648 森の中にはいろんなブドウがなってたんだよ
先日から新しい連載を始めました。
題名は「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」
https://book1.adouzi.eu.org/n1737jf/
まだ始まったばかりなので状況説明的な話が続きますが、すぐに異世界の人たち(主に子供たち)とわちゃわちゃする話になる予定です。
テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
「わぁ、すごいなぁ」
「ブドウがいろんなとこにぶら下がってるね」
ブドウがあるって探知魔法で出てるところに行ったらね、すっごくいっぱいなってたもんだからちょっとびっくりしたんだ。
だってさ、ブドウはおいしいだけじゃなくってお酒の材料にもなるもん。
僕、こんなになってるならみんなが採りに来ないなんておかしいって思ったんだ。
でもね、それを言ったらお母さんがそんなことはないよって。
「ブドウは水分を多く含んでいる果物ですもの。森の中から、それも街に帰る途中に段差のあるこんな所から運び出す労力を考えたら、畑で作った方がはるかに楽でしょ」
「そっか、持って帰る途中でつぶれちゃったりしたら服がベタベタになっちゃうもんね」
僕はフロートボードの魔法が使えるけど、普通に採取する人はバックとかに入れて持って帰らないとダメでしょ。
でもそれだと重たいし、どっかにあたったらつぶれてグチャってなっちゃうもん。
普通に畑で作れるんだから、そんな苦労して持って帰ろうって思う人はあんまりいないのかも。
「それに、多くなってるだけであまり美味くないかもしれないからな。とりあえず何個か採って食べてみるか」
「じゃあ私は、ルディーンとお留守番しているわね」
僕はここに来る前からMPを回復させるために敷物の上に寝転んで休憩することが決まってたでしょ。
だからお母さんは目をつむってなきゃダメな僕のそばにいてくれて、お父さんとキャリーナ姉ちゃんが二人でブドウを採りに行くことになったんだ。
でも僕、目はつむってるけど別に寝ちゃうわけじゃないでしょ。
このままだと暇だろうから、魔法のお話でもしましょうってお母さんが言うんだ。
「弓で狩りをする時の矢のように、魔法を使う時は特別な力を使わないといけなかったのね。お母さん知らなかったわ」
「うん。でもちょっと休んだら回復するから、矢みたいに使ったらそれっきりってわけじゃないんだよ」
僕はお母さんに、冒険者ギルドでもMPがなくなったら隅っこで座って回復しながら、冒険者さんたちをいっぱい治したんだよって教えてあげたんだ。
そしたらさ、MPって体力と同じようなものなのねって。
「体力も使い切ると体を壊す人がいると聞くもの。そのえむぴぃっていうのも同じなのね」
お母さんはね、魔法のことを知らないもんだからさっきMPがなくなったら気持ちが悪くなる人もいるって聞いて、すっごくびっくりしたそうなんだ。
だから僕はMPが無くなっても大丈夫な人なんだよって聞いてほっとしたんだって。
「でも、ルディーンはそのえむぴぃってのが無くなっても大丈夫みたいだけど、キャリーナはどうなの?」
「わかんない。だってお姉ちゃんがそんなにいっぱい魔法を使ったとこ、見たことないもん」
キャリーナ姉ちゃん、キュアは使えるようになったけど攻撃魔法の練習はやめちゃったでしょ。
キュアは誰かがおケガをしないと使うことないから、狩りにも使う僕と違ってそんなにいっぱい魔法を使うことがないんだよね。
そのことを教えてあげたらお母さんは、それでもキャリーナ姉ちゃんに注意しなくちゃダメなんじゃないかなぁって言うんだよ。
「ルディーンはイーノックカウのギルドで冒険者たちが倒れているのを見て、そのえむぴぃってのがなくなるくらいまで魔法を使ったんでしょ? もしキャリーナもそんな場面に遭遇したら、同じことをするんじゃないかしら?」
「どうかなぁ?」
ルルモアさん、キャリーナ姉ちゃんが魔法を使えることは黙ってた方がいいって言ってたでしょ。
だからもしあの時とおんなじようにお父さんと二人で冒険者ギルドに行ったとしても、使っちゃダメって先に言われるんじゃないかなぁ。
そのことを教えてあげるとね、お母さんはちょっと安心したお顔になったんだよ。
「確かに、キャリーナが回復魔法を使えることは村の外の人には知られない方がいいかも」
「うん。だからキャリーナ姉ちゃんには、そのことだけ教えてあげればいいと思うよ」
