646 同じ森でもなってる果物が違うんだよ
先日から新しい連載を始めました。
題名は「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」
https://book1.adouzi.eu.org/n1737jf/
まだ始まったばかりなので状況説明的な話が続きますが、すぐに異世界の人たち(主に子供たち)とわちゃわちゃする話になる予定です。
テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
「行ってきま~す」
門のところにいる兵隊さんに手を振りながら、僕たちは森へ向かったんだよ。
「今日はゴブリンの村、見つかるかなぁ?」
「今日は森への道から外れてすぐからエリィライスを探さないといけなくなったからなぁ。流石に無理じゃないか?」
お父さんとそんなお話をしながら歩いてたらね、あっと言う間に森の入口に並んでる露店が見えてきたんだ。
「今日もいっぱいお店が並んでるね」
そう言いながらキョロキョロするキャリーナ姉ちゃん。
でも、今日はお店を見てる時間なんてないでしょ。
だからそのまま素通りして、商業ギルドの天幕まで来たんだ。
「ここを越えたら、今日は右に進むぞ」
「「は~い!」」
お父さんに言われた通り、みんなが真っすぐ森の中に入ってくのを眺めながら僕たちは道を右にそれて森のふちを進んで行ったんだよ。
そしたらね、誰も来ないところだからなのか歩いてるうちに段々草の背が高くなっていったんだ。
「まだ大丈夫だけど、草がもっとおっきくなったら絨毯に乗らないといけなくなっちゃうね」
「いや、まだ当分の間は大丈夫だと思うぞ」
お父さんはそう言うと、ちょっと先の森を指さしたんだ。
「あそこから、木が少し高くなってるだろ?」
「ほんとだ。高さが違ってる」
お父さんの言った方を見てみると、ほんとに木の高さが違っててびっくり。
あそこからは地面の高さが違うから、おんなじ木が生えてるのに高さが違うんだってさ。
「あの辺りには大きな段差があってな、そのせいなのか当分の間はこの辺りのと同じ草が生えてるんだ」
草にも背の高いのや低いのがあるでしょ。
お父さんの言う段差があるところまでは今僕たちの周りに生えてるのとおんなじ高さの草が生えてるから、心配しないで歩けるんだって。
そんな訳で、僕たちは森の外っ側を元気に歩いて行く。
森の中と違って動物も出てこないからまるでお散歩気分で進んでたんだけど、それからしばらく進んだら、探知魔法を使ってってお父さんが言いだしたんだ。
「エリィライスを探してほしいと頼まれてるからな。多少進むのが遅くはなるが、この辺りからこまめに調べた方がいいんじゃないか?」
そしたらさ、それを聞いたお母さんがこんなこと言いだしたんだよね。
「ああそれならついでに、薬草や果物がないかも調べてみたら?」
今はまだみんなが森に入ってく道からそんなに離れてないでしょ。
動物や魔物はいないはずだから、おやつに食べる果物も探そうよってお母さんは言うんだ。
これにはキャリーナ姉ちゃんも大賛成。
「ねぇ、ルディーン。前にお家で食べたアマショウの実、あれがないか探してよ」
アマショウの実っていうのはね、前世にあったバナナみたいな果物なんだ。
あれ、そのままだと全然おいしく無いんだけど、熟成させるとねっとりしてとっても甘い果物になるからキャリーナ姉ちゃんは大好きなんだよね。
そして、それは当然僕もおんなじなわけで。
「うん。ちょっと調べてみるね」
僕はそう言うと、僕たちが進んでる方の森に向かって探知魔法を使ってみたんだ。
「う~ん、エリィライスが生えてるとこ、この近くには無いみたい。他のも探してみるね」
そうやって調べて解ったんだけど、こっちっていつも行ってる方と森の中になってる果物がちょっと違うみたいなんだよ。
「イーノックカウの森ってベリーがいっぱいなってるって思ってたんだけど、こっちにはあんまりないんだね」
「え~、じゃあ果物は無いの?」
「ううん。ベリーはあんまりないけど、アマショウの実がなってる木は見つけたよ。あとね、ブドウもいっぱいなってるみたい」
でも、なんでなってるもんが違うんだろう?
