表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

649/759

633 その粉でおいしいものが作れるんだよ

 しばらくの間ギッコンバッタン、ズシャズシャしてたら石臼の中の玄米が白くなってたんだよ。


 ってことで精米作業は終了。


 粉ふるい器の中に移して、お米とその周りについてた黄色い粉とを分ける作業に入ることにしたんだ。


「思った以上にゴミが出るんだなぁ」


 ノートンさんが粉ふるい器をゆすってると、お米を残して黄色い粉がどんどん下に落ちてったんだ。


 それを見てそんなことを言ったんだろうけど、これはごみじゃないんだよね。


「ノートンさん。これも食べ物だから、ごみっていっちゃダメなんだよ」


「そうなのか?」


 お話を聞いてびっくりしたお顔になるノートンさん。


「もしかして、小麦粉のように練って焼いたりするのか?」


「ううん。これはね、漬物に使う粉なんだよ」


 僕ね、この粉にお塩とお水を混ぜて練った物にお野菜を漬けておくとおいしくなるんだよって教えてあげたんだ。


 そしたらノートンさんはちょっと考えた後、こう言ったんだよ。


「中に野菜を入れる? ふむ。酢の代わりに練った粉を使ったピクルスのようなものか」


「似てるけど、ちょっと違うかも」


 ピクルスは酢漬けでしょ。


 でもこれはお酒やチーズみたいに発酵しておいしくなる漬物だもん。


 だからその違いを教えてあげるとノートンさんはああ、なるほどって。


「小魚のアンチョビと作る時に使うオイルに当たるものを、この粉が担うんだな」


 お魚って、そのまま置いとくと腐っちゃうでしょ。


 でもお塩の入ったオイルの中に漬けとくと腐らないんだって。


 それどころかオイルの中に入れて置くと、そのまま食べるよりも小さなお魚がおいしくなるんだよってノートンさんは言うんだ。


「塩を入れたオイルに小魚を漬けておくとおいしくなるのは発酵のおかげだと、前に発酵スキル持ちが言っていたんだ。この粉はそれと同じような効果を野菜に与えてくれるということなんだろ?」


「お魚も発酵するの? それならおんなじなのかなぁ?」


 僕、そのアンチョビってのを見たことないんだ。


 でも入れといたら発酵するっていうのなら、もしかしたらおんなじなのかも?


「どちらにしてもうまいものができあがるというのなら捨てるのはもったいない。それに植物から取れる食材である以上鮮度が大事だろうから、これを使って今ここで一度試してみるか」


