666 僕のお家はイーノックカウにもあるけど住んでるのは別のとこなんだよ
私のもう一つの作品、「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」もよろしくお願いします。
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テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
まねっ子ちゃんは僕がずっとここで一緒に暮らすって思ってるでしょ。
でもね、ワインのブドウを食べて寝ちゃったキャリーナ姉ちゃんはきっともう起きちゃってると思うもん。
だから僕、早く帰らないといけないんだ。
「にいちゃもいっしょでしょ?」
でも不思議そうなお顔でこっちを見てるまねっ子ちゃんを見ると、僕は帰るって言えなくなっちゃった。
だからなのか、イザベルさんが代わりに言ってくれたんだよ。
「あのね、ルディーン君はここに遊びに来ただけなの。だから一緒には住まないし、お家に帰らないといけないのよ」
それを聞いても、頭をこてんと倒して不思議そうなお顔をするまねっ子ちゃん。
「おうち、ここだもん」
でも言われたことがだんだん解って来たのか不安そうなお顔に変わっていって、とうとう泣き出しちゃったんだ。
「おにいちゃ、ここにいうの。いっしょなの!」
そう言って僕にしがみついてくるまねっ子ちゃん。
でも、ずっとここにいる訳に行かないでしょ。
だから僕、すっごく困っちゃったんだ。
「はいはい、泣かないの。今日は帰ってしまうけど、ルディーン君とはもう会えなくなるわけじゃないんだから」
そんな僕と違って、イザベルさんはまねっ子ちゃんの頭をなでながら優しい声でそう言ったんだ。
「どっか、いっちゃうんじゃないの?」
「今日は帰ってしまうけど、この街に住んでいるのならまたすぐに遊びに来てくれるわよ」
イザベルさんにそう言われて、ほんと? って僕に聞いてくるまねっ子ちゃん。
でもね、僕はすぐにうなずけなかったんだ。
「あのね。僕のお家、イーノックカウにあるんじゃないんだ」
「えっ、そうなの!?」
予想外だったのか、すっごくびっくりするイザベルさん。
それを見たまねっ子ちゃんがまた泣きそうになったもんだから、僕は慌ててこう言ったんだよ。
「あっ、お家はイーノックカウにもあるんだよ。でも住んでるのは他のとこなんだ」
「この街にも家があるって、もしかしてルディーン君ってどこかの領地から遊びに来た貴族様だったりする?」
なんか変な勘違いをしたイザベルさん。
恐る恐るって感じで、もしかしたらとんでもないことを僕にさせていたんじゃないかって聞いてきたんだ。
ここに来てから魔法でお屋根を直したり、おもちゃをいっぱい作ったりしたでしょ。
これがもし本当に僕が貴族様だったら、イザベルさんがコラーって怒られちゃうかもしれないんだって。
だからなのか、すっごく心配したお顔をしてるんだもん。
そんなイザベルさんを安心させるために、僕がどこに住んでるのかを教えてあげたんだ。
「違うよ。僕のほんとのお家はグランリルの村にあるんだ」
「村? 街じゃなくって?」
せっかく教えてあげたのに、なにがなんだか解んないってお顔のイザベルさん。
でもちょっとしたら、何かを思い出したみたい。
両手をパンって合わせてこう言ったんだ。
「そうか! グランリルって言ったら、あのグランリルね。もう! 村なんて言うからびっくりしたじゃない」
「びっくりしたの?」
「ええ。孤児院に寄付までしてくれるような人が村に住んでいると聞いて驚いたけど、それがあのグランリルの村なら納得だわ」
孤児院への寄付ってすっごくお金がかかるから、普通の村に住んでるような人にはできないんだって。
でもグランリルの村は魔物をいっぱい狩ってるから、それを売ってお金をいっぱい持ってるでしょ。
だから同じ村と言っても、全然違うんだよって教えてくれたんだ。
「でもグランリルから来るとなると、確かによく顔を出してもらう訳にはいかないわよね」
