624 魔力溜まりがある森だけがこうなんだって
「それで、どっちに行くの?」
フラフラすることは決まったけど、どっちに行くのかはまだ決まってなかったよね。
だからお父さんに聞いたんだけど、そしたらどうするかなぁっていうお返事が。
「どちらが正しいか解らないから、悩むな」
「それなら左にしましょう」
お父さんが決められなかったからなのかな?
お母さんがにこにこしながらこう言ったんだ。
「どうして左なの?」
「それはね、左に進むと森から川が離れて行って見通しがよくなるから、ゴブリンの集落がある確率が右に進むより低いからよ」
これを聞いて、僕はびっくりしたんだよ。
だって今日はゴブリンの村を探しに来たんだもん。
それなのに無い方に行こうだなんて、お母さんは何考えてるんだろう?
「シーラ、それはどういう意味だ?」
お父さんもおんなじことを考えてたみたいで、お母さんになんでって聞いたんだよ。
そしたらさ、笑いながら初日だからよって。
「探索には少なくとも数日かかるでしょ。それならばまず、探索するという行為になれるべきだと思うのよ」
お父さんたちはやったことあるかもしれないけど、僕とキャリーナ姉ちゃんはこういうの初めてなんだ。
だからお母さんは、とりあえずなれることから始めましょうって言うんだ。
「特にルディーンは、魔法を使いながらの探索になるもの。まずはペース配分を覚えないと」
ただ歩き回るのと違って、僕は魔法で森の中を探さないとダメでしょ。
でもそんなのやったこと無いから、まず安全なところで試してみた方がいいってお母さんは言うんだよね。
「なるほど。確かにルディーンがヘロヘロになってしまったら、探索どころじゃないからな」
「でも僕、お兄ちゃんたちと狩りに行った時も魔法で探したよ」
僕が狩りをする時は、いっつも魔法で獲物を探してるもん。
だから歩きながらでもできるよって言ったんだけど、お母さんはそれでもダメって言うんだ。
「そうは言うけど、狩りをした後は血抜きをしたりして休憩するでしょ?」
「探索の場合は、見つからない限り歩き通しだからな。一応休みは取るつもりだが、疲労の蓄積という点ではこちらの方が多いだろう」
そっか、狩りに行く時とは違うんだね。
お父さんたちから教えてもらった僕は、それなら今日は練習の日なんだねって思ったんだ。
「お父さん。魔法で森の中調べなくってもいいの?」
森へ入る道から外れて歩き出してから、もう30分くらい歩いてるんだよ。
なのにまだ一回も探知の魔法、使ってないもん。
だからお父さんに、なんで? って聞いてみたんだ。
「あのなぁ。この場所から森の中を調べても冒険者が引っ掛かるだけだぞ」
「そうよ。この辺りはまだ採取系の人たちがいるエリアでしょ。調べるのはもう少し先ね」
そっか、冒険者さんがいるならゴブリンの村がある訳ないよね。
でもさ、さっきから僕たち、森の横を歩いてるだけなんだよ。
これじゃあ、お散歩してるのとおんなじじゃないか。
「ねぇ、お父さん。一度探知の魔法使ってみてもいい?」
「いいけど、さっきも言った通り意味はないぞ」
「でも、やってみたいんだ」
せっかく森に来てるのに、このまま歩いてるだけじゃつまんないもん。
だから僕、森に向かって探知を使ってみたんだ。
「ほんとに冒険者さんたちがいる」
そしたらお父さんたちの言った通り、冒険者さんたちがたくさんいたんだよね。
それもあんまり強くない人ばっかりが。
「この辺りはほど良く天幕から離れているが、狩り目的の冒険者は来ないからな。通ったついでに取られてしまう心配がないから、採取専門の連中からしたらいい場所なんだ」
「それに森の生き物はあまり外に出たがらないから、外に近いこの辺りは安全な採取場所でもあるのよ」
お母さんにそう言われて、僕はもういっぺん探知した結果を見てみたんだよ。
そしたらほんとに動物があんまりいなかったもんだからびっくり。
「なんで、森の外に出ないの?」
お母さんになんでなのって聞いてみたんだ。
