652 もしかすると森に何か起こってるかもしれないんだって
私のもう一つの作品、「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」もよろしくお願いします。
https://book1.adouzi.eu.org/n1737jf/
テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
冒険者ギルドの人が呼びに行ったけど、ロルフさんたちが来るまでにはまだ時間があるでしょ?
それまでの間、僕たちは森でのお話をしたんだ。
「あのね、ワインにしたブドウの他にもおいしいのがいっぱいなってたんだよ」
「へぇ、あちら側にはいろいろなブドウが群生しているんですね」
そう言ってちょっとびっくりするルルモアさん。
何でかって言うと、みんなが狩りに行く方にはあんまりなってないからなんだって。
「ブドウはだれでも手軽に食べられますからね。人が多く入っているうちに、絶滅してしまったのかも」
「食べた種は地に落ちるでしょうけど、なるたびに採りつくしていたらいずれは採れなくなってしまいますからね」
ルルモアさんもお母さんと同じ意見らしくて、同じように奥の方にあるのに森の入口近くには無い果物もあるんだよって教えてくれたんだ。
「柑橘系の果物も、疲れた時に冒険者たちが採るからか入り口付近にはないですね」
「森の奥の方にはあるの?」
「そうよ。一日ほど奥に分け入ると見かけると、冒険者から聞いたことがあるもの。流石に採ってきてくれる人はいないから、どんな種類のものかまでは解らないけどね」
そんな奥まで行く人たちは、森の奥で何日か泊まって狩りをする人たちでしょ。
狩った魔物の素材だけでも全部は持って来れないから、果物まで持って帰ってくる余裕は無いんだってさ。
「それで、他にはどんなブドウが採れたんですか?」
「お母さん。採ってきたのをルルモアさんに見せてあげようよ」
「いいわよ」
お母さんはそう言うとね、バックパックに入れて持って帰ってきたブドウをカウンターに出してくれたんだ。
でも、その中には変わったものはなかったみたいなんだよね。
「この地方で育てられているブドウばかりですね。これらは育てやすいので、多くの村で作られているんですよ」
「そうなんだ。あっ、これ! これが一番おいしかったんだよ」
僕が一番おいしかったブドウを教えてあげると、ルルモアさんはお母さんに一粒もらいますねって言ってからパクリ。
「ん? これ、本当においしいですね」
「ねっ、おいしいでしょ」
「ええ。これは人気の品種なので私もよく食べるんだけど、これほど甘いものは今まで出会ったことがないわ」
どうやら僕たちが持ってきたブドウ、味は村で作ってるのよりおいしかったみたい。
でもね、わざわざ採りに行くほどでもないかなぁってルルモアさんは言うんだ。
「ブドウは運ぶのが大変な果物ですもの。少しくらいおいしくても、わざわざ採りに行く人はいないと思うわよ」
「そっかぁ。こんなにおいしいのに、もったいないね」
「ただ大きく育ったピノワール種だけじゃなく、他のブドウの味もいいということはやはり何かあるのかも?」
そんなこと言いながら、ちょっと難しそうなお顔をするルルモアさん。
「やっぱり、魔力溜まりの影響が出てるんじゃないですか?」
「でも、それなら冒険者たちが入っている方にも影響が無いとおかしいのよ。だからフランセン様をお呼びしたんだけど……」
ルルモアさんがロルフさんに聞きたかったのはそれなんだって。
「前にハンスさんには話したんですけど、一時期魔力溜まりの活性化が起こっていた時期があるんですよ。その影響でポイズンフロッグが浅い所で生まれたり幻獣が現れたりしたんですけど、それはすでに沈静化したと冒険者ギルドでは考えていたんです」
「それが間違っていたというんですか?」
