閑話 いつの間に作っておったのじゃ?
先日から新しい連載を始めました。
題名は「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」
https://book1.adouzi.eu.org/n1737jf/
まだ始まったばかりなので状況説明的な話が続きますが、すぐに異世界の人たち(主に子供たち)とわちゃわちゃする話になる予定です。
テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
今回はロルフさん視点です。
これは少し先のお話。
ルディーン君がノートンさんたちの前で実際に醤油を作った日から二か月ほどたったある日のこと。
いつものように本宅の居間でくつろいでいると、執事長のローランドが話しかけてきた。
「旦那様。クラークから報告したい件があるとのことです。通してもよろしいですか?」
「クラークが本宅を訪れるとは珍しい。わしは構わぬぞ」
ローランドを見送りながら、はて、なに用であろうかと考える。
しかし思い当たるものがないわしは、何の準備も無くクラークの訪れを待った。
「旦那様、失礼いたします」
しばらくすると、クラークが巨体を揺らしながら入室してきた。
その手には何やら、つぼのようなものを持っているが。
「うむ。要件というのは、そのつぼの中身のことか?」
「はい。前々から試作を試みていた、しょうゆが完成したのでお持ちしました」
「なに、しょうゆじゃと!?」
想像もしておらなんだこの報告に、わしは驚いた。
しょうゆといえばルディーン君が発酵スキルを使って作りだした貴重な調味料。
発酵スキルでもたらされた結果は時間さえかければ誰でも再現が可能だと知ってはおるが、わしがその存在を知ってからそれほど経ってはおらぬ。
それ故に本当にしょうゆを創り出せたのかと、わしはクラークに少々疑いの目を向けた。
「発酵を必要とする調味料は皆、作るのに時間を要すると聞く。いくら作り方を教えてもらったとはいえ、本当にこんな短期間でできあがったのか?」
「このしょうゆを何のスキルも使わずに作れば、確かにあと二年近くの時間を要したでしょう」
そんなわしに、クラークは苦笑を浮かべながら説明をしてくれた。
「ですが最初の工程さえうまく行けば、私の持つ熟成スキルで時間を短縮することができるのです」
「ほう。短期間で完成させることができたのは、そのスキルの力というのじゃな」
ルディーン君が使った発酵スキルと違い、熟成スキルというのは純粋な料理人のスキルらしい。
それ故にクラークも習得しておるそうな。
「ただ見本を見せてくれたルディーン君は魔力強度が強いので一瞬で熟成を終わらせていましたが、私では満足のいくまで熟成させるのに十日以上かかりましたが」
「それほど変わるものなのか?」
「はい。肉などの熟成ではそのようなことは無いのですが、これは本来二年ほどかけなければいけないようでして」
これには流石にわしも驚かされた。
二年もの月日をたった十日程度に短縮できるスキルが存在するなど思いもしなかったからな。
それを話すと、クラークはまたも苦笑い。
「何をおっしゃっているのです。前にルディーン君がそれ以上のことをやってのけたではないですか?」
「それ以上のこと? はて、何のことを言っているか解らぬが」
「お忘れですか? ベニオウ酒ですよ」
指摘されて思い出した。
そういえばあの酒、200年以上熟成させたものと同等という結果が出ておったな。
「そういえばそうじゃった。しかし、そう考えるとすごいスキルじゃな」
「それほどの期間を短縮できるのは、多分ルディーン君だけでしょうけどね」
ほんに、すごい子じゃな。
ちと横道にそれてしまったが、話をしょうゆ造りにもどす。
「ルディーン君から貰った種菌。これが無駄にならぬよう、いくつかに分けて温度や湿度が違う場所に置いて実験をしました。そこで解ったのですが、この辺りはしょうゆ造りに適しているようです」
多少の違いはあったものの、きちんと手を入れてやればすべてが使用に耐えるレベルまで菌が育ったそうじゃ。
「では、量産は可能なのじゃな」
