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617 いろんな色が無いとかわいくないんだよ


 僕とキャリーナ姉ちゃんがもらった針と糸、それに端切れの入ったかごを持って元のお部屋に行くと、丁度そこにニコラさんたちが帰ってきたんだ。


「ただいま」


「ほら、こんなにいっぱい手に入ったよ」


 そう言って、ちょっとおっきな木箱を見せてくれるアマリアさん。


 でもね、次の瞬間、テーブルの上に置いてあるものを見てびっくりしたお顔になっちゃったんだ。


「なにそれ? 端切れ? それも、みんな新品の布じゃない!」


 ニコラさんたちは、古着屋さんに端切れを買いに行ったでしょ。


 なのに帰ってきたら新しい端切れがいっぱいあるんだもん。


 そりゃびっくりするよね。


「こんないい端切れ、一体どうしたの?」


「このお家に勉強しに来てる、ロルフさんちのメイドさんたちから貰ったんだ」


 ニコラさんたちがお買い物に行ってる間、僕とキャリーナ姉ちゃんが何をしていたのかを教えてあげたんだよ。


 そしたらそれを聞いたニコラさんたちは、三人ともしょんぼり。


「こんないい端切れがあるんじゃ、私たちの買って来たものなんて使えないわね」


 せっかく買って来たのに、こんなのいらないねって言うんだ。


 でもね、それを聞いたキャリーナ姉ちゃんが、そんなことないよって怒ったんだ。


「いるよ! だってほら、これ見て」


 そう言って、メイドさんたちから貰った端切れの入ったかごを見せるキャリーナ姉ちゃん。


 でもね、それを見てもニコラさんたちは何を言われてるのか解らないみたい。


「きれいな端切れよね」


「うん。ほつれもないし、新しいから手触りもよさそう」


 そう言いながら、これがどうかしたの? って不思議そうなお顔をしてるんだ。


 そしたらさ、キャリーナ姉ちゃんはちょっとあきれたお顔をしながら、なんで解んないかなぁって言うんだよ。


「ほら、この中のはみんな白や薄い茶色、それに灰色のしかないでしょ」


「あっ、そういえばそうね」


 そう言いながら、かごの中の端切れを見るニコラさんたち。


「でも、なぜみんなこの色なの?」


「みんな上等な布っぽいけど、色は地味よね」


 ニコラさんたちが買って来た端切れはね、赤とか緑とか、いろんな色がついてるのばっかりなんだ。


 だから余計に、なんでこれには色がついてないのか解んないみたい。


「あのね、これはテーブルにかけるのとか、お部屋を飾るのに使う布から出たものなんだよ」


「服に使う布じゃないから、あんまり色がついてないんだって」


 僕とキャリーナ姉ちゃんが教えてあげると、ニコラさんたちは納得したみたい。


「なるほど、だから白い布があるのね」


「色がついてないと、ちょっと汚れただけでもすごく目立ってしまうもの」


「私、これを見て貴族様かお金持ちが着る服に使ったものなのかと思っちゃった」


 そっか、白い服だとちょっとお外を歩いただけですぐに汚れちゃうもん。


 ロルフさんたちは馬車でしかお外を移動しないからいいけど、僕たちが着てたらすぐに真っ黒になっちゃうよね。


「ぬいぐるみはギュって抱っこするでしょ。だからこっちの布だけで作ったら、すぐに汚れちゃうと思うの」


 そう言って白い端切れを見せるキャリーナ姉ちゃん。


「でも、こういう布も使えば大丈夫でしょ。だからみんなが買ってきてくれた端切れもいるんだよ」


「それに色がついてる方が絶対カッコいいもん。だからこっちの端切れも使わないとダメ」


 白とか薄い茶色ばっかりより、赤とかが入ってた方がいいでしょ。


 だからそっちの方がカッコいいよって言ったんだけど、それを聞いたキャリーナ姉ちゃんが違うよって。


「ルディーン。カッコいいじゃないよ。かわいいだよ」


「そっか。ぬいぐるみだもんね。僕、間違えちゃった」


 持ってたぬいぐるみを見せて、カッコいいじゃないでしょって言うキャリーナ姉ちゃん。


 これ、お顔はブラックボアだけど見た目はころっとしてお姉ちゃんの言う通りかわいいもんね。


 だから僕もそうだねって笑ったんだ。


「そうか。無駄にならないと解って、安心したわ」


 そしたらさ、そんな僕たちを見てニコラさんがほっとしたお顔になったんだよ。


 どうやらユリアナさんやアマリアさんもおんなじ気持ちだったみたい。


 うれしそうに買って来た端切れが入った木箱を僕の前に持って来て、こう言ったんだ。


「ルディーン君。これでかわいいのを作ってね」


