637 えっ、わかんないの?
ごはんはおかずと一緒に食べるでしょ。
だからお米にお水を吸わせてる間に作っちゃおうと思って言ったんだよ。
そしたらノートンさんが、不思議そうなお顔でこう言ってきたんだ。
「おかず? それはなんだ? また新しい料理なのか?」
これには僕、すっごくびっくりしたんだよね。
だっておかずを知らないなんて思わなかったんだもん。
「おかずはおかずだよ」
「いや、そのおかずっていうのが解らないのだが」
僕がおかずはおかずだよって言っても、ノートンさんは相変わらず解んないってお顔をしてるんだもん。
ってことは、ほんとにおかずを知らないの?
「おかずってのはね、炊いたお米と一緒に食べるお肉とかお魚のことだよ」
「肉や魚?」
「うん。それをお料理したののことをおかずって言うんだ」
僕がそう教えてあげるとね、ノートンさんはちょっと考えた後でこう聞いてきたんだ。
「もしかしておかずというのは、メインやサイドディッシュのことか?」
「うん。炊いたお米と一緒に食べるそういうのをおかずって言うんだよ」
僕がそう答えると一応は納得したみたい。
でも、やっぱりなんかしっくりしないってお顔をしてるんだ。
あれ、そういえばノートンさんはロルフさんちの料理長さんだよね。
お金持ちのお家ってパンは最初に置いてあって、お料理だけが一個ずつ出てきてそれを順番に食べるんだっけ。
ならお料理がパンのおかずなんじゃなくって、パンの方がお料理を食べる時に一緒に食べてるものって感じなんだと思う。
それにね。
「そういえば僕んちでもおかずって言ってなかった気がする」
僕だってお母さんに今日のごはんなに? とか、今日のお料理はなに? って聞いてたもん。
ごはんはおかずが無いと食べられないけど、パンは違う。
パンはパンだけで食べちゃえるからお米と一緒に食べようって思うまでは僕、おかずって言葉も忘れちゃってたかも。
「もしかしたら、おかずってごはんの時にしか使わないのかも?」
「ああ、少なくとも俺は聞いたことのない言葉だ」
そっか、料理人さんのノートンさんが知らないならほんとにそうなんだね。
「ところで、これからするのはコメの試食なんだろ? なのになぜサイドディッシュ、いやおかずとやらを作るんだ?」
「あのね、パンと違ってお米はおかずと一緒に食べないとダメなんだよ」
おにぎりならお塩だけでもおいしいかもしれないけど、今から食べるのは炊いただけのご飯だもん。
だからおかずが無いと絶対ダメだと思うんだ。
そのことを教えてあげると何かに気が付いたのか、ノートンさんはああなるほどってうんうん頷いたんだよ。
「コメというのは黒麦と同じような扱いのものなのか」
「くろむぎ?」
「ああ。荒れた土地でも育つ黒くて三角形の穀物でな、それを粉にしたものはパンにならないから水に溶いて薄焼きにするんだ」
その黒麦っていうのはね、それだけだとおいしくないからチーズやハムなんかの塩気が強いものを一緒に包んで食べるんだってさ。
でも僕、お米とその黒麦ってのはちょっと違う気がする。
「う~ん、ちょっと違うかも? だってお米を炊いたのは、お塩をかけただけでもおいしいもん」
「そうなのか? ならどうしてサイドディッシュを作るんだい?」
「それはね、おかずと一緒に食べた方が絶対おいしいからだよ」
お米だけでも甘くておいしいっていう人はいるそうなんだ。
でもね、炊いただけのお米はあんまり味がしないみたいだから、たれを付けて焼いたお肉なんかと一緒に食べる方が絶対おいしいんだって。
だから僕も、お米を食べるならおかずを作らなきゃって思うんだよね。
それを教えてあげると、ノートンさんはおかずを作らなきゃダメな理由がちゃんと解ったみたい。
「なるほど、コメというのは甘みはあるが淡白な穀物なのか。それならば確かにサイドディッシュをつけた方がいいだろうな」
「うん。その他にも、味の濃いシチューなんかをかけてもおいしいみたい」
作り方は解んないけど、カレーってのがごはんには合うんだって。
それに卵と鶏肉をお醤油とお砂糖で煮たのをかけたのもおいしいって、オヒルナンデスヨでやってたのを覚えてるんだ。
あっ、そういえば丸ネギと薄切りのお肉を煮たのをかけたのもおいしいって言ってたはず!
確かつゆだく、だっけ?
あれもお醤油の味だった気がする。
「ノートンさん。僕思い出した! お米はお醤油のお料理と一緒に食べるとおいしいんだよ」
「醤油? というと、あれか? 前に作った肉を粗みじんにして卵と野菜を加えてから焼いたやつ」
「うん。お肉のぐちゃぐちゃ焼きは、お米と一緒に食べたら絶対おいしいよ」
あれって甘くてしょっぱいから、炊いたお米には絶対合うと思うんだ。
でもね、僕の頭の中にはもう一つ、お米と一緒に食べるのなら絶対これってのがあるんだよね。
「でも、ノートンさん。それよりいいものがあるよ」
「いいもの? それは何だい?」
「クレイイール! お醤油を持ってきた時に、お砂糖と混ぜたのを漬けながら蒸したのを焼いたでしょ。あれをのっけたら絶対おいしいはずだよ」
これは前世で夏になるとオヒルナンデスヨだけじゃなく、いろんな番組で特集が組まれてたくらい大人気だったもん。
せっかく初めてお米を食べるんだから、それと一緒にクレイイールを食べたいなぁって僕は思ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
おかずを作る話を書くはずが、なぜかおかずってなんだ? というお話になってしまいました。
というのも、感想でお米は塩むすびでもおいしいけど洋食世界ではおかずが必要なのだろうというお話を頂いたから。
その時思ったんだすよね、そういえばおかずって言葉は西洋には無いのではないかと。
お米を食べる文化圏では料理はご飯を食べるための物であり、あくまで主役はお米です。
でも西洋の映画などを見ると料理はそれだけを楽しみ、パンはコースの合間に食べたり、残ったソースを食べるために使われたりしています。
要は添え物、日本食で言う漬物などの箸休め的な扱いなんですよね。
だからおかずと言っても伝わらないのではないか? そう思った結果このような話になってしまいました。
さて、いよいよ今週の金曜日、6月14日に転生したけど0レベルの2巻が発売になります。
前回書き忘れたので活動報告の方に書きましたが、今回も初回購入特典が付きます。
書籍版にはお父さんとのお話、ネット版ではお兄ちゃんズとのお話が書下ろしでつきます。
2巻の中にはなろうで閑話扱いだったお母さんのお話、レーア姉ちゃんのお話、キャリーナ姉ちゃんのお話がそれぞれ入っています。
そして書き下ろしとして、ヒルダ姉ちゃんと赤ん坊のころのスティナちゃんのお話が入っているのですべてそろえるとカールフェルト家全員の番外編が揃うという形になっています。
流石に書籍版とネット版の両方を手に入れるのは大変でしょうけど、結構苦労して書いたのでできたら楽しんでもらえたら嬉しいなぁ。
また、売れないと3巻が出ないそうなので、もし店頭で見かけたりネットショップのお勧めに出てきたりした時はレジに持って行ったりポチってもらえたらとてもありがたいです。
今回の挿絵のスティナちゃんを見て改めて思いましたが、「スティナのだ!(てっててぇ~!)」と木のさじを聖剣のように掲げる姿を高瀬コウ先生に描いて頂きたいので。
皆様、よろしくお願いします。