「はい。ただ、作るのに二年以上かけてもよければですが」
いかにクラークとて、量産するすべてに熟成をかけて周ることなどできるはずがない。
ならばそれは許容すべき時間であるということじゃ。
「解りました。それではその設備を整える前に、ルディーン君の名でしょうゆの特許と取らねばなりませんね」
「それについてじゃが、普通の特許ではいかん。製法も含めて秘匿する特殊特許でなければ」
「特殊特許ですか?」
これにはクラークも驚いておるようじゃな。
しかし、少し考えれば解るではないか。
「おぬしも申しておったじゃろう。ルディーン君から種菌をもらわねば作れぬと」
しょうゆは特殊な菌がなければ作ることができない。
これは発酵スキルが使えるものなら手に入れることができるらしいが、クラークが存在を知らなかったくらいめずらしいものなら手に入れるのは困難じゃろうて。
このことから考えて、普通の料理人がいくら頑張っても再現できないであろうことはたやすく想像できる。
「貴重なものならば、種菌の出所を皆が知りたがるのではないか? そこでじゃ、しょうゆはわしの推薦をつけて広めようかと思っておる」
「旦那様の推薦でございますか?」
「うむ。クラークがわしの知り合いから種菌をもらって、その量産に成功したということにするのじゃよ」
発酵スキルは抽出と付与を扱えるレベルの錬金術が使える料理人でなければ習得できぬとルディーン君から教えてもらったことがある。
いや、難易度から考えるに料理人になれるほどの腕を持つ錬金術師が使えるスキルと考えた方が妥当かもしれぬな。
「わしが錬金術師の間で名が知れておることは、多くの者が知っておるからのぉ。その中の一人に料理の上手いものがおってもおかしくはなかろう」
「なるほど。しょうゆは料理人ではなく、発酵を研究している錬金術師から教えて貰ったということにするのですね」
しょうゆに関して言うと、エーヴァウトがかなり気に入っておったからのぉ。
量産がかなったというのならば、間違いなく興味を持つじゃろう。
しかし、あやつの興味は料理人にしか向いておらぬ。
開発者が錬金術師と聞けば、その者への関心は途端に霧散することじゃろうて。
「孫であるエーヴァウトには悪いが、ルディーン君のことを知られるわけにはいかぬ。また、いずれはルディーン君が開く商会で作らせるようにするつもりではあるが、今はその時ではない」
ルディーン君の名を出せぬ以上、まずはわしの名で広めるのが良かろう。
「いや。販売ルートは近々発表するとしても、最初にお披露目するのはエーヴァウトに頼む方が得策か」
興味を持っておるようじゃし、何よりよそでは誰も知らぬ美味じゃ。
社交の武器として使えるのじゃから、我が愛しの孫も喜んで引き受けてくれるであろう。
その様な場面で使う分は、わしが金を出して小さな工房を作ればよい。
特許自体はルディーン君が持っているのだから、使えば使っただけ彼の口座に金が入るから問題はあるまいて。
「クラークよ。まずは小さな工房で実験的に量産を開始せよ。予算に関してはローランドに話をすれば算出してくれるであろう」
「解りました」
こうして始まった醬油の量産。
そしてその数年後、イーノックカウで広まった新たな調味料が帝国中を席巻していくのはまた別の話。
読んで頂いてありがとうございます。
この話はゴブリンの集落編が終わった後に書くつもりでしたが、どうなるのかという感想を頂いたので急遽ここに入れることにしました。
本来ならまだ試作もしてないのにこのタイミングで書くのはおかしいのですが、それだとかなり先になってしまうので。
因みに約束してしまったのでノートンさんたちとの醤油造りは予定通り、時系列で書くつもりです。
もしまかり間違ってここまで書籍にできるなんてことがあれば、本来の順番通りに載ることでしょうw
さて、今週末ですが用事があって書く時間が取れません。
なのでお休みさせて頂くのですが、今までと違ってもう一つの連載があり、そちらにはストックがあります。
そんな訳で月曜日は転生0ではなく、魔法信者に顕現させられたようですを更新します。
まだ読んだことが無い方は、これを機にそちらも楽しんで頂けたらなぁとw