キャリーナ姉ちゃんだって、キュアが使えるのはナイショにしないとダメだよって言っとけばよそで使わないと思うんだよね。
それを聞いたお母さんは、あとでちゃんと言い聞かせないとねって笑ったんだ。
それからちょっとの間お母さんとお話してたら、お父さんたちが帰ってきたんだ。
「とりあえず近場になっているのを食べてみたけど、結構甘かったぞ」
「それにここになってるブドウ、一種類だけじゃなくっていろんなのがあるみたい」
僕はまだ目をつむったまんまだから見えないけど、お父さんとキャリーナ姉ちゃんは結構な量を採って来たみたいなんだよ。
でもキャリーナ姉ちゃんは、まだまだ満足してないみたい。
「お母さん、あっちに違う色のブドウがあったから採りに行こ」
「ルディーンは俺が見ておくから、シーラはキャリーナと行って来いよ」
「そう? じゃあ、ルディーンのことは頼むわね」
キャリーナ姉ちゃんにつれられてお母さんがブドウを採りに行っちゃったから、今度はお父さんが僕の横に座って話しかけてきたんだよ。
だから僕、お母さんの時とおんなじでまたMPのことを聞かれるのかなぁって思ったんだ。
でもお父さんのご用事は全然違ったんだよね。
「なぁ、ルディーン。ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「うん。寝てるわけじゃないから、お話はできるよ」
そう答えると、お父さんがちょっとだけ小さな声になって僕にこんなことを聞いてきたんだ。
「ワインはブドウをつぶして作るだろ? なぁ、ルディーン。お前ならもしかして、ブドウの姿のままワインにできるんじゃないか?」
「う~ん、どうかなぁ? やったことないから解んない」
ブドウは果物だから、熟成させたらおいしくなるだけでしょ。
だからちゃんとお酒になるのかなんて、やってみないと解んないんだ。
「やってみないと解らないか」
そのことを教えてあげるとね、お父さんはちょっとの間考えてから僕にこう言ったんだよ。
「前にベニオウの実は魔力溜まりの影響を受けているから甘くなっていて、酒にするととてもおいしいものができると言っていただろ? それならこの森で採れたブドウも、畑で採れたものよりもおいしいお酒になるんじゃないか?」
「そういえばそうかも」
ベニオウの実で作ったお酒、アマンダさんやロルフさんたちがすっごくおいしいって言ってたもん。
それとおんなじで、この森で採れたブドウから作ったワインは普通のよりおいしくなるのかも。
「それにな、ここで採れた中でも大粒のものは特に甘かったんだ。前に甘いブドウほどおいしいワインができると聞いたことがある。だが今はゴブリンの集落を探す依頼中だろ。流石にわざわざこれを持って帰ってワインを造ってみるってわけにもいかないよな。でもこの場で粒のままワインにする実験するくらいならできるんじゃないか?」
「そっか! それだったらここでもできるね」
ここには樽が無いから、ブドウをつぶしてワインを造ってみることはできないんだよ。
でも、粒のまんまだったらやってみるのは簡単だもん。
「おっ、やる気になったみたいだな」
「うん! だってここのブドウでおいしいのができるって解ったら、エリィライスみたいに採りに来る人が増えるかもしれないもんね」
それを教えてあげたら、ルルモアさんもきっと喜んでくれるはずだよね。
そう思った僕は、もうちょっとMPが回復したら粒のまんまのブドウをワインにしてみるぞ! って、寝ころびながらふんすと気合を入れたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ハンスお父さんが暗躍を始めました。
でもお酒好きなら、魔力を含んだブドウから作るワインの味が気になるのも解りますよね。
ただ、あとでシーラお母さんにばれた時、どうなってしまうかはまた別の話ですがw
さて、前々から告知しているようにお盆中はいろいろと忙しくて新しい話を書くことができません。
なので次回の転生0の更新は23日の金曜日になりますが、私のもう一つの物語である「魔王信者に顕現させられたようです」は連載開始前に書き貯めたものがあるので通常通り毎週水曜日の12時に更新します。
もしよかったら、そちらの方も読んで頂けたらありがたいです。
すでに読まれている方は、これからも引き続き楽しんでもらえたら幸いです。
あと、土日祝日の三連休からそのままお盆休みという方も多いと思います。
もしよかったらこの機会に書籍版の方も手に取ってもらえたらなぁとw
続刊が出るかどうかは、売り上げによって左右されるそうなので。