「いえ、あの事件以降特殊な魔物が森の奥から出てくることがないので、活性化自体は収まっているはずです。ただ、その影響自体はもしかするとまだ残っているのかとも思って」
ルルモアさんはね、このおいしいブドウができてるのもその影響なんじゃないかなぁって言うんだよ。
「森の奥にあるという魔力溜まり自体の活性化は収まっているはずです。でももしかすると、活性化した魔力溜まりの影響で別の小さな魔力溜まりができたのかも?」
「そんなこと、あるんですか?」
これにはお母さんもびっくり。
慌てて聞いたんだけど、ルルモアさんは解らないって言うんだよ。
「魔力溜まりが活性化してダンジョンが生まれたという話はありますが、分裂したというのは私も聞いたことがありません。でも、もしかすると今回が初めてのケースという場合もあり得ない話ではないので」
真剣なお顔でお話するお母さんとルルモアさん。
でも何かとっても難しいお話になっちゃって、僕はもうよく解んなくなってきちゃったんだ。
だからお父さんにどういうこと? って聞こうとしたんだけど、何でか知らないけど変な方を見てるんだよね。
なんかあるのかなぁって思って僕も見てみたんだけど、でもそっちには壁しか無いんだ。
「お父さん、あの壁になんかあるの?」
「いや、ルルモアさんの話についていけなくてな」
なんだ、お父さんも僕とおんなじだったのか。
でも、何で壁なんか見てるんだろう?
そう思って聞こうとしたらね、そこで冒険者ギルドの扉が開いたんだ。
「何やら、またルディーン君たちが持ち込んだものについて話があると聞いたのじゃが」
「あっ、ロルフさんだ。それにバーリマンさんも。こんにちわ!」
「はい、こんにちは」
そこにいたのはロルフさんたち。
ドアの向こうには馬車が見えるから、もしかするとストールさんもいっしょなのかなぁ?
僕がそんなことを考えてたらね、ルルモアさんが慌ててカウンターから出てきてごあいさつしたんだよ。
「わざわざご足労頂いて、申し訳ありません。私どもでは説明できない状況が起こっておりまして」
「説明できない状況じゃと」
ルルモアさんはそいうとね、さっき渡した普通のよりおっきいって言ってたブドウをロルフさんに渡したんだよ。
「これはその説明できないものか。ちと解析してみてもよいかな?」
「はい」
ルルモアさんがうなずくとね、ロルフさんは早速錬金術の解析を使ったんだよ。
そしたらさ、すっごくびっくりしたお顔になっちゃったんだ。
「なんと! このブドウが森になっていたというのか?」
「はい。カールフェルト夫妻とルディーン君たち姉弟が採ってきたものです」
ルルモアさんのお話を聞いて、むむって唸るロルフさん。
そんなロルフさんを見て、バーリマンさんは聞いたんだよ。
「伯爵、そんなに特殊なものなのですか?」
「うむ。驚くでないぞ、なんとこのブドウ、森で採れたものだというのにすでにワインになっておるのじゃ」
これを聞いたバーリマンさんはびっくり。
でもそれ以上にびっくりしたのがルルモアさんだ。
「間違えました! 違うんです、それはルディーン君が」
「ルディーン君がどうしたのじゃ?」
そう言って不思議そうなお顔をするロルフさん。
だから僕、おしえてあげたんだよ。
「あのね、お父さんが作ってって言ったから、僕が醸造スキルを使って作ってあげたんだ。すごいでしょ」
僕はエッヘンって胸を張ったんだけど、ロルフさんはそんな僕を見ないでルルモアさんの方を見てたんだ。
だから僕もそっちを見たんだけど、
「すみません。間違えました。見せたかったのはこちらのブドウです」
そう言っておんなじ種類の、でもワインになって無いブドウをそーっと出してきたんだ。
そっか、間違えちゃったんだね。
「ワインのブドウと普通のブドウを間違えちゃうなんて、ルルモアさんは大人なのにダメだなぁ」
僕がはははって笑いながら困っちゃうねって言うと、ロルフさんもそうじゃなって一緒に笑ってくれたんだ。




