620 あれ、なんでいるの?
ストールさんに頭をなでてもらってうれしいなぁって思ってたらね、急にお部屋のドアがガチャって開いたんだ。
「ブルーフロッグの皮、買って来たぞ」
入って来たのはディック兄ちゃん。
テオドル兄ちゃんと一緒に冒険者ギルドまで買い物に行ってたけど、今帰ってきたんだね。
そう思ってお帰りなさいしようと思ったんだけど、その後ろについてきた人を見て僕、すっごくびっくりしたんだ。
「お邪魔するわね」
そこにいたのは何とルルモアさん。
その後からテオドル兄ちゃんも入ってきたんだけど、いるはずのないルルモアさんのことが気になってお帰りなさいすることをすっかり忘れちゃったんだ。
「あっ、ルルモアさんだ! 何でここにいるの?」
「一応確認をしないといけないからと言って、ついて来てくれたんだ」
僕はルルモアさんに聞いたんだけど、答えてくれたのはディック兄ちゃん。
だからお兄ちゃんの方を見て、頭をこてんって倒したんだ。
「確認?」
「ええ。委任するとの書簡を持ってはいたけど、無条件にとはいかなくてね」
なのに今度はルルモアさんが答えるんだもん。
僕、ちょっとだけ頭がこんがらがっちゃったんだ。
そしたらそれを見てたストールさんが、代わりに聞いてくれたんだよ。
「委任状とは、何か正式な頼み事でもあったのでしょうか?」
「はい。ルディーン君のギルドカードを使って買い物をしたいと、こちらのディックさんが仰ったので」
ルルモアさんはね、僕がディック兄ちゃんに頼んだことをストールさんに教えてくれたんだ。
そしたらストールさんはちょっとびっくりしたお顔になって、僕にこう言ったんだよ。
「ルディーン様。そのようなことでしたら、わたくしに声を掛けてくだされば対応いたしましたのに」
「ストールさんに言えばよかったの?」
「はい。旦那様からルディーン様の資産管理も、一部任されておりますから」
イーノックカウの僕んち、ストールさんが管理してくれてるでしょ。
それはお金のこともおんなじで、いろんなとこから入ってくるお金の一部をストールさんが管理してくれてるんだってさ。
「ニコラさんたちの生活費やこの館の維持管理費など、もろもろの経費を賄うために商業ギルドの預金は今、わたくしが管理をしているのです」
「なるほど。それならば確かに、この館の方がルディーン君の使いとして来れば話が早かったわね」
ストールさんの説明を聞いて、うんうんって頷くルルモアさん。
でも僕、ちょっとお話が難しくってよく解んなかったんだ。
だからどういうこと? って、ディック兄ちゃんに聞いたんだけど。
「ルディーンが解らないことが、俺に解るはずないだろ」
どうやらディック兄ちゃんも解ってなかったみたい。
だから他の人に聞こうとしたんだよ。
そしたらテオドル兄ちゃんもニコラさんたちも、なんでかみんな変な方を見て僕の方を見てくれないんだもん。
「もう! 解んないんだから誰か教えて!」
怒ってそう言ったらすぐに、ルルモアさんがごめんごめんって謝ってくれたんだ。
「ルディーン君は、今までに簡易冷蔵庫とかを作って、特許登録をしたわよね」
「うん」
「そのお金が入ってくるのは冒険者ギルドじゃなくて、商業ギルドなのよ。メイド長さんはね、そのお金の出し入れを任されているから、わざわざギルドカードを貸さなくてもよかったのにって言ってるのよ」
僕ね、ギルドカードが無いとギルド預金に入ってるお金を使えないって思ってたんだ。
でもそれだと、僕がいなかったらお金を使うことができないでしょ。
だからロルフさんは商業ギルドの人とお話して、ギルドカードが無くってもお金が出せるようにしてくれたんだってさ。
「わたくしが行かずともフランセン家の正式な使用人ならば支払いができるようになっているので、わざわざディック様やテオドル様が行かずともよかったのです」
「ギルド同士はつながっているからね。ここのメイドさんが来れば、私が確認のために来なくても買い物はすぐにできたってわけ」
そっか、僕のお金でお買い物するのならお兄ちゃんたちに頼むよりストールさんに頼んだ方がよかったかも。
僕がそう思ってたらね、横で聞いてたニコラさんがそ~っと手をあげてストールさんに聞いたんだよ。
「あの、もしかしてストールさんに頼めば、この端切れもすぐに手配してもらえたのですか?」
「端切れですか?」
不思議そうなお顔でニコラさんが差し出した端切れを見るストールさん。
でも次の瞬間、すっごく怖いお顔になっちゃったんだよ。
「ニコラさん。もしや、この端切れで繕った服を着てこの館で過ごそうなどと考えているわけではありませんよね?」
「いえ、そうじゃないんです!」
