631 小麦粉屋さんの道具は魔道具だったりそうじゃなかったりするんだよ
何回か箱に入れてはドライをかけてるうちに、乾燥は終了。
ってことで、次は稲をお米にする作業だ。
「ルルモアさん。ここからは小麦粉屋さんが使ってる道具で種を取るんだよね?」
「ええ、そうよ」
ルルモアさんはそう言うとね、作業部屋の隅に置いてある箱のところに歩いて行ったんだ。
「ほら、これよ。この魔道具を使うの」
「この箱、魔道具なんだ」
その箱はね、上に一か所だけ空いてるカバーが付いてるんだ。
でね、そのカバーの無いとこから中を覗き込んでみたら細い剣みたいなのがいっぱい並んでたんだよ。
「なんか危なそうな魔道具だね」
「そうね。だからルディーン君は手を入れちゃダメよ」
本物の剣みたいに刃はついて無いみたいだけど、先っぽはとがってるもん。
刺さるとおケガをしちゃいそうだから、ルルモアさんの言う通り僕は触らない方がいいと思う。
でも、どうやってお米を取るのかは見たいよね。
「ルルモアさん。僕、触らないから横で見てていい?」
「ええ。もちろんいいわよ」
ルルモアさんのお許しが出たから、僕は横からのぞき込むようにして見学することに。
「私も使い方を教えてもらっただけだから、うまくやれないかもしれないけど」
ルルモアさんはさっき乾かしたエリィライスの束を一つ持つと、箱についてるスイッチを入れたんだよ。
すると何かが動き出したような音がしたもんだから、僕はさっきの細い剣が並んでたところを見てみたんだ。
「あれ? 動いてないよ」
でもね、音はしてるのにさっきと全然変わってないんだもん。
だから僕、なんでだろうって頭をこてんって倒したんだ。
「ふふふっ。どうやら動いているのは、この箱の中身みたいね」
ルルモアさんはそう言いながらカバーの中の剣が並んでるところにエリィライスの先っぽを上からかぶせるように入れると、手前にざっと引いたんだよ。
そしたら先っぽの種だけが取れて、そのまま箱の中へざざざぁって入っていっちゃったんだ。
「わぁ、何かガサガサいってる」
「店主さんの説明によると、どうやらこれは種の周りについているもみ殻を取っている音らしいわ」
この箱、魔道具なのは上の剣のとこじゃなくって中にある皮をむくところなんだって。
「魔道具の中には弾力のある魔物の皮が貼られたローラーが二つ入っていて、それが違う速さで回ることによって種の周りのもみ殻をすり取るそうよ」
お米の周りについてる皮、さっきロルフさんが指先で軽くこするだけで取れちゃったでしょ。
それくらい簡単に取れちゃうから、二つのローラーを通すだけでも簡単にとれちゃうんだってさ。
「でも、種を取るのは手で引っ張らなきゃダメだから、大変そうだね」
「ええ、そうね」
一回入れただけでかなり落ちたけど、ルルモアさんの持ってる稲にはまだ種がいっぱい付いてるもん。
全部取ろうと思ったら、何度かやらないとダメだから大変そうだよね。
「そうだな。意外と力もいりそうだし、この作業は俺が変わるよ」
だからなのか、ノートンさんが代わるよって言ってくれたんだ。
「良いのですか?」
「ああ。そのために来たようなものだからな」
ってことで、ここからはノートンさんにバトンタッチ。
「わぁ、いっぺんですごく取れてる」
そしたらルルモアさんがやった時よりも一度にいっぱい取れてびっくり。
「これは下に行くほど幅が狭くなってるからな。力はいるが、下に向かって引くようにすれば一度でほとんど取れてしまうようだ」
「ほんとだ。もうちょびっとしかついてない」
さっきルルモアさんがやった時は、まだいっぱい種が付いてたでしょ。
でもノートンさんがやった稲には、種がほとんどついてなかったんだよね。
「ノートンさんは筋肉モリモリだもん。力いっぱい引っ張れば、あっという間に終わっちゃうね」
「おお、まかしとけ」
そこからはホントに早くって、ノートンさんはどんどん種を取っていったんだよ。
だから、これならすぐに全部取り終わっちゃうなぁって思ってたんだけど……。
「あっ、ちょっと待ってください」
でもね、なぜかそこでルルモアさんがノートンさんに一度やめてって言いだしたんだ。
「どうかしたのですか?」
「はい。このペースだと下の受け皿がいっぱいになりそうなので、一度取り出そうかと」
ルルモアさんはそう言いながら魔道具の前にしゃがむと、下の方に手をかけて引っ張ったんだ。
