642 クレイイールご飯はとってもおいしいんだよ
前回のあとがきでも書きましたが、新しい連載を始めました。
題名は「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」
https://book1.adouzi.eu.org/n1737jf/
まだ始まったばかりなので状況説明的な話が続きますが、最終的には異世界の人たち(主に子供たち)とわちゃわちゃする話になる予定です。
テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
「ルディーン。お米のお料理、できたの?」
お台所に入ってくと、ちょうどそこにディック兄ちゃんに呼ばれたキャリーナ姉ちゃんが入ってきたんだ。
「うん。今からみんなで食べるんだよ」
「やったぁ!」
お庭で焼いてたクレイイールのにおい、キャリーナ姉ちゃんたちの居たお部屋にも届いてたんだって。
だから早くできないかなぁって楽しみにしてたんだよってキャリーナ姉ちゃんは言うんだ。
「キャリーナ姉ちゃん。それお米じゃなくってクレイイールってお魚のにおいだよ」
「え~、あのいいにおいがするの、食べられないの?」
「ううん。今から食べるんだよ」
僕がそう答えると、キャリーナ姉ちゃんはよく解んないってお顔をして頭をこてんって倒したんだ。
でもすぐに、まあいいかって。
「食べられるならどっちでもいい」
キャリーナ姉ちゃんはお米が食べたいんじゃなくって、おいしいものが食べたいみたい。
だから僕に早く食べようよって言うんだ。
「ちょっと待っててね。ちゃんとできてるかノートンさんたちと確かめないとダメだから」
「早くしてね」
キャリーナ姉ちゃんに見送られながら、僕は炊けたご飯の元へ。
するとそこにはノートンさんとカテリナさんが待ってたんだ。
「ルディーン君。ちゃんとできあがっているか確認してもらえるかな?」
「うん、いいよ!」
このお鍋は蓋が鉄でできててとっても重たいから、ノートンさんが開けてくれたんだよ。
だからありがとって言ってからその鍋の中を覗き込むと、ごはんがキラキラふっくらと炊けてたんだ。
「ちゃんと穴も開いてる。あのね、この小さな穴が開いてるのが、おいしいご飯が炊けてる印なんだって」
「なるほど。おいしくできたかどうかが解るサインがあるんだな」
見た目もきれいだし、初めてのご飯が大成功だと思う。
でも、実際に食べてみたいと解らないよね。
だから試食してみようって思ったんだけど。
「あっ、しゃもじがないや」
ご飯をよそうにはしゃもじがいるのに、僕、それをすっかり忘れてたんだ。
「早く作んなきゃ。ノートンさん、あそこにある薪、使っていい?」
「それは構わないけど、他に何か焼く物があるのか?」
「ううん。しゃもじを作るんだよ」
僕が教えてあげると、それを聞いたノートンさんは変なお顔に。
「しゃもじ? ……まぁ、見ていれば解るか」
でも一人で解決したみたい。
だからそっちはほっといて、僕はしゃもじを作ることにしたんだ。
グランリルの村でスティナちゃんの食器を作ったり馬車の車輪とかを作ったから、木にクリエイト魔法をかけるのはなれてるんだよね。
だから僕、焚き付け用の細い薪を持ってそれにクリエイト魔法をかけたんだよ。
そしたらグニャグニャってなって、あっと言う間にしゃもじができあがったんだ。
「それがしゃもじか。それで、何に使うものなんだ?」
「これはね、ごはんをかき混ぜたり、よそったりするのに使うんだよ」
僕はそう言うと、作ったばっかりのしゃもじにクリーンの魔法をかける。
床に置いてあった薪から作ったから、洗わないとばっちいもんね。
そしてお水で濡らしてから、ごはんの入った鍋のところへ。
「ノートンさん。ご飯が炊けたら、最初はこうしなきゃダメなんだよ」
僕は鍋のふちっこにしゃもじを差し込みながら、まずは一周する。
そうやってご飯が鍋からはがし終わったところで、十文字に切り目を入れたんだ。
「なんか変な儀式みたいだな」
「違うよ。炊いたばっかりのお米はくっついてるから、こうやってほぐさないとダメなんだって」
僕は十字に入れた切り目のもう一回しゃもじを入れて、ご飯をえいって掬ったんだ。
そしてそれをすぐ横にこてんって倒すと、切るようにくずしてまたその隣のご飯をえいって。
それを何回か繰り返したら、固まってたご飯がぜんぶほぐれたんだよ。
「なんか、土を耕す工程に似ているな」
「うん。こうするとね、ごはんがふかふかになるんだよ」