「毎日は来れないかな」
僕がこの街に住んでないことを知って、どうしようってお顔のイザベルさん。
それを見たまねっ子ちゃんは、またちょっと不安そうなお顔になってイザベルさんの裾を引っ張ったんだ。
「にいちゃ、またあそびにくうんだよね?」
「えっと……」
困ったお顔で、どう言おうか迷ってるイザベルさん。
だから僕が代わりに答えてあげたんだ。
「うん。僕、お家のお手伝いをしないとダメだから毎日は来れないけど、たまにだったら遊びに来れるよ」
「ほんと!?」
僕がまた遊びに来るって言うと、途端に笑顔になるまねっ子ちゃん。
でもね、代わりにイザベルさんが不安そうなお顔になっちゃったんだ。
「グランリルって確か、ここからは馬を使っても何時間か掛かる場所にあるのよね? そんなに来ることが本当にできるの?」
「さっき、イーノックカウにもお家があるって言ったでしょ。それに錬金術ギルドのバーリマンさんから手伝ってって言われてるからよく来るんだ」
ジャンプの魔法のことを教えてあげたら、イザベルさんはきっと安心すると思うんだよね。
でもロルフさんから、他の人にしゃべっちゃダメだよって言われてるでしょ。
だからそれは内緒にして、錬金術ギルドにご用事があるからよく来るんだよって教えてあげたんだ。
そしたらさ、それを聞いてイザベルさんがすっごくびっくりしたお顔になっちゃったんだもん。
だから僕、もしかしてなんか変なこと言っちゃったかなって思ったんだ。
「どうしたの? 僕、何にも悪いことしてないよね?」
「ああ、そうじゃないのよ。えっと、バーリマンさんって、錬金術のギルドマスターのバーリマンさんで合ってる?」
「うん、そのバーリマンさんだよ」
僕がそう答えると、イザベルさんは両手でひたいとお目めを隠すようにしてうつむいちゃったんだ。
「やっぱり貴族様とつながりのある子なんじゃない……」
貴族様?
イザベルさんが言ったことが一瞬解んなくって、僕は頭をこてんって倒したんだよ。
でもすぐに何のことか思い出したんだ。
「そう言えば、クリームお姉さんがバーリマンさんのこと、子爵様ってお家の人だって言ってたっけ?」
「クリームさん?」
「うん。裁縫ギルドのギルドマスターさんで、筋肉モリモリのお兄さんなのにきれいなお姉さんなんだよ。それにお裁縫もすごくって、ずばばばばぁーんってあっという間に縫ってっちゃうんだ」
僕が縫う真似をしながら教えてあげると、イザベルさんはなんでかもっとしょんぼりしちゃったんだよね。
「裁縫のギルドマスターって言えば、オレナン男爵家の方じゃない。この子、どれだけの貴族とつながりがあるのよ」
もしかして、バーリマンさんやクリームお姉さんに怒られるって思ってるのかなぁ?
二人ともすっごく優しいから、そんなはずないのに。
あっ、でもイザベルさんは会ったことないから知らないのか。
「大丈夫だよ。バーリマンさんもクリームお姉さんもとっても優しいもん。それにもし怒られそうだったら言って。僕が怒っちゃダメって言ってあげるから」
僕が勝手にやったことだもん。
もし怒ってきたら、僕がコラーって叱ってあげるねって言ったんだよ。
それなのにイザベルさんは、なんでかもっとしょんぼりしちゃったんだ。
「貴族様であるお二人を叱れるだなんて、この子はいったい何者なのよ……」
読んで頂いてありがとうございます。
前回は申し訳ありませんでした。
本来はここまでが月曜日にアップする予定だったところです。
それとこの話を書くに至って、決めていなかったクリームさんの本名が決まりました。
622話の次にアップしてある人物紹介にも追加しましたが、名前はレーヴィ・スム・クリストフ・オレナンで、オレナン男爵家の5男です。
クリームというのはクリストフという名前からとったという設定ですね。
実を言うと裁縫ギルドの話を書いていた時点では筋肉モリモリ→山登り→クライマーという発想からクライムという仮の名前だったんですよ。
でも、犯罪という意味があることを知って急遽クリストフに替えたんですけどねw




