650 大変だ!お姉ちゃんが食べちゃった
私のもう一つの作品、「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」もよろしくお願いします。
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テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
お母さんが怒っている間、僕とキャリーナ姉ちゃんはお昼寝。
おかげで僕のMPは完全に回復したんだけど……。
「お母さんのお説教、まだ続いてるね」
「僕、採ってきたブドウを早く食べたいんだけどなぁ」
お母さんはすっごく怒ってたみたいで、僕たちが起きてもお説教はまだ続いてたんだ。
でもそのおかげで、せっかく採ってきたブドウをおあずけ状態なんだよね。
「キャリーナ姉ちゃん。ブドウ、僕たちだけで先に食べちゃおうよ」
「いいのかなぁ?」
「大丈夫だよ。だってこのブドウ、僕がMPを回復する間に採ってくるねって言ってたやつだもん」
僕のMPはとっくに満タンになってるでしょ。
ならお説教が終わらなくっても、僕たちだけで先に食べててもいいと思うんだよね。
そのことを教えてあげると、キャリーナ姉ちゃんも納得したみたい。
「そっか、ルディーンのMPがいっぱいになったなら、待ってなくてもいいもんね」
「うん! 先に食べてよ」
そう言って僕たちは、採ってきたブドウが積んであるところに行ったんだよ。
「あのね、さっきお父さんと食べたらこれが甘くておいしかったんだ」
「知ってる。私も採りながら一つ食べたもん。こっちのは甘かったけど、種と皮ばっかりで食べるとこがあんまりなかったのよ」
僕たちはこれは甘い、これはちょっと酸っぱいって言いながらブドウを食べてたんだよ。
そしたらさ、キャリーナ姉ちゃんが一つだけちょっと離れた所に置いてあるブドウに気が付いたんだ。
「これ、何だろう?あんまりおいしくなかったブドウに似てるけど」
そう言いながら、そのブドウを手に持って一粒とるキャリーナ姉ちゃん。
僕はそれをぼーっと見てたんだけど、お姉ちゃんが口に入れようとした時にそれがなにか思い出したんだ。
「お姉ちゃん。それ、お父さんが」
「えっ、なに?」
ぱくっ。
「あっ、食べちゃった。お母さん、大変だ。お姉ちゃんが大人しか食べちゃダメなやつ、食べちゃった」
「えっ、何? ルディーン、何かあったの?」
僕が大声で呼んだもんだから、お母さんはびっくりしたみたい。
でもお父さんを叱るのに一生懸命で僕の言ったことはよく解んなかったのか、すぐにこっちを向いて何って聞いてきたんだよ。
だから僕、すぐに教えてあげようと思ったんだけど……。
「何これ? ちょっと変だけど、おいしい」
そんなことより、先にお姉ちゃんをとめるべきだったんだ。
だって僕がお母さんを呼んでる間に、キャリーナ姉ちゃんはワインのブドウをまた何粒か食べちゃったんだもん。
口の中に残った皮や種をぺってしながら、ワインのブドウをパクパク食べていくキャリーナ姉ちゃん。
僕はそれをアワアワしながら見てたんだ。
そしたらさ、やっとお母さんたちが来てくれたんだよ。
「どうしたの、ルディーン。そんな大声出して」
「あのね、お母さん。キャリーナ姉ちゃんがワインのブドウ、食べちゃったんだ」
「なんだってぇ!」
お母さんに教えてあげてたのに、何でかお父さんがびっくりしたお声を出したんだよ。
だから僕、今お母さんとお話してるからってお父さんに言おうとしたんだ。
でもね、それより先にお母さんが怒っちゃったんだよね。
「ハンス! あなたがこんなものをルディーンに作らせるから!」
途端に小さくなるお父さんと、慌ててキャリーナ姉ちゃんに駆け寄るお母さん。
「キャリーナ、大丈夫?」
「あ~、お母さんがおもしろい。いっぱいいるし、ぐるぐる回ってる」
見るとキャリーナ姉ちゃんは真っ赤なお顔で、すっごく楽しそうにけらけら笑ってるんだもん。
だから僕、楽しそうだから大丈夫だったんだねって一安心。
でもね、お母さんはそんなお姉ちゃんを見てすっごく慌ててるんだよ。
「どうしましょう。かなり酔いが回ってしまっているわ」
「お母さん、どうしたの? お姉ちゃん笑ってるから大丈夫なんじゃないの? どっか痛いの?」
お母さんがすっごく大変だってお顔をしてるもんだから、僕、ちょっと心配になったんだ。
だから聞いてみたんだけど、そしたらお母さんは大丈夫よって。
「ルディーンは心配しなくてもいいのよ」
「でもでも。おかあさん、心配そうなお顔してるよ」
「それはそうなんだけど……」
お母さんはそう言いながら、キャリーナ姉ちゃんをひょいって持ち上げてさっきまで僕たちが寝てた敷物のところへ。
そこにお姉ちゃんを寝かせると、お父さんに声を掛けたんだ。
「ハンス、バックパックから水筒を出して。後近くに湧水が出ているところがあるから、そこで汗拭き布を濡らしてきて頂戴」
「解った」
僕には大丈夫って言ったのに、お父さんもお母さんもやっぱり慌ててるんだよ。
それにね、寝てるキャリーナ姉ちゃんもちょっと変なんだ。
「あははっ、森が回ってる」
そんなこと言いながらけらけら笑ってるんだもん。
もしかして大人しか食べちゃダメなブドウを食べたから、おかしくなっちゃったのかなぁ?