「あっでも、こっちのばかり使うとちょっとくすんだ色になっちゃうから、そっちのきれいな端切れも使ってね」


 ニコラさんたちが買って来た端切れには色がついてるけど、古い服からとったものだからちょっと色が落ちちゃってるでしょ。


 だからこれだけで作るより、新しい端切れもいっしょに使った方がきれいにできるもんね。


「うん。じゃあまずはこれで布を作っちゃうね」


 そう思った僕は、ニコラさんたちが買って来たのとメイドさんから貰ったのとをおんなじくらい出したんだ。


 そして体に魔力を循環させてから、布になれってクリエイト魔法を発動!


 でもね。


「あれ? うまくできないや」


「ルディーン、どうしたの? ちょこっとしか布になってないよ」


 僕は全部の端切れをくっつけて布にするつもりだったんだよ。


 でもキャリーナ姉ちゃんの言う通り、くっついたのはほんのちょこっとだけだったんだ。


「それに、ちょっとゆがんでる」


 なんでうまく行かなかったんだろう?


 クリエイト魔法はいつもとおんなじように使ったから、ちゃんとできるはずなんだけどなぁ。


 僕はそう思って、頭をこてんって倒したんだよ。


「ルディーン。失敗しちゃったの?」


「うん。何でか知らないけど、うまく行かなかったみたい」


 僕は試しにポシェットからいつも使ってる鋼の玉を一個出して、それにクリエイト魔法をかけてみたんだ。


 そしたら思った通りちゃんと鉄の串になったから、クリエイト魔法が変になっちゃったわけじゃないみたい。


 なら、なんで失敗したんだろう?


「ねぇ、ルディーン。もらった糸、使ってないよ」


「あっ、そっか! くっつけるのには糸がいるんだっけ」


 端切れを布にする時は、糸で縫うもん。


 キャリーナ姉ちゃんが前に言った通り、やっぱり糸が無いと布にならないんだね。


 そう思った僕は、もう一度クリエイト魔法を発動。


「あれ? さっきよりおっきいけど、やっぱり全部を布にできないや」


「でも、今度のはゆがんでくっついてないもの。やっぱり糸はいるんだよ」


 キャリーナ姉ちゃんに言われて見てみると、確かに今度のはちゃんとくっついてるんだよね。


 なら、やっぱり糸はいるってことなのかな?


「でも、なんでちっちゃな布にしかならないんだろう?」


「鉄の玉はいつもみたいに、ちゃんと串になったのにね」


 二人して頭をこてんって倒す僕とキャリーナ姉ちゃん。


 そしたらアマリアさんが、そ~っと手をあげて聞いてきたんだ。


「ねぇ、ルディーン君。ちょっと聞いていい?」


「うん、いいよ」


「鉄はとっても硬いよね。でも布は柔らかいでしょ。もしかしてその違いで魔法がうまく使えないんじゃないかな」


「あっ!」


 アマリアさんに言われてね、僕はあることを思い出したんだ。


「そういえばクリエイト魔法は、かける材料のことをよく知ってる人じゃないとうまく行かないんだよって誰かが言ってた気がする」


 僕、この布が何でできてるのか知らないもん。


 それに布をどうやって作るのかも、よく解ってないんだよね。


「そっか。だからクリエイト魔法がうまく使えなかったのか」


 原因が解ってすっきり。


 でもね、これでもう一個問題ができちゃったんだよね。


「ぬいぐるみ、どうやって作ろう」


 魔法で作るつもりだったのに、失敗しちゃったでしょ。


 テーブルの上にいっぱいある端切れを見ながら、僕はどうしようかなぁってちょっと困ったお顔になっちゃったんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 今まではほぼ万能と言っていいほど活躍したクリエイト魔法。


 しかし今回はうまく行きませんでした。


 そりゃそうですよね、前からルディーン君、布のことをよく知らないって言っていましたし。


 クリエイト魔法の初登場からずっと言われていた欠陥を前に、ルディーン君はどうやってこの問題を解決するでしょう?


 はい、そこ。簡単じゃないかって言わない。


 そんなこと、作者も解っているのですからw

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― 新着の感想 ―
[一言] 作者や読者は知っていても、ルディーンがどのように課題を攻略することが肝なのです。暖かい目で見守ることが正解だと思います。 HUNTER×HUNTERだと某操作系能力者が物の本質を理解するため…
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