「うん! 僕もやってみたい」


 お米は炊かないと食べられないから、お家に持って帰って調理しないとダメでしょ。


 でもこの粉を練って作るぬか床はここでも作れるもん。


 ってことで僕とノートンさんは、ふるった粉を使ってぬか床を作ることにしたんだ。



 ぬか床を作ることになったから、僕は黄色い粉をじーっと見ながらどうやればこれがおいしくなるんだろうって考えてみたんだよ。


 そしたら料理スキルが働いて、何を入れたらいいのかを教えてくれたんだ。


「お水とお塩だけじゃダメなのか」


 僕、ぬか床ってお塩しか入ってないと思ってたんだよ。


 でもね、おいしくするには他に入れた方がいいものがあるんだって。


「でも、無いもんばっかりだなぁ」


 おいしくするには海藻や味の濃いキノコを粉にした、だしになるものを入れた方がいいんだって。


 でも頭の中に浮かんだのは昆布とかシイタケとか、僕が見たことないものばっかりなんだよね。


「これ、使わないとダメ?」


 僕がそう考えなからもう一度粉をじっと見てみると、また料理スキルが働いたみたい。


「そっか、お父さんが飲んでるエールってのをちょびっと入れればいいんだね」


 それにもう一個、絶対に入れた方がいいものがあるみたい。


 だから僕、それのことを知ってるロルフさんの方を見たんだ。


「ロルフさん。ストールさんが教えてくれたんだけど、食べてみたらすっごく辛かった薬草があったんでしょ。それを入れるみたい」


「なんと、あの赤い小さな実を入れるというのか!?」


 僕がちょっと言っただけで、ロルフさんとバーリマンさんはその実のことを思い出したみたい。


 二人とも、すっごく変なお顔になってあれを使うのかぁって。


「使うっていっても、ほんのちょびっとだよ。あれを入れとくとね、この粉で作るぬか床や漬けたお野菜とかが悪くなりにくくなるんだって」


「なるほど、あれは防腐剤のような役割をするのか。ふむ、あの刺激からすると少量でもさぞ効きそうじゃな」


 ロルフさんはそう言うと、ストールさんにちょっと来てって。


「切り株薬局まで行って、赤胡椒の実を買って来てくれるかの」


「赤胡椒でございますね。解りました」


 ロルフさんがお願いすると、ストールさんは解りましたって言ってペコリ。


 そのまま小麦粉屋さんを出てっちゃったんだよ。


 そしたらそれを見たノートンさんが僕に聞いてきたんだ。


「他には何がいるんだい?」


「さっきも言ったけどお塩とお水、あとはエールって言うお酒もちょびっと入れた方がいいみたい」


 ホントは干した小魚とかを入れるとおいしくなるみたいなんだけど、そんなのないでしょ。


 だから僕、頭に浮かんできたものの中で一番簡単なのを作ることにしたんだ。


「水はともかく、流石にこんな所に塩やエールは無いぞ」


「そういえばそっか」


 ここ、小麦粉屋さんだもんね。


 食べるためのお塩はあるかもしれないけど、ぬかに混ぜるほどの量は無いと思う。


 それにエールってお酒もあるはずが……。


「エールならありますよ」


 ここでルルモアさんがそんなこと言いだしたんだよね。


「あるの?」


「ええ。ここの主人、お酒が好きだから少しでいいのならあると思いますよ」


 そっか、お父さんといっしょでここの人もお酒が大好きなんだね。


「だけど、流石に塩漬けを作るほどの塩は無いだろ?」


「ええ、流石に」


 ここは海から遠いから、お塩は魔法使いさんが創造魔法で作ってるでしょ。


 前に見た時もすっごく高かったから、そんなにいっぱいあるはずないよね。


「ふむ。ライラを使いに出すのが、少々早かったようじゃな」


 ストールさんが出かける時に、一緒にお塩も買って来てって頼めばよかったねって言うロルフさん。


 でも、もう出てっちゃった後だからそんなこと言ってもしょうがないよね。


「まぁ、作ればいいか」


 僕はそう言うと腰につけてるポシェットから皮袋を探して、その中から米粒くらいの魔石を取りだしたんだ。


「ノートンさん。どれくらいできるか解んないから、その大きな入れもんとって」


 お砂糖は作ったことあるけど、お塩は初めてでしょ。


 それにお塩の方がお砂糖より安かったから、こっちの方がいっぱいできるはずだもん。


 だから作ったお塩がこばれちゃわないように、ちょっと大きめの入れ物をノートンさんに持って来てもらったんだ。


「こんな大きな入れ物がいるほどできるのかい?」


「初めてだから、解んない」


 おっきな入れ物の中に一個だけポツンと入ってるちっちゃな魔石。


 それを不思議そうなお顔で見てるノートンさんの横で、僕は創造魔法を使うために体に魔力を循環させたんだよ。


 そしたらそんな僕たちに気付いたのか、バーリマンさんがこっちを見たんだ。


「あら? ルディーン君、何をしてるの? って、ちょっと待ちなさい!」


「へっ?」


 バーリマンさんはやめなさいって言ったけど、僕、もう魔法を使っちゃった後だったんだよね。


 だから創造魔法で光る魔石に照らされながら、頭をこてんって倒したんだよ。


「遅かった……」


 そんな僕を見ながらがっくりするバーリマンさん。


 そして。


 ザザザザザザァ。


「わっ、わっ!」


 おっきな入れ物の中に入れて作ったはずなのに、全然入りきらないでお塩があふれ出てきちゃったもんだから僕はすっごくびっくりしたんだ。

 読んで頂いてありがとうございます。


 金曜日は更新をお休みして申し訳ありません。


 あと1000文字ほどで完成するところまで書いてはあったのですが、急に体調を崩してしまい休むことになってしまいました。


 さて、前回のあとがきで次回から調理に入るようなことを書きましたが、ふと、精米するのなら米ぬかが出るよなぁと頭をよぎったんですよ。


 それなのに、ルディーン君がそれを放置するだろうか? いやしない! ということでこのようなお話に。


 その上、実を言うと2巻の書籍化作業の際にすごく気になった部分が出て来たんですよ。


 ならばそこも解消しようと考えて今回のような内容となりました。


 というわけで次回、その気になった部分の解決編です。


 挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