630 食べ物専門の人なんだって
ロルフさんたちがなんか難しいお話を始めちゃったから、僕たちはちょっと離れたところで休憩中。
でね、ちょっとの間その状態が続いたんだけど。
「旦那様、お待たせしました」
そう言いながらロルフさんちの料理長、ノートンさんが小麦粉屋さんに入ってきたんだ。
「遅くなって申し訳ありません」
そしてその後ろからもう一人、僕の知らないおじさんが。
おっきくて筋肉ムキムキのノートンさんと違って、こっちは普通のおじさん。
服もフードのついてない紺色のローブだから、料理人さんじゃなさそうだね。
でも、誰なんだろう? ノートンさんと一緒に来たってことはロルフさんちの人かなぁ?
そう思いながら僕が不思議そうなお顔で見ていると、それに気が付いたロルフさんがその人を紹介してくれたんだ。
「ルディーン君とは初対面じゃったな。この者はうちが雇っておる食物専門の鑑定錬金術師じゃ」
「初めまして。フランセン家でお世話になっている錬金術師、サムエル・バーンズと申します。以後お見知りおきを」
そう言ってこっちの方を見たまま、軽く頭を下げて挨拶するバーンズさん。
だから僕も、慌ててごあいさつ。
「ルディーン・カールフェルトです」
そう言ってペコってお辞儀したんだけど、解んないことがあったからすぐにロルフさんの方を見て聞いてみたんだ。
「ロルフさん。食べ物専門の鑑定士さんって何する人なの?」
「そうじゃのぉ。例えばその日の料理に出される食材に、何か問題があるものが含まれておらぬか調べるのが主な仕事じゃな」
僕んちでマヨネーズを作る時、使う卵が悪くなってないか鑑定解析するでしょ。
バーンズさんはロルフさんちでそういうお仕事をする人なんだって。
「その他にも、珍しい食べ物や飲み物を手に入れた時などは調べてもらっておる。今日来てもらったのは、それが目的じゃな」
そっか、エリィライスはロルフさんの知らない食べ物だもん。
それを調べるためにバーンズさんに来てもらったんだね。
「旦那様。ルディーンさまとサムエルの挨拶もすんだことですし、早速始めてはどうでしょうか?」
「うむ、そうじゃな」
ストールさんがロルフさんに早くやろうって言いだしたことで、お米を食べられるようにするお仕事開始。
「最初は何をするのかな」
「あのね、まずはこのエリィライスを乾かさないとダメなんだよ」
本当はおひさまに干して乾かすんだけど、そんな時間は無いから今日は魔法で。
「ルルモアさん、なんか入れもんない? これが入るやつ」
「ちょっと待ってね、聞いてくるから」
僕がエリィライスの束を指さしながら言うと、ルルモアさんは小麦粉屋さんのおじさんがお仕事してるところへ。
それからちょっとしたら木でできた箱を抱えて帰ってきたんだ。
「ここにある全部は入らないけど、これでいい? 一束くらいしか入らなそうだけど」
「うん。あんまり一度にたくさんやろうとすると乾かないかもしれないもん。これでいいと思うよ」
ってことでその箱の中にエリィライスの束を入れてっと。
「ドライ」
僕は体に魔力を循環させてから、その箱の中を範囲指定してドライの魔法をかけたんだよ。
そしたらなんと、さっきまで緑色だったエリィライスの束が乾いて茶色っぽくなっちゃったんだ。
これにはみんなびっくり。
「ルディーン、なんか色が変わっちゃったけど大丈夫?」
「どうだろう? ちょっと待ってね」
それを見て心配になったのか、キャリーナ姉ちゃんが聞いてきたんだよ。
だから僕、鑑定解析で調べてみることにしたんだ。
何でかって言うと、このドライの魔法ってかけるものに魔力がいっぱい入ってると魔力同士がケンカしちゃって変になることがあるから。
でも調べてみたら、特に変なことになってなくて一安心。
「うん、大丈夫みたい。乾いたから色が変わっただけみたいだよ」
エリィライスって緑色の栄養をお水で全体に運んでたから乾かす前は緑色に見えてたんだって。
そのお水がドライの魔法で乾いて栄養分が中で固まっちゃったでしょ。
だから本来の草の色である茶色っぽいのが表に出てきてこの色になったみたいなんだ。
「そっか。じゃあ、ちゃんと食べられるんだね」
「うん」
キャリーナ姉ちゃんだけじゃなく、僕もちょっぴり心配だったんだよ。
だから二人で笑いながらよかったねって。