そしたら魔物や動物にとって、森の中の方が外より安全だからよって教えてくれたんだ。
「森の中には大きな木や草むらがあって、隠れ場所に困らないでしょ? でも、外に出たらすぐ見つかってしまうもの」
「この森には狩り目的の冒険者が多くいるからな。動物だって安全な場所から出たくはないだろうよ」
言われて気が付いたんだけど、そういえば森の外って背の低い草ばっかりなんだよね。
こんなところにいたら、ちっちゃな動物でも丸見えだもん。
冒険者さんたちに見つからない様にしようと思ったら、森から出てくるはずないよね。
僕がそんな事を考えてたらね、キャリーナ姉ちゃんが急にこんなこと言いだしたんだ。
「でもなんで森の外の草は、みんな背が低いの?」
「そういえば、なんでなんだろう?」
グランリルの村の森の外も、出たらいきなり草原になってるんだよね。
それを思い出した僕は、キャリーナ姉ちゃんと一緒に頭をこてんって倒したんだ。
「そういえば前に聞いたことがあるわ」
そしたらね、お母さんが知ってるみたいなこと言いだしたんだ。
だから僕とキャリーナ姉ちゃんは、お母さんになんで? って聞いたんだよ。
「これはどうやら、魔力溜まりがある森の特徴らしいのよ」
お母さんもそれが何でかまでは知らなかったんだけど、魔力溜まりがある森はみんなこうなんだって。
「普通の森は違うの?」
「ええ。川とか谷があって森が切れることはあっても、普通はいきなり草原になるなんてことは無いそうよ」
草原って、ほんとはすっごく寒かったり雨が降らなかったりして木が育たないところがなるんだって。
でもここは寒くないし、おっきな川が流れてるくらいお水もいっぱいあるでしょ。
だからほんとなら木が生えてないとおかしいんだってさ。
「そういえば聞いたことがある。他の土地では木を伐採して森を壊しても、戦争などでその街や村が滅ぶとまた森になると」
「木や草は種を飛ばすから、そうなる方が自然よ。でも魔力溜まりがある森だけが違うってことは、やっぱり魔力が関係しているのでしょうね」
そういえばグランリルの森にある魔力溜まりは魔力が強いから、他よりいい薬草が採れるって言ってたっけ。
もしかしたらこの森の木も、魔力で強くなってるのかなぁ?
そう思いながら森の方を見てたらね、キャリーナ姉ちゃんがこんなこと言ったんだ。
「そっか。魔力で木が強いから、ここの栄養もみんな吸っちゃって短い草しか生えないんだね」
これには僕もお父さんたちもびっくり。
「なるほど。そう考えれば確かに!」
僕は木がなんでこんなに生えてるのかを考えてたけど、ほんとは僕たちがいるここも森になってないとおかしいってお母さんが言ってたもん。
草しか生えてないのがなんでなのか、そっちを考えないとダメだよね。
「キャリーナ姉ちゃん、頭いい!」
「えへへ、そっかなぁ」
「うん! だって僕、そんなこと全然思わなかったもん」
人間や動物だって、ご飯を食べないとおっきくなれないでしょ。
きっとそれは草や木もおんなじだよね。
それに気が付いたキャリーナ姉ちゃんは、ほんとにすごい!
僕は照れてるお姉ちゃんを見ながら、心の底からそう思ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ちょっとした雑談くらいのつもりで書きだしたのに、なぜか一話が描きあがるほどの分量になってしまった。
この設定は前から考えていたんですよ。
私の出張先である三重の工場は少し目を離すとすぐに背の高い草むらになるし、その近くも人の手が入っていない場所は森になってますからね。
高原のような木の生育に不向きな場所だったり、大陸中部で雨が降らないために見渡す限り荒野や草原になっているならともかく、森がある場所なら伐採開墾でもしないかぎり草原になどなるはずがありません。
でも、それも何となく考えていた程度で、それだけで1話書きあげようなどとは考えていませんでした。
ただ雑談ほど、書いていて楽しいものは無いんですけどね。
結果、またほとんど内容がない話が生まれてしまったという訳です。