こうして準備が全部終わったから、みんなで試食開始。
ちょこっとずつお皿によそうと、三人とも一口でパクリ。
「変わった香りがするのです」
「ああ。それに噛むとほのかな甘みはするものの、味そのものはかなり弱いな」
カテリナさんとノートンさんは、味わいながらご飯をもぐもぐ。
「でも、もちもちで柔らかくっておいしいでしょ。これにさっきのクレイイールをのっけて食べると、きっとすごくおいしいと思うよ」
「そうだな。確かにこの甘みは、強い味のクレイイールと合いそうだ」
そんな二人においしいだろうからクレイイールと一緒に食べようよって言うと、さっそくやってみようってことになったんだ。
「バランスを考えて、クレイイールは少し小さめに切るとしよう」
「ノートンさん。たれも一緒にかけないとダメだよ」
そんなこと言いながら、さっきと同じくらいのご飯にちっちゃなクレイイールをのっけて、その上からおさじでたれをかける。
「それじゃあ、食べてみるとするか」
そしてみんなで同時に口に入れたんだけど……。
「っ!?」
思った以上においしくって、三人とも何にも言わずにひたすらもぐもぐ。
それを飲み込んだところで、ノートンさんが感想を言ったんだよ。
「これはすごいな。クレイイールはパンと合わせてもうまいと思っていたが、コメと一緒に食べると脂のくどさが少し残っていたのだと思い知らされる」
「それにこのたれ、コメに溶け込んで今までに感じたことのないおいしさなのですよ」
カテリナさんはご飯にかかったたれが気に入ったみたい。
このたれご飯の味は、他のものでは絶対出ないよって言うんだ。
「うん。クレイイールもそのたれも、ごはんと一緒だとすっごくおいしいね」
二人の意見には僕も大賛成!
だからノートンさんたちとすっごくおいしいねってお話してたんだけど、
「ルディーンばっかりずるい!」
そしたら後ろからキャリーナ姉ちゃんに怒られちゃった。
「ずっと待ってるのに、何でルディーンたちばっかり食べてるの!?」
「ごめんなさい。キャリーナ姉ちゃんたちのも用意するから、ちょっと待ってて」
大慌てでみんなの分のごはんとクレイイールを用意する僕たち。
それを渡すと、みんなすぐに食べ始めたんだ。
「私これ好き! ルディーン、お家でも作ってよ」
「この魚、食べると脂がすごく出てくるけど、このコメってのと一緒に食べるとちょうどいいな」
クレイイールとごはんの組み合わせは、僕の家族に大好評。
それじゃあロルフさんたちはどうかなぁって見てみると、何でか知らないけどノートンさんから何にものっかってないごはんをもらってたんだよね。
「ロルフさんとバーリマンさんは、クレイイール嫌いなの?」
「いや、そういう訳ではない。まずはこのコメというものの味を確かめようと思ってな」
そっか、これはお米の試食だもん。
たれがかかってると、みんなその味になっちゃうもんね。
ロルフさんたちはさっきの僕たちみたいに、何にものっかってないご飯をパクリ。
「ふむ。もちもちした食感が良いの。それにクラークの言う通り、噛んでおるとほど良い甘みが感じられる」
「それにこの粒の大きさ。煮る前のものと比べるとかなり大きくなっておりますわね。これならば持ち運びも楽でしょうし、食べた感じ満足感も高そうですわ」
ロルフさんたちはご飯を食べながら、また難しい話を始めちゃったんだよ。
でも今度はさっきと違ってノートンさんが入っていって、そんな話は後にしようねって。
「コメの利用法はまた後にしましょう。それより、これを食べてください。チーズをかけた物とは、また違った美味しさですよ」
「おお、そういえばルディーン君が持ってきた調味料を漬けて焼いたと言ったおったな」
「焼いているときも思いましたけど、本当にいい香りですわね」
クレイイールがのっかったご飯を渡されたノートンさんたち。
それを食べた瞬間、二人ともすっごくびっくりしたお顔になっちゃったんだよ。
「何だこれは! 今までクラークが出していたクレイイール料理とはまるで別ものではないか」
「これは……伯爵のお孫様が飛びつきそうなお味ですわね」
お醤油もクレイイールも、ロルフさんとバーリマンさんには大好評だったんだ。
そしてそれはどうやら、他のみんなもおんなじだったみたいなんだよ。
「あっ、お鍋の中が空っぽになってる」
これは試食のはずだったのに、いつの間にかお鍋の中にいっぱい入ってたご飯も山のようにあったクレイイールも全部みんなのお腹の中に消えちゃってたんだ。