僕が心配しながらキャリーナ姉ちゃんのお顔を覗き込んでると、お母さんがすぐ近くに落ちてたワインのブドウを拾ったんだ。
でね、そこから一粒とるとお口の中へ。
「これ、本当にワインになっているのね。それに上質で渋みもあまりない。これじゃあ、子供でもおいしく感じてしまうわね」
「お母さん、お姉ちゃん大丈夫?」
「ええ。このブドウを見る限り食べたのはワインで言うとグラス一杯もないくらいだから大丈夫だとは思うけど、しばらくは動かせそうにないわね」
キャリーナ姉ちゃんのおでこに手を当てながら、心配そうなお顔のお母さん。
「シーラ、布を濡らしてきたぞ。キャリーナは大丈夫なのか?」
「ありがとう、ハンス。ある程度レベルが上がっているから普通の子供よりはアルコールに耐性があると思うけど、しばらくは動かさない方がいいと思うわ」
お母さんが布をおでこに乗せると、気持ちよさそうなお顔をするキャリーナ姉ちゃん。
でもお顔は真っ赤なままなんだよね。
「お母さん。キャリーナ姉ちゃん、お顔が真っ赤だよ。なんかのご病気になっちゃったのかなぁ?」
「いいえ、これはアルコールが回っているからこうなっているの。でもこの場合、顔が赤い方がまだいいのよ」
お顔が赤いのはね、アルコールってのが熱になってお外に出てるからなんだって。
だから真っ赤っかでも、そんなに心配しなくっていいみたい。
逆にお顔が青くなってきたら危ないから、その時は急いでお医者さんに見せないとダメなんだってさ。
「このまま寝かせておけばアルコールはある程度抜けるだろうけど、今日はこのまま引き返した方がいいわね」
森に来てそんなに経ってないけど、キャリーナ姉ちゃんがこんなんじゃ治っても森の中を歩くなんて無理でしょ。
だからキャリーナ姉ちゃんが寝ちゃうのを待ってから敷物をフロートボードの魔法で浮かせると、それを引っ張って僕たちはイーノックカウの街へと引き返すことにしたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
アルコールは毒の一種ですから、レベルが上がって毒への耐性が上がると酔いにくくなります。
でもキャリーナ姉ちゃんはまだ11歳なのでアルコールそのものへの耐性が低いんですよね。
だからワイングラス一杯程度でふらふらになってしまいました。
因みにですが、アルコールもキュアポイズンをかければ消えます。
ではなぜそれにルディーン君が気が付かないのかというと、今の状況がお酒に酔ったからこうなっていると理解できていないからだったりします。
なにせお父さんたちを含む、村の人たちは毒耐性のおかげでいくら飲んでもこんな風になりませんからね。
それに、イーノックカウのルディーン君の家にいる人たちも悪酔いするほどお酒を飲んだりはしません。
ゆえにふらふらになった酔っぱらいを見たことがなかったため、キュアポイズンでお酒がさめるということと今の状況がつながらなかったというわけです。




