659 ぺこぺこする床は危ないんだよ
私のもう一つの作品、「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」もよろしくお願いします。
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テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
「ねぇねぇ、こっちもなおしてよ」
僕がエッヘンってしてたらね、ちょっと離れたとこにいた子がそう言ったんだ。
だからそこまでとことこ行って、聞いてみたんだよ。
「なにを直すの?」
「ここ。あるくと、ぺこぺこするんだよ」
言われたとこを踏んでみると、ほんとにペコってへこんだもんだからびっくり。
「わぁ、ほんとにへこんじゃう」
「おっきなこは、あぶないからここふまないようにしてるんだ」
「おっきな子?」
そう言われて僕は周りをキョロキョロ見渡したんだよ。
でもここには僕とおんなじくらいか、それより小さい子しかいなかったんだ。
「おっきな子って、イザベルさんのこと?」
「ちがうよ」
「おっきな子たちは、お外でお手伝いをしてるから今いないんだよ」
この孤児院には、僕よりおっきな子も何人かいるんだって。
でもその子たちはもうお仕事のお手伝いができるから、みんなそこに行ってて今いないんだよって教えてもらったんだ。
「でもたまにふんじゃって、わぁってなってるんだ」
「だから、おやねみたいになおしてほしいの」
そっか、もし穴が開いちゃったりしたらおケガをしちゃうかもしれないもんね。
「わかった! 直してあげるね」
「ありがと!」
とりあえずその床の下がどうなってるのか、鑑定解析。
そしたらこの床を支えてる木がぼろぼろになってたんだ。
じゃあこのまま床だけ直しても、またすぐにぺこぺこしちゃうでしょ。
だから床の下の木も一緒に直すことにしたんだ。
「イザベルさん、薪ってある?」
「薪? ええ、あるけど、何か焚くの?」
「違うよ。ここ、下の木がぼろぼろになってるから、薪を使って直すんだよ」
それを聞いたイザベルさんはびっくり。
「床下に入るっていうの? ダメよ、寄付をしてくれている家の子に、そんなことはさせられないわ」
そう言って首をぶんぶん振るんだもん。
僕もびっくりして、そんなことしないよって教えてあげたんだ。
「そんなとこ入らないよ。さっきお屋根を治した時とおんなじように、クリエイト魔法で直しちゃうんだ」
「えっ? ああ、そうか。そう言えばさっきも屋根の端っこから穴をふさいでいたものね」
僕のお話を聞いてイザベルさんは解ってくれたみたい。
すぐにぶっとい薪を何本か持って来てくれたんだよ。
「これで足りる?」
「ここだけならこんなに要らないけど……ねぇ、みんな。他にぺこぺこするとこ、無いの?」
「あるよぉ」
「こっちこっち」
僕が聞くと近くにいた子たちがいろんな方へ走っていって、ここがぺこぺこするって指さしたんだ。
「わぁ、いっぱいあるんだね」
「うん。だからおうちのなかで、どんどんしたらあぶないんだよ」
「みんな、お外でしか遊ばないんだよねぇ~」
教えてくれたとこはさっきのとこと違って、みんなが歩くだけじゃぺこぺこしないんだって。
でもちょっとどんどんすると怖いくらいぺこってするから直してほしいんだってさ。
「雨が降ると、お外で遊べないもん。みんながどんどんしてもいいように直してあげるよ」
「やったぁ! イザベルお姉ちゃん、直してくれるって」
僕が直すよって言ったら、みんな大喜び。
でもその場で喜ぶもんだから、床がペコってへこんで何人かがびっくりして飛びのいてたんだ。
「こら。お部屋の中で暴れたら危ないでしょ」
「ごめんなさい」
それを見て、こらって怒るイザベルさん。
そんなイザベルさんに、僕は聞いてみたんだよ。
「あんなにいっぱい直すとこがあると、こんだけじゃ足りないよ。ほかにも薪ある?」
「ええ。今は煮炊きにしか使わないからね。備蓄してある分を持って来るわ」
そう言ってお部屋を出ていくイザベルさん。
それを見送った僕は、とりあえず最初に言われたところを直すことにしたんだ。
「ここを支えてる木は……この下だね」
僕はまずクリエイト魔法を使って床の板と、そこを支えてる木をくっつけたんだ。
でね、その板の上に薪を置いてもう一回クリエイト魔法。