そう思って僕が頭をこてんって倒すとね、お母さんがその答えを教えてくれたんだ。
「こっちは森の中に小川程度のものしか流れていないでしょ。だからベリー系があまりないんじゃないかしら」
ベリーってね、お水が少ないと木が生えてても実があんまりならないんだって。
みんなが狩りに行く方にはおっきめの川が流れてるもん。
だからそのお水のおかげで、あっちはベリーとかがいっぱいなってるんだってさ。
と、そこまで言ったところでお母さんがあれ? ってお顔をしたんだよね。
「でも確かアマショウの実も、水が少ない場所だと育たないと聞いたんだけど」
「そうなの?」
「ええ。アマショウの木は育つのに水が多くいるはずだから」
こっち側にも小川はあるんだけど、地図を見ると僕が見つけた木が生えてるとこには流れてないみたいなんだ。
そのことを教えてあげると、お父さんが行ってみようって。
「キャリーナがアマショウの実を食べたがっているし、なぜそこに生えているのかも気になるからな」
「アマショウの実、採りに行くの? やったぁ!」
これを聞いたキャリーナ姉ちゃんは大喜び。
僕に向かって早くそこに連れてってっていうんだよ。
でもお父さんから、そんなに慌てちゃダメでしょって怒られちゃったんだ。
「キャリーナ、そんなに慌てるんじゃない。この森にはそれほど強い魔物や動物はいないが、人が入っていない分低木の枝が張り出していたりして危なかったりもするんだからな」
「そうよ。アマショウの木は獲物と違って逃げることは無いんだから、ゆっくり行きましょう」
そんな訳で、ゴブリンの村探しは一度中断。
森の中に入って、アマショウの実を採りに行くことにしたんだ。
「なるほど。これがアマショウの木がここに生えている原因か」
アマショウの実がなってる木のところまで行ってみると、その近くに湧水が出てるところがあったんだよね。
それを見つけるとお母さんはほっぺに手を当ててちょっと考えたあと、僕に聞いてきたんだよ。
「ルディーン、アマショウの実はここ以外にもなっているのよね?」
「うん、そうだよ」
「もしかして、こっちには川が流れていない代わりに湧水が出ている場所が多いのかも?」
イーノックカウの横に流れてるおっきな川って、僕たちが歩いて行ってる方向から流れてきてるでしょ。
もしかしたらその上流に雨が降ったらよくあふれちゃうとこがあって、そのお水が地下水になってここから湧き出してるんじゃないかなぁってお母さんは言うんだよ。
「なるほど、この先は高くなってるからな。シーラの言う通りなのかもしれない」
お父さんはそう言うと、僕に聞いてきたんだ。
「なぁ、ルディーン。お前の魔法で湧水の位置は解らないか?」
「ううん。湧水は生きてないから、僕の魔法じゃどこにあるか解んないよ」
僕の探知魔法、高さとか簡単な地形とかは解るけど、ちゃんとした地図が出てくるわけじゃないもん。
だから川や池、湧水の位置なんかは解んないんだよね。
「でも何で?」
「昨日も言っただろう。ゴブリンの集落は湧水が出ている所にある可能性が高いんだ」
そういえばゴブリンだって僕たちとおんなじでお水が無いと生きてけないから、村があるとしたらそういう所じゃないかってお父さん言ってたっけ。
それなら確かに、湧水の場所が解ったらゴブリンの村を探すのに便利かも?
「でも僕、湧水の位置なんか解んないよ」
「そうかぁ。それが解れば、地下水の流れている場所も解りそうだったんだが」
お父さんやお母さんだけだと解んないけど、冒険者ギルドには湧水が出てるとこが描いてある地図があればそれを見ただけで土の中の川がどこに流れてるのかが解る人がいるんだって。
だから僕の魔法で解ったらいいなぁって思ったそうなんだよ。
「でもまぁ、解らないなら仕方ない」
「そうね。それにこちら側に集落がある可能性が高くなったと解っただけよかったわよ」
そう言って笑うお父さんたち。
でもね、僕にはよく解んないんだ。
「ねぇ、おかあさん。何でゴブリンの村がこっちにあると思ったの?」
「それはね、ルディーン。湧水は斜面から出ていることが多いからよ」
ゴブリンって、お家を作るよりもおっきな洞窟を掘って村を作ることの方が多いんだって。
洞窟はがけや斜面にしか掘れないもん。
この先にはおっきな段差がいっぱいあるから、そのどこかにゴブリンの村はあるはずよってお母さんは笑ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
金曜日の更新、突然休んで申し訳ありません。
活動報告に書いた通り、夏バテで弱った胃が土用の丑の日に食べたうなぎの脂に耐えられなくて胃酸過多を起こしまして。荒れた胃の苦しみで眠れなかったうえに軽い熱中症まで併発。
そのせいでこの土日、二日とも10時間以上目が覚めないほど体が弱ってしまいました。
ただそれだけ寝たおかげでまだ少々症状は残っていますが、かなり回復したんですけどね。
さて、8月の更新予定のお話です。
毎年のことですが、イベントやらうちが本家ということでお客さんを迎えなければいけないだとか、施餓鬼や墓参りに行かなければいけない等々やることが多いのでいつものように更新ができません。
なので転生0の更新日は2・9・23・26・30の5回となります。
またもう一つの連載である魔王信者に顕現させられたようですに関しては、8月更新分はもう書いてあるので加筆修正を残すのみです。
ですのでこちらは通常通り、毎週水曜日の更新となります。