ニコラさんたちが買って来た端切れって、ほんとは服に開いた穴をふさぐために使うものでしょ。
そのことはストールさんも知ってたみたいで、穴の開いた服なんか来ちゃダメだよって怒ったみたい。
だからニコラさんは、大慌てで違うんだよって説明したんだ。
「ぬいぐるみ、ですか?」
「うん。これのことだよ」
ニコラさんはすぐにこの端切れはぬいぐるみを作るのに使うんだよって教えてあげたんだけど、ストールさんはよく解んなかったみたい。
だからキャリーナ姉ちゃんが、持ってたブラックボアのぬいぐるみを見せてあげたんだ。
「これは、布で作られた魔物ですか? かわいらしいですわね」
「ほんとだ。キャリーナちゃん、いいものを持っているわね」
「いいでしょ。裁縫ギルドのクリームさんに作ってもらったんだ」
キャリーナ姉ちゃんは嬉しそうそう言うと、ぬいぐるみのお顔の一部を指さしたんだよ。
「ほら、見て。端切れでできてるでしょ。これとおんなじのをみんなで作ろうと思ったんだ」
「なるほど、その為の端切れなのね」
説明を聞いてルルモアさんはすぐに納得してくれたんだ。
でもね、ストールさんはちょっと違ったんだよ。
「なるほど、用途は解りました。ですが、それならばなぜ裁縫ギルドから取り寄せないのですか?」
ストールさんは、裁縫ギルドで作った物ならそこに頼めばいいじゃないかって思ったみたい。
でも違うんだよなぁ。
「みんなでどんなのにしようかなぁって、お話しながら作った方が楽しいもん。だから作るんだよ」
僕はね、さっきみんなで端切れを見ながら、どんな色のぬいぐるみを作ろうかなぁってお話してたんだよって教えてあげたんだ。
そしたらストールさんも、それは楽しそうですねって。
「端切れを選んで好きな模様を作り出す。確かにそれは注文したものでは味わえない楽しみですわね」
「そうね。プロに頼むのに比べたらどうしても質の劣る物ができてしまうだろうけど、自分の作った物ならそんな所もかわいく思えるだろうし」
ストールさんもルルモアさんも、自分で作った方がいいのかも? って思ってくれたみたい。
そのせいか、ストールさんは僕にこんなことを言ってくれたんだよ。
「わたくしは忙しいので手伝えませんが、この館に来ている裁縫メイドに声を掛けてみてはいかがでしょう?」
「それって、テーブルや壁を飾る布を縫ってるメイドさんたちのこと?」
「はい。彼女たちは自ら裁縫メイドに志願した者たちばかりです。きっとこの布で作った魔物人形にも興味を示すと思いますよ」
にっこりしながら教えてくれるストールさん。
そしたらキャリーナ姉ちゃんがはいはいって手をあげながら、お姉さんたちならもう知ってるよって。
「さっきメイドさんのとこに端切れをもらいに行った時に見せてあげたから、もう知ってるよ」
「まぁ。それならばすでにどのように作るのか、話をしているかもしれませんわね」
そんなお話をしてるの? だったらちゃんと作り方、教えてあげればよかったなぁ。
ストールさんのお話を聞いて僕はそう思ったんだけど、どうやらキャリーナ姉ちゃんもおんなじ考えだったみたい。
「ルディーン。ぬいぐるみの作り方描けるでしょ? 後で持っていってあげよ」
「うん、僕もそう思ってた」
わざわざ考えなくったって、型紙はすぐに描けるもん。
それを持って行ったらメイドのお姉さんたち、きっと喜んでくれるよね。
「えっ、裁縫メイドさんに作り方を教えるの? それならお金を出すから、私の分も作って欲しいなぁ」
「ルルモアさんも欲しいの?」
「それはそうよ。だってこんなにかわいいんですもの。流石に作るのには参加できないけど、作ってもらえるなら欲しいわ」
そう言ってキャリーナ姉ちゃんが抱っこしてるぬいぐるみの頭をなでるルルモアさん。
そして。
「わたくしも後で頼もうかしら」
ちっちゃくってよく聞こえなかったけど、ストールさんもちっちゃな声でボソッとなんか言ってたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
あとがき設定を羅列している途中で、そう言えばルディーン君のイーノック亭の維持管理費に関する話もしてなかったなぁと気が付いたんですよ。
そこでこのような話を考えたのですが、これが結構難産でして。
ただストールさんが商業ギルドのギルド預金を管理しているというだけの話ではあるのですが、どうその話に持って行こうかと四苦八苦。
そして活動報告に書いた通り、その苦労して書いたものがちょっとしたミスで時空のかなたへと消えてしまったとw
まぁ一度書いたものなので、いつもは4時間近くかかるところ今日は1時間半ほどで書き上げることができたんですけどね。




