639 クレイイールを焼く香りはいろんな人を引き寄せるんだよ
読者様から638話との齟齬が生まれるとのご指摘があったので、542話のラストを修正しました。
また、ついでと言っては何ですが、しばらく出番が無かったので636話も修正し、ロルフさんたちと別れた時にハンスお父さんたちも別れたことにしました。
炊けたご飯のお鍋は蒸らすためにいったん放置。
僕たちはさっきカテリナさんが蒸したクレイイールとお砂糖とお酒、それにしょうゆで作ったたれが入ったお鍋を持ってお庭に出たんだよ。
「炭、並べるですよ」
「ありがとう。それじゃあ焼いて行くか」
ノートンさんはそう言うと、カテリナさんが炭を入れた焼き台の上でクレイイールを焼き始めたんだ。
最初のうちはそのままで、しばらくして脂が落ち始めたらそれをたれの中にドボンとつけてはもう一回焼き台の上へというのを繰り返す。
「なるほど。炭なんてめずらしいものを使って焼くと思ったら、このたれの焦げる香りをつけるためだったんですね」
「ああ。薪の火だと燃えてしまうからな」
ルルモアさんに言われて、においも味の一つだから大事なんだよって言うノートンさん。
「しかしこのたれが焼ける香り、相変わらず暴力的なほどいいな」
「うん。僕もこのにおい好きだよ」
お醤油のたれって、それだけでも焦げるといいにおいがするんだよ。
今回はそれにクレイイールの脂が焼けるにおいも一緒にするんだもん。
これだけでもお腹がぐぅってなっちゃいそうだよね。
パタンパタン、ジュウジュウ。
ノートンさんがクレイイールをひっくり返すたびに落ちる脂とたれ。
その時に上がる煙は、においと一緒に遠くの方まで流れて行ったんだ。
「庭の方からすごくいいにおいがしてるな」
「あっ、やっぱりルディーンが何かやってる!」
そしたらそのにおいに誘われて、帰って来たディック兄ちゃんとテオドル兄ちゃんがお庭の方に来ちゃったんだよ。
「あっ、お兄ちゃんたちだ。お帰りなさい」
「おう、ただいま」
「ルディーン、今日はお父さんたちと森に行ったんじゃなかったのかい?」
僕とお父さんたち、それにキャリーナ姉ちゃんはゴブリンの村を探しに行くって言って朝、お兄ちゃんたちとお別れしたでしょ。
それなのにお家の庭でお料理してたもんだから、テオドル兄ちゃんは不思議に思ったみたい。
「あのね、森の中でお米を見つけたから帰ってきたんだよ」
「おコメ? 今焼いてるのって、おコメって言うのかい?」
「違うよ。これはクレイイール」
僕が間違えちゃダメっていうと、不思議そうなお顔をするテオドル兄ちゃん。
「えっと、おコメってのを見つけたから帰ってきたんだよね?」
「うん、そうだよ」
「なら、なぜクレイイールってのを焼いてるのかな?」
そっか、テオドル兄ちゃんは僕たちが何でお庭でクレイイールを焼いてるのかを知りたかったんだね。
そうならそうって言ってくれればいいのに。
「あのね、お米を食べるにはおかずがいるんだよ。だからクレイイールを焼いてるの」
「おかず? また新しい名前が出て来たな」
僕がせっかく教えてあげたのに、何でかまた不思議そうなお顔になっちゃったテオドル兄ちゃん。
もう! なんで解んないかなぁ!
僕がそう思ってぷりぷりしてたらね、
「その説明は私がするわ」
近くでお話を聞いてたルルモアさんがテオドル兄ちゃんにお話してくれたんだよ。
「ルディーン君が発見した植物、エリィライスからおコメというものがとれるの。それは煮て食べるそうなんだけど、味があまりしないから味の濃い料理と一緒に食べるみたいなのよ。ルディーン君が言うにはね、そのおコメと一緒に食べる物のことをおかずって言うそうよ」
「なるほど。今焼いてるクレイイールとやらは、そのおかずってわけですね」
ルルモアさんに教えてもらって、テオドル兄ちゃんはやっと解ったって笑ってるんだよ。
でも僕、ちゃんとお話したよね。
そう言って怒ったらテオドル兄ちゃんは、ルディーンの説明はいつも一言足らないんだよなぁって笑ったんだ。
僕たちがそんなお話をしてる間にも、ノートンさんはどんどんクレイイールを焼いてたんだよ。
そのせいか、また別の人がお庭に。
「わぁ、やっぱりクレイイールの匂いだった」
「今日は庭で焼いてるんですね」
現れたのはニコラさんたち。
この間クレイイールを焼いた時に、ニコラさんたちも食べたでしょ。
だから焼いてるにおいに気が付いて、お庭に出て来たみたいなんだ。
「でも、なぜクレイイールを焼いてるんですか?」
「それはね……」
「ああ、ルディーン君。説明は私がするわ」
ニコラさんが聞いてきたから答えようとしたんだけど、ルルモアさんが説明は私がするって。
う~ん、僕が教えてあげたかったのに。
でもテオドル兄ちゃんに教えてあげた時も、ルルモアさんの方が上手にお話してたもんなぁ。
ならこれから来た人たちへのお話は、ルルモアさんに任せちゃったほうがいいかも。
この時そう考えた僕はホントに偉かったんだよ。
だってこの後、大変なことになっちゃったんだもん。
「まさか、庭で焼く弊害がこんなところに出るとは」
「いっぱい人が来ちゃったね」
クレイイールを焼くにおい、当たり前だけど僕んちの外まで出てっちゃってたでしょ。
そのせいで近所の人が集まって来ちゃったんだ。
「あんなにいっぱい人がいたら、ごはんがぜんぜん足りないね」
「いや、流石にあの連中にまでふるまう必要は無いと思うぞ」
その人たちにクレイイールのことを教えてあげてるルルモアさんを見ながら、僕とノートンさんはそんなお話をしてたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
オチを先に決めて書き始めた話なので、ちょっと短めですが今回はここまでで。
ウナギ屋さんって、わざわざ外に煙を出して客寄せをしますよね。
そんな魅惑の香りがするものを庭で焼いているのだから、人が寄ってくるのは当たり前です。
おまけにここは端っことはいえ商業地区の一角、買い物に来ている人たちも多いでしょうから騒ぎになってしまうのも当たり前かと。
さて、転生したけど0レベル2巻、買いましたという報告をいくつかいただいて本当にありがたく思っています。
結構苦労して書籍化作業をしたし、書下ろしのルディーン君と赤ん坊のスティナちゃんの話はかなり気に入っているのでなるべく多くの人たちに読んで欲しいんですよね。
ですのでもし興味があるけどまだ悩んでいるという方は、是非ともお買い上げいただけたらと思います。
何よりこれが売れないと3巻が出せません。助けると思って、なにとぞよろしくお願いします。




