閑話 その話の方が大事だというのか!
先日から新しい連載を始めました。
題名は「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」
https://book1.adouzi.eu.org/n1737jf/
まだ始まったばかりなので状況説明的な話が続きますが、すぐに異世界の人たち(主に子供たち)とわちゃわちゃする話になる予定です。
テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
ロルフさん視点のお話です。
「旦那様、よろしいでしょうか?」
わしが本宅のリビングでくつろいでおると、執事長であるローランドが話しかけてきた。
「うむ。何用じゃ?」
「先ほど使者が参りまして、領主様がお越しになるそうです」
「エーヴァウトが?」
ふむ、わざわざ先触れを寄こしたということは、先日報告させたエリィライスについての話じゃな。
カールフェルト家が見つけてきた新たな穀物、エリィライスはかなりの将来性がある植物じゃった。
小麦が粉に挽いてから更に加工をせねば食べられないのに対して、あれは粒のまま茹でることで腹持ちの良いゴハンなるものにすることができる。
「殻やごみを取らねばならぬのは小麦とて同じじゃからのぉ。この差は大きい」
それに水に入れて茹でると、エリィライスは倍以上に膨らむからのぉ。
それは糧食として使うことを考えるとかなりの利点じゃ。
軍事物資として考えても、かなりの価値があるじゃろうて。
「それにセイマイじゃったか。試食したものはそれをしておったが、せずとも食べられるとルディーン君は言っておったな。それにセイマイをしない方が長持ちするとも」
普段はひと手間をかけたものを食し、災害などが起きて食料を早く領民に配らねばならぬ時はそのセイマイなる工程を省けばよい。
確かゲンマイと言っておったか。
その状況で備蓄しておけば、有事にも対応できる。
あの子もまた、とんでもないものを見つけてきたものだ。
「エーヴァウトも報告を聞いて、居ても立ってもおられなかったようじゃな」
森の中の沼地、そこに生えている雑草としか認識されておらなかったというエリィライス。
しかし、その森の中の沼地でも生育するというのがまた素晴らしい。
広い湿地帯がある領地などいくらでもあるからのぉ。
そこの領主に種を分けるだけで、大きな貸しを作れるのじゃ。
貴族として、これほど大きな発見はそうそうないであろうな。
「エーヴァウトのことじゃ。多くの質問をしてくるであろうから、わしもそれに対応する準備をせねば」
そう考えて、ルディーン君やクラークに見せてもらった作業を思い出しながらかわいい孫の到着を待った。
ところが。
「お爺様。私は聞いておりませんよ!」
我が愛しの孫が開口一番にはなった言葉に、わしはたいそう驚いた。
「何を言っておる。エリィライスのことはちゃんと伝えたであろう」
「そうではありません。お爺様が別館の料理長に試作させていたという魚料理のことです!」
なんと! 先触れまで出してこの館を訪れた理由がそれじゃと。
「エリィライスの有用性に気付いて、その話をしに来たのではないのか?」
「あの報告にあった穀物ですね。それに関してはすでに部署を作って調べさせております。そんな事より魚料理です!」
先日ルディーン君の館で行った、エリィライスの試食会。
その時にクラークが外でクレイイールを焼くという失態によって、多くのやじ馬が来ておったが……。
「あの中に、そなたとつながっておる者がおったとはな」
「いえ。私とではなく、知り合いの料理人が仕入れている店のものが居合わせたそうです」
クレイイールそのものは、イーノックカウの屋台街でも売っているものがおるそうな。
それ故にクラークが作っておった料理がいかに特殊なものであるか、遠目であるにもかかわらず気付いたものも多かったとのこと。
「網の上のものは屋台で焼かれているクレイイールとは明らかに形状が違う。その上、今まで嗅いだことがないほど素晴らしい香りがしていたとの証言を得ています。お爺様、一体何を作っていたのですか!」
「何をと言われても、わしは料理人ではないからのぉ」
詳しい説明などとてもできぬが、孫のあまりの剣幕に知っておることを説明する。
「すると、かなり手の込んだ料理なのですね」
「うむ。焼いてからムスという湯気を当てる工程を経て、さらに焼くらしいからのぉ。なぜそのような手間をかけるのかまでは解らぬが、クラークはそうせねばおいしくならないと言っておったな」
わしにはただ美味いということしか解らぬ。
しかしエーヴァウトは、わしのつたない説明を聞いただけである程度のことを察したようじゃ。
「クレイイールというのは泥臭さだけでなく、脂が多すぎてとても食べられたものではないと聞いたことがあります。たぶんその脂を落とすためにそのような工程を経ているのでしょう」
「なるほど。それが解ったのであれば、疑問はすべて解決じゃな」
わしがそう言って話を終わらせようとすると、まだ逃がしませんよとばかりにエーヴァウトの視線が鋭くなった。
「調理法は解りました。しかし、まだ香りの話が残っております」
「やはり、そこに話が行くか」
正直はぐらかしたままで終われればと思っておったが、どうやらそうはいかぬらしいな。
「特殊な調味料を使っているとお話されたそうですね。それはどのようなもので?」
「クラークの知り合いが持ち込んだものでな、しょうゆというものらしい」
しかし、ルディーン君の事を話すわけにもいかぬからのぉ。
クラークの知り合いからのものということにしておいた。
クラークとルディーン君は知り合いだから、ウソは申しておらぬからな。
「しょうゆ、ですか?」
「うむ。この街でも普通に売られているまめと小麦を使って作る調味料と聞いておる」
これに関しては一度説明を聞いただけだから、わしもよく覚えておらぬ。
ただ、ルディーン君が持つスキルを使わなくとも作れることだけは解っておるのじゃ。
「まだ試作段階で、数は多くないらしい。その上、作るのには結構な熟成期間がいると言っておったな」
「なるほど。遠く、海がある土地では塩漬けの魚を熟成させて作る調味料があると聞きます。それのまめ版と言ったところでしょうか」
なんと、わしの説明だけで理解したというのか!
我が孫ながら、こと料理に関しての知識はすごいと感心させられる。
「それを手に入れることはできないのですか?」
「少量であれば、まだクラークが持っておるはずじゃよ。しかし量を欲するのであれば、すぐには無理であろうな」
わしとしても、あのしょうゆとやらを手放すのは惜しい。
しかし、渡さねばエーヴァウトも引き下がらぬじゃろうな。
「欲しければクラークに使いをやって届けさせるが?」
「よろしいのですか!」
「よろしいも何も、もらえなければ帰らぬと顔に書いてあるではないか」
これでまたしばらくの間、あの美味を味わうことができないのか。
少々残念に思いながらも、喜ぶ孫の顔を見てわしは満足するのじゃった。




