647 いっぱい使ったらそりゃ無くなっちゃうよね
先日から新しい連載を始めました。
題名は「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」
https://book1.adouzi.eu.org/n1737jf/
まだ始まったばかりなので状況説明的な話が続きますが、すぐに異世界の人たち(主に子供たち)とわちゃわちゃする話になる予定です。
テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
僕の魔法じゃ探せないからって湧水のお話はここでおしまい。
せっかくアマショウの実がなってるところに来たんだから、僕たちは採って食べることにしたんだ。
「ルディーン、熟成ってのをやって」
「うん、いいよ」
僕たちが行った場所の木はそんなにおっきくなかったからなのか、アマショウの実もそんなに採れなかったんだ。
でも実自体はしっかりしてたから、僕はそれに熟成をかける。
そしたらちゃんと甘くておいしい実になったんだよ。
「意外とうまいんだな、これ」
「あ~、お父さん。そんなにいっぱい食べたらなくなっちゃうよ」
そんなこと言いながらみんなでぱくぱく食べてたんだけど、お父さんが思ったよりいっぱい食べたもんだからちょっと足らないなぁって話に。
「ルディーン。他にもなってるところ、あるんだよね?」
「うん、あるよ。あっちの方とあっちの方」
キャリーナ姉ちゃんに聞かれた僕は、さっき探知魔法で見つけたアマショウの実がなってる方を指さしたんだよ。
そしたらさ、それを見たお母さんが、あっ! ってお顔をしたんだ。
「そうよ、アマショウの実!」
「どうしたの、お母さん?」
「だからアマショウの実よ。それがなっている場所には、ここと同じように湧水が出てるんじゃないかしら」
湧水が出てるとこは解んなくっても、それがあるおかげでなってるアマショウの実がある場所は解るでしょ。
お母さんはね、その場所がどこにあるのかを地図に書いておけば地面の下に流れてる川の場所が解るんじゃないかなって言うんだ。
「なるほど。ここに沸いているってことは、他の場所にもある可能性は高いな」
「それにもし水が沸いていなかったとしても、そこにアマショウの実がなっているってことはどこかから水分を吸収しているってことよね。その場所の地下に水が流れているんじゃないかしら」
アマショウの実がなるにはお水がいるってお母さん言ってたでしょ。
そこになってるなら、湧水か地下水が絶対あるはずなんだって。
「とりあえず、今解っている場所だけでも見て回ってみるか」
「ええ、そうしましょう」
そんな訳で僕たちは近くになってるアマショウの実を見に行くことにしたんだけど、これがすっごく大変だったんだ。
だって森の右っ側、ほんとに段差ばっかりだったんだもん。
僕は体が小さくて軽いし、装備もあんまりつけてないからちょっとくらい高い所だってすいすい登れちゃうんだよ。
でもお父さんたちは鎧を着てるし、お母さんとキャリーナ姉ちゃんなんかおっきな弓まで持ってるもん。
だから段差を登るだけで一苦労なんだ。
「ルディーン、なんかいい魔法ない?」
「魔法かぁ」
キャリーナ姉ちゃんにそう言われて、僕は頭をこてんった押したんだよ。
そしたらさ、とってもいいことを思いついたんだ。
「そうだ! 階段があればいいじゃないか」
段差はちっちゃながけみたいになってるから登りにくいんでしょ。
ならそこに階段を作っちゃえばすいすい登れるはずだもん。
ってことで、さっそく次の段差に着いたところでクリエイト魔法発動!