そしたらそこが外れて飛び出してきたもんだからびっくり。
「なるほど。そこが引き出しになっていたんですね」
「ええ。脱穀した麦は、この引き出しに溜まるようになっているんです」
そう言いながらルルモアさんが見せてくれた引き出しの中は、もみ殻と玄米の状態になったお米がいっぱい入ってたんだ。
「あっ、ほんとに種が皮とお米に分かれてるよ。上から通しただけなのにすごいね」
僕は単純にもみ殻が取れてることにびっくりしてたけど、ルルモアさんは別のことの方が大事だったみたい。
「思った通り、もうほぼいっぱいになってるわ。ノートンさん。脱穀は一旦やめて、先にこれの選別に移りましょう」
「そうですね」
ルルモアさんの言う通り、引き出しの中にはもうあんまり入らないみたいだもん。
だから種を取るのはここで一度お休みして、今度はお米を取り出す作業に移ることにしたんだ。
「ルルモアさん。今度は別の魔道具を使うの?」
「ああ、期待させてしまったようでごめんなさい。種の選別に使うのは魔道具じゃないのよ」
そう言いながらルルモアさんが持ってきたのは、大きな粉ふるい器。
「麦には細いとげがあるでしょ。だからまずはこれで細かいごみを取り除くの」
「このエリィライスにはとげがないようだから、その作業はいらないのでは?」
ルルモアさんは、小麦粉屋さんに教えてもらった通りにやるつもりだったみたい。
だから粉ふるい器を持ってきたんだけど、ノートンさんにとげはないよって言われて、あってお顔になっちゃったんだ。
「そう言えばそうですね。それじゃあ、これは飛ばしましょう」
ルルモアさんは持ってきた粉ふるい器を片付けると、次に変な道具の横に行ったんだ。
「ルルモアさん。これは何する道具なの?」
「これはね、ふいごっていう道具を使ってもみ殻だけを取り除く道具よ」
この道具の中には細い針金で作ったざるが入ってるんだって。
でね、その中に麦ともみ殻を入れてから横についてるふいごっていう風を起こす道具を使うと、軽いもみ殻だけが吹き飛ばされて反対側についてる袋の中に入っちゃうんだってさ。
「エリィライスのもみ殻は麦より大きいけど、重さは同じくらいでしょ。だからこれを使えばもみ殻だけを取り除けるはずよ」
ルルモアさんはそう言うと、玄米ともみ殻をその道具の中にざざざって入れたんだ。
そしてふいごって道具をを使うとぶぉーっていう風の音がして、反対側の布の袋がぷぅーって膨らんだんだよ。
「これで皮が飛んでくの?」
「ええ。袋の中には吹き飛ばされたもみ殻が入ってるはずよ」
そういってルルモアさんが袋を外してみると、中にはもみ殻がいっぱい入っててびっくり。
「すごいや! 一回ぶぉーってやっただけでいっぱい入ってる」
「えっと……うん、ちょっと強く風を送りすぎたかなと思ったけど大丈夫だったみたいね」
ホントはね、ルルモアさんはもっと弱い風で皮を飛ばすつもりだったんだって。
でも初めて使う道具だからよく解んなくって、ちょっと強めの風が出ちゃったみたい。
だから袋の中を見て、ほっとしたお顔をしてるんだよ。
「ちょっと心配したけど種は一粒も飛ばされてないみたいだし、この強さで風を送れば思ったよりも早く終わりそうね」
そう言ってどんどんもみ殻を吹き飛ばしていくルルモアさん。
おかげで玄米ともみ殻に分ける作業、さっきまではおっきな引き出しいっぱいあったのにあっという間に終わっちゃったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
初めは唐箕を出そうかと思ったのですが、よくよく考えると風を送るのってこの世界では風の魔石を使ってるはずなんですよね。
でも属性魔石は値段が高いので、小麦の殻を飛ばすための魔道具に使っているのはちょっと変ですよね。
回転の魔道具を使っているから羽根を回すという手もあるのですが、それもルディーン君が扇風機のような羽根を作って見せるまでは効率の悪い羽根しかなかったという設定になっているのでもみ殻を飛ばすには不向きです。
いろいろと考えた結果、ふいごの登場となった訳です。
さて、休んでばかりで心苦しいのですが、実はありがたいことに2巻にも書籍版と電子版のそれぞれに特典SSを付けて頂けることになりまして。
それを今週末に仕上げてしまおうと思っているので、申し訳ありませんが月曜日の更新はお休みさせてください。
そんな訳で、次回の更新は17日の金曜日になります。




