは冒険者ギルドの人だから、グランリルの村の人たちと会うことも多いでしょ。
でもバーリマンさんは村の人たちどころか、僕やうちの家族以外の冒険者さんたちと会うことだってほとんどないもん。
だからそのバーリマンさんに説明をしてもらったのも悪かったんじゃないかなってギルドマスターのお爺さんは言うんだ。
「寄付の話を錬金術ギルドですることになったのはなぜだ?」
「初めは冒険者ギルドで説明をするはずでしたが、ルディーン君の収入に関する話なら錬金術ギルドで話をした方が良いとフランセン様が判断なされたそうで」
ルルモアさんはそう言うと、イザベルさんの方をちらっと見たんだよ。
そしたらギルドマスターのお爺さんもああ、あの話かって。
「そのような事情であれば仕方がないが、さすがにルディーン君抜きで話をしたのは失敗だったな」
「そうですね。寄付の話はついでではなく、きちんと場を作って話すべきでした」
そう言って反省するルルモアさん。
ギルドマスターのお爺さんはそれを見てそうだなってうなずくと、今度はイザベルさんの方を見たんだ。
「ところでそちらの方はどなたかな? 服装からして神殿から来られたようだが。冒険者ギルドに、いや、カールフェルト家に何か用があっての来訪かのう」
「ああ、この方は第8孤児院の管理を任されている方で」
ルルモアさんがそう言うとイザベルさんは立ち上がって、ペコって頭を下げたんだよ。
「イザベル・ムーアと申します。実はルディーン君に魔法で孤児院の施設を直して頂いたり、子供たちの遊具を作って頂いたりしまして」
僕が魔法でいろんなのを作ってあげたことを教えてあげると、ギルドマスターのお爺さんはちょっとびっくりしたお顔に。
「魔法での修理に、遊具の作成とな。ルルモアよ、この子はそんなことまでできるのか?」
「はい。クリエイト魔法を使えることは聞いております。ねぇ、ルディーン君。遊具って何を作ったの?」
「あのね、最初はちっちゃい子用に積み木を作ったんだけど、僕くらいの子たちが遊べるのも欲しいって言ったから輪っかを投げて棒に入れる遊びとか、木のボールを転がして棒を倒すのとかを作ったんだ」
それにすべり台ってのも作ったんだよって僕が手を振り回しながらこんな感じのやつって教えてあげると、それを聞いたルルモアさんがちょっと難しいお顔に。
「積み木はともかく、他は聞いたことの無い遊具ね。ギルマス。これは……」
「うむ。すぐにフランセン老に知らせた方が良いな」
それを聞いたルルモアさんはペコって頭を下げると、すぐにお部屋の外に出てっちゃったんだ。
そしたらイザベルさんが、ギルドマスターのお爺さんに聞いたんだよ。
「あのぉ~、知らせるとはどのような用件で?」
「ああ、この子が新しく何かを作った時はすぐに知らせるようにと言われておってな。人をやる手配をしたから、待っておればすぐに来るだろう」
そう言って笑うギルドマスターのお爺さん。
「くる? ここに?」
それを聞いたイザベルさんはちっちゃな声でひぃって言うと、そのままへなへなぁって椅子に座り込んじゃったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
金貨80枚と聞くとすごい金額のように聞こえますが、グランリルの人たちからしたら大した金額でもありません。
初めてルディーン君がイーノックカウに来た時も、ハンスお父さんは大量の魔物の素材を無造作に馬車に乗せてましたからねぇ。
その中には魔石がいっぱい入った升とかもあったのですから、いくら自分たちのものだけでないとしても金貨1000枚以上の価値のあるものを運んでいたのは間違いありません。
そんな価値観が壊れている人達にお金の大切さを説いたところで、馬の耳に念仏でしょうねw