そしたら段差の土が動いて行って、表面にそって斜めに上がれる階段があっという間にできちゃったんだ。
「これならお父さんたちも、楽ちんに登れるよね」
「確かにそうだが、こんなの作って大丈夫なのか?」
森の中って、僕たちだけじゃなく動物や魔物がいるでしょ。
お父さんはそういうのがこの階段を使うことで、危ない動物の行動範囲が広がるんじゃないかなって心配してるみたいなんだ。
「ここはまだ森の入口に近いからな。動物の行動範囲が変わる可能性があることをするのは流石にどうかと思うぞ」
でもね、そんなお父さんにキャリーナ姉ちゃんは笑顔でこう言ったんだよ。
「それならベニオウの実を採りに行った時の階段みたいに壊せばいいじゃない」
つるつるして登りにくいベニオウの実を採りに行った時も、僕が作った階段は終わった後に壊しちゃったでしょ。
だからキャリーナ姉ちゃんは、今回も壊せばいいって思ったみたいなんだ。
「ルディーン、できるんでしょ」
「うん。簡単だよ」
僕がそう答えると、ほらねって得意そうなお顔をするキャリーナ姉ちゃん。
それにお父さんも、元に戻せるならいいかって思ったみたい。
「確かに階段があると助かるのは事実だからな。ルディーン、頼んだぞ」
「うん! 僕、がんばるよ」
こうして僕は、段差があるたびにクリエイト魔法を使って階段を作ったり壊したりしたんだよ。
でもね。
「あっ、MPが無くなっちゃった」
ちっちゃなものを作るのと違って、段差が登れるようになるくらいおっきな階段を作るのは大変だもん。
だからそれを繰り返してる間に、僕のMPが空っぽになっちゃったんだ。
「え~、じゃあルディーン、今日はもう魔法が使えないの?」
魔法が使えるキャリーナ姉ちゃんは、僕が言った意味が解るからすぐにこんなこと言ったんだよ。
そしたらそれを聞いたお父さんたちはびっくり。
「魔法が使えないって、それじゃあ今日の探索はもう続けられないじゃないか」
「そんなことより、ルディーン。そのえむぴぃってのが無くなって、体は大丈夫なの?」
お母さんは大慌てで僕に寄ってきて、体をペタペタ触りだしたんだよ。
でもさ、そんなに大騒ぎすることじゃないんだけどなぁ。
「大丈夫だよ。気持ち悪くなっちゃう人もいるってルルモアさんが言ってたけど、僕はMPが無くなっても全然平気だもん」
「気持ちが悪くなるって……」
僕は安心してもらおうと思ってそう言ったのに、お母さんはもっと慌てちゃったみたい。
「ルディーン、乗るための敷物を敷くからすぐに横になりなさい」
「僕、大丈夫なんだけどなぁ」
そうは思っているんだけど、お母さんが心配そうなお顔をしてるもんだから広げた敷物の上に寝転がる。
「ルディーンはしばらく寝かせておくとして、これからどうするかだな」
「何を言ってるの、ハンス。魔法が使えないのなら帰るべきでしょう。探知もそうだけど、この子の武器は魔法なんだから」
お母さんの言う通り、僕が魔法を使えなかったら多分キャリーナ姉ちゃんより弱くなっちゃうんだよね。
だからこのまま先に進むのは危ないよって言うお母さんの意見は正しいと思う。
でもさ、MPって回復するんだよ。
「お母さん、大丈夫だよ。MPはお目めをつむってればだんだん回復してくから」
「本当なの?」
「うん。寝ころばなくても、座ってるだけでちょっとずつ回復してくもん。前に冒険者ギルドが大変だった時も、隅っこで座って回復したんだよ」
僕がギルドでケガをした冒険者さんたちを治した時のことを教えてあげると、お父さんはその時のことを思い出したみたい。
「そういえばそんなことを言っていた気がするなぁ。それじゃあ、こうしていればそのえむぴぃってのは回復していくんだな」
「うん。でもどうせお休みするなら、果物が採れるところでしたいなぁ」
僕は回復のためにじっとしてないとダメだけど、お父さんたちは元気だもん。
それにこの近くには果物がいっぱいなってるんだよね。
アマショウの実は熟成させないとおいしくないからダメだけど、ブドウはそのままでもおいしく食べられるでしょ。
だから僕が回復してる間に、おいしいブドウを採ってきてほしいんだ。
「MPはなくなっちゃったけど、僕、元気だもん。だから、ブドウがあるとこに行って休もうよ」
「賛成! 私もブドウが食べたい」
ハイハイって手をあげながら賛成するキャリーナ姉ちゃんを見て、お母さんはにっこり。
「そうね。ルディーンの体が大丈夫なら、こんな何にもないところで休むよりその方がいいかも」
「やったぁ! あっちにあるから、早く行こうよ」
僕はそう言いながら飛び起きると、敷物をくるくるって丸めてブドウがある方に歩き出したんだ。




