616 ほかの村だと穴が開いても新しいのは買わないんだって
「ほら、そろそろ泣き止め」
「ぐすっ」
ディック兄ちゃんのために怒ってあげたのに、なんでか知らないけど僕がお兄ちゃんに怒られちゃったでしょ。
だから泣いちゃったんだけど、その後ディック兄ちゃんとアマリアさんがごめんなさいしてくれたから仲直り。
ぬいぐるみのお話を続けることになったんだ。
「ねぇ、ルディーン君。布があれば、このぬいぐるみは作れるの?」
さっき布を買うってお話をしてたからなのか、ニコラさんがこう聞いてきたんだよね。
だから僕、できるよって答えたんだ。
「うん。クリームお姉さんのお手伝いをしたから僕、作れるよ」
ブラックボアのぬいぐるみを作った時も、お母さんと一緒にお手伝いしたでしょ。
その時作り方は全部見たし、型紙もどんなだったか覚えてるもん。
だから材料さえあれば、クリエイト魔法で作れるんじゃないかなぁって思ってるんだよね。
「そっか。ならもう一つ質問。それはこのぬいぐるみに使っているような端切れでもいいの?」
「うん。たぶん大丈夫」
裁縫ギルドでクリームお姉さんが、端切れでもつなぎ合わせれば布になるよって教えてくれたからね。
ぬいぐるみを作れるくらい端切れがいっぱいあったら、たぶん作れると思うんだ。
だから大丈夫だよって答えると、それを聞いたニコラさんはにっこり。
「ねぇ、端切れならあの店に行けば手に入るんじゃない?」
「ああ、あそこか」
急にユリアナさんたちと、こんな風に盛り上がり始めちゃったんだよね。
でも、僕たちには何のこと話してるのか全然解んないでしょ。
だからキャリーナ姉ちゃんが聞いたんだ。
「ニコラさん、なんのお話してるの?」
「ああ、ごめんなさい。私たちが冒険者になる前によく使っていた店があってね」
「そこへ買いに行けばいいんじゃないかなって話をしていたのよ」
ニコラさんたちはまだ村に住んでた時、あんまりお金がなかったんだって。
だから服に穴が開いちゃったりしても、新しいのを買ったり作ったりすることができなかったそうなんだ。
「そんな時、私たちの村では端切れで穴をふさいでいたの」
「さっき話していたのは、その端切れを売っている店のことよ」
グランリルの村だと、穴が開いちゃったりしたら新しいのを作ってもらってるんだ。
だから僕、このお話を聞いてびっくり。
「端切れでふさぐの?」
「ええ、そうよ」
「私たちが村にいたころ着ていた服はみんな、ひじやひざ、それにお尻がつぎはぎだらけだったわね」
ニコラさんたちはね、そのころ穴をふさぐのに使ってた端切れを売ってるお店がこの近くにあるんだよって教えてくれたんだ。
「そのお店は商業地区のはずれにあって、この館からならすぐに行けるところにあるのよ」
「ただそこに売ってるのは、このぬいぐるみに使われているようなきれいな端切れじゃないけどね」
ブラックボアのぬいぐるみは、裁縫ギルドで出た端切れを使ってできてるでしょ。
だからみんな新品のきれいな布なんだけど、ニコラさんたちが言ってるお店で売ってるのはちょっと違うんだって。
「そこは着古した服をほどいて再利用する時に出た端切れを売っているお店なの」
「でも空いた穴をふさぐのに使うものだから、擦り切れていたりはしないのよ」
「こんなにきれいな端切れじゃないけど、ぬいぐるみを作るのには使えるんじゃないかな」
アマリアさんとユリアナさんはぬいぐるみのこと、すっごく気に入ってたでしょ。
それはニコラさんもおんなじだったみたいで、端切れで作れるのなら今から買ってくるって言うんだ。
「じゃあ、僕も一緒に行くよ。お金払わないとダメだし」
「ああ、大丈夫。少しくらいならステラさんから貰ってるから」
ニコラさんたちが生活するお金って僕が払うことになってるでしょ?
だからストールさんからお金をもらっているって聞いてびっくり。
「ニコラさんたちのお金、僕が全部払うんじゃなかったの?」
「あれ、知らないの?」
「服を買う時のように大きなお金がいる時は別だけど、普段の生活費はこの館の維持費から出てるそうよ」
僕んちって、ロルフさんとこのメイドさんや執事さんたちのお勉強に使ってるでしょ。
だからこのお家を管理するお金はロルフさんが払ってるそうなんだ。
ニコラさんたちは僕んちに住んでるから、必要なお金はその中から出してもらってるんだってさ。
「前にストールさんに聞いたら、ルディーン君には話してあるって言ってたけど」
「なんでも、この家を買う時にそういう話が出たって言ってたわよね」
「んー、なんか聞いた気がする」
そういえばこのお家を買った時に、メイドさんたちのお勉強をする場所を借りる代わりにロルフさんが管理してくれるって言ってたっけ。
そっか、ニコラさんたちがご飯を食べるお金とかもロルフさんが払ってくれてたのか。
今度会ったら、ちゃんとありがとうしないとダメだね。
「どちらにしても、端切れなんて本当に安いものだから大丈夫」
「ちょっと行って、買ってくるわね」
僕がそんなことを考えてると、その間にニコラさんたちは端切れを買いに出てっちゃったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
前回の後書きの予想通り、かなり中途半端な分量になってしまった。
流石に今回も次の話をつなげるとまた次回が中途半端な分量になりかねないので、少々短めですが今日はここまでで。
さて話は変わりますが、活動報告へコメントをくださった方々、ありがとうございます。
あちらは感想欄と違って返事が書きにくいのでこちらでお礼の言葉を。
正直買ってもらえるかどうか不安が大きいので、予約した等のお言葉は大変うれしいですし、とても励みになります。
先日高瀬コウ先生から表紙やキャラクターのラフ画を頂いたのですが、ほんと素晴らしいんですよ。
まだラフ画なのでお見せできないのですが、表紙に関してはちゃんとしたものができたら編集さんの確認を取ってから後書きに載せたいと思います。
ただ、一番気に入ってる背表紙の絵は流石に無理かも? すごくかわいいんですよ、この絵。
気になる方は発売してから店頭でご覧ください。背表紙を見るだけなら無料ですからw
でも、できたら買って欲しいなぁ。売れないと続巻が出せないので。