そしたらさ、そんな僕たちに声を掛けてきた人がいたんだ。
それは食べ物を調べる錬金術師であるバーンズさん。
「一ついですか? 今の魔法、ドライと唱えてましたよね?」
「うん。だってこれ、乾かさないと食べられないもん」
僕、お話しながらバーンズさんもドライが薪を作る魔法だって思ってて、それを使って乾かしたもんだからびっくりしたのかなぁって思ったんだよ。
だってロルフさんも前にびっくりしてたもん。
でもね、お話を聞いてみるとそうじゃなかったみたい。
「ドライは本来、切った木の幹などにかけて使う魔法のはず。だからこれだけの草を一度に乾かすことなど本来はできないはずなのですが」
「そういえばそうじゃのぉ。ルディーン君、一体何をやったのじゃ?」
これを聞いて僕、びっくりしたんだ。
だってドライのこと、みんな切ったばっかりの木で薪を作る魔法だって思ってたんだよってロルフさんが前に言ってたもん。
薪は一度にいっぱい使うでしょ。
それなのに一本一本乾かすなんてことするはずないから、一度にいっぱい乾かす方法も知ってると思ってたんだけど。
「薪を作る魔法なんだから、一度にいっぱい乾かせるのは当たり前じゃないの?」
「ふむ。そう考えておったのか」
「どうやら、根本的な認識が我々とは違っているようですね」
ロルフさんたちはね、考えてる一番最初の条件自体が違ってるんだよって言うんだ。
「確かに、ドライの魔法は薪を作るための物だと考えられておった。じゃがな、それは別に薪を一本一本乾かすという意味ではない」
「本来は切り倒した木を乾かし、それを斧などで割ることで薪にするのです」
そっか。グランリルの村でも薪を作る時は森から切ってきた木を長い間積んでおいて、乾いたものを切るもん。
それとおんなじで、ドライの魔法も薪にする前の木にかければいいよね。
「理解して頂けたようですね。それではもう一度お聞きしますが、先ほどは一度に多くの草を乾かしましたよね。あれはどのような方法で行ったのでしょう」
「あのね。ドライはそのまんまだと1個しか乾かせないけど、箱とかに入れた物ならその中を範囲指定することで全部いっぺんに乾かせるんだよ」
「なんと!」
僕がドライの使い方を教えてあげると、ロルフさんたちはびっくりしたみたい。
「ということはこれもクールなどの魔法と同じような使い方ができるというのじゃな」
「うん。範囲指定のやり方はおんなじだよ」
ロルフさんはクーラーを作る時に範囲指定のやり方を教えてあげたからすぐに解ってくれたみたい。
でも、それが解ったから余計にしょんぼりしちゃったんだ。
「単純にどんなものでも乾かすことができるという事実のみに目が行っておったが……いや、よく考えてみればあの時も剥いたベニオウの実の皮をすべて一度乾かしておったか」
クーラーはもういろんな人が作ってるでしょ。
だからやり方さえ教えてあげればドライだってすぐに僕とおんなじことができるってことだもん。
「初めに使い方までしっかりと聞いておかなかったわしの落ち度じゃな」
初めに聞いとけば、もういろんな人が便利に使えていたのに。
ロルフさんはそう言いながら、大きなため息をついたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ルディーン君は初めてドライの魔法を使った日にこのやり方を知りました。
でもそれはステータスの魔法欄で説明を読んだからですよね。
なので当然説明を受けていないロルフさんは、範囲指定で中のものすべてを乾かせるなんて知るはずもありません。
そしてなまじドライで薪を作れることを知っていたからこそ、その常識的な使い方に引っ張られて見えていたものさえ見逃していたんですよね。
常識は時に目をくらませるからこそ、新たな発見があった時はきちんと細部まで説明を聞いておかなければならないと反省しきりのロルフさんでした。
さて、ゴールデンウィークなのですが、実を言うとその殆どが家にいなかったり用事が入っていたりするんですよ。
でもすべて休むと3回も更新を飛ばすことになります。
なので何とか書く時間が取れないかと考えたのですが、流石に難しそうです。
ですので申し訳ありませんが29、3、6の更新はお休みさせて頂き、次回更新は10日の金曜日になります。