そしたら薪がうねうねって動いて、床の板に吸い込まれてったんだ。
「まきがきえちゃった」
「ふしぎぃ」
周りに集まってきたみんながそんなことを言ってるのを聞きながら、僕はその床に鑑定解析。
「板はちゃんと厚くなったし下の木もボロボロじゃなくなったけど、大人が乗っかるのにはまだちょっと細いかな?」
ってことで、薪をもう一本置いてクリエイト魔法。
それからもう一度鑑定解析してみたら、ちゃんと床を支えてる他の木とおんなじくらいの太さになってたんだ。
「もう大丈夫だから、誰かその上でどんどんしてみて」
「わたしやる!」
僕がそう言うと、近くにいた女の子がさっきまでぺこぺこしてた床の上に乗ってぴょんぴょんはねたんだよ。
「わぁ、ぺこぺこしなくなってる」
「ほんと? じゃあ、ぼくも」
女の子が直ってるって言ったのを聞いて、周りの子たちも大喜びでどんどんしだしたんだけど……。
「こら、お部屋の中で暴れちゃ危ないでしょ」
そこに薪を持ったイザベルさんが帰って来たもんだから、怒られちゃったんだ。
でもね、そんなイザベルさんにみんなは違うよって。
「まほうでなおしてくれたから、もうあぶなくないんだよ」
「みんなでどんどんしても、ぜんぜんぺこってしないもん」
「本当に?」
イザベルさんはそんなことを言いながら、そ~っとさっきまでぺこぺこしてた床を踏んでみたんだ。
でも、僕が直しちゃったから全然ぺこってしないでしょ。
だからその場で軽く、とんとんって足踏みをしたんだよ。
「あら、本当に直っているわ」
「僕、ウソなんか言わないよ」
「ええ。それは屋根の修理するところを見て解ってはいたんだけど、まさかこんなに短い時間であれだけ傷んだ床を直せるなんて思わなくて」
イザベルさんはね、今まで一度も誰かがクリエイト魔法を使っているところを見たことが無かったんだって。
それにお屋根を直した時と違って、今度は薪を使うって言ってたでしょ。
だからもっと時間がかかるって思ってたんだよって教えてくれたんだ。
「ここの修理は、床下まで直さないといけないって言っていたもの。だからてっきり、床板をはがして土台の修理から始めると思っていたのよ」
そっか、大工さんが直す時はそうしないとダメだもんね。
でもそれを聞いてた周りの子たちは、そんなことしてなかったよって。
「さっきのはすごかったんだよ」
「うん。お屋根の時みたいにうにょーんってなって無くなっちゃったんだ」
「ウにょーんって言うのはさっき見たから解るけど、無くなったってどういうこと?」
そう言って僕を見るイザベルさん。
それを見た周りの子たちは、見せてあげてよって僕の手を取って他のぺこぺこする床のところに引っ張ってったんだ。
「はやくはやく!」
「イザベルお姉ちゃん。ちゃんと見てててね。すごいんだから」
みんなにせかされた僕は、さっきとおんなじように鑑定解析をしてから床と下の木をくっつけて、その床に新しい薪を置いたんだよ。
「それじゃあ、やるね」
イザベルさんが見ていることを確認すると、僕はその薪にクリエイト魔法をかけたんだ。
するとみんなが言った通り薪がうにゅーんって動いて、床の中に溶けて行ったんだよ。
「っ!?」
それを見たイザベルさんはびっくりしてるみたいだけど、僕はそれをほっといて鑑定解析をかけてみたんだ。
さっきと違ってこっちの床下の木は折れてただけだったから、今度は薪一本で直っちゃったみたい。
「うん、ここもちゃんと直ったよ」
「こんどはわたし、やる!」
直ったことを教えてあげるとさっきとは別の子が手をあげて、直した床の上でぴょんぴょん。
それが楽しいそうだったからなのか、周りの子たちも一緒になってぴょんぴょんしだしたんだ。
でも、イザベルさんはさっきこれを見て怒っちゃったでしょ。
だから今度も怒られるんじゃないかなって思って、僕はちょっとだけびくびくしながらそっちを見たんだ。
そしたらそこには、まだ固まっちゃってるイザベルさんが。
さっきみんながこうなるよって言ってたのに、なんでそんなにびっくりしてるんだろう。
「せっかくみんなが教えてくれてたのに! イザベルさん、大人なのにダメだなぁ」
僕が呆れてそう言うと、
「おねぇちゃ、だめぇあなぁ」
近くにいたちっちゃな子が僕の真似をしたもんだから、みんなその場で大笑い。
その声で帰って来たのか、イザベルさんはちょっと赤いお顔をしながら、暴れちゃダメよってちっちゃな声でみんなを叱ったんだ。




