613 ぬいぐるみを見たら誰でもギュってしたくなるよね
僕がお母さんたちとお家に帰ったら、入口のとこでニコラさんたちが居たんだよ。
「わぁ! キャリーナちゃん、何それ?」
「いいでしょ。ルディーンからもらったんだ」
キャリーナ姉ちゃんはね、僕がクリームお姉さんからもらったブラックボアのぬいぐるみを抱っこしながら帰ってきてたんだよ。
ニコラさんたちは、ぬいぐるみなんて見たこと無いでしょ?
だからキャリーナ姉ちゃんが抱っこしてるブラックボアのぬいぐるみを見ると、すぐにかわいいかわいいって大騒ぎ。
どこで手に入れたの? って聞いたもんだから、キャリーナ姉ちゃんはうれしそうに僕からもらったんだよって教えてあげたんだ。
「ルディーン君が作ったの?」
「ううん、違うよ。裁縫ギルドのクリームお姉さんにこんなのがあるよって教えて作ってもらったんだ」
僕が裁縫ギルドであったことを教えてあげると、ニコラさんたちはちょっとびっくりしたお顔になったんだよ。
「ルディーン君がもらったのに、キャリーナちゃんにあげちゃったんですか?」
「これ、布でできてるし、詰め物の量を考えるとかなり貴重なものだと思うんだけど」
布って作るのが大変だから、買うとすっごく高いんだって。
それにキャリーナ姉ちゃんが抱っこしてるぬいぐるみは、見ただけですっごくふかふかしてるって解るもん。
ニコラさんたちは、そんなすごいものをお姉ちゃんにあげたの? ってびっくりしてるみたいなんだ。
でもね、それってそんなにおかしなことなのかなぁ?
「僕、男の子だもん。これはキャリーナ姉ちゃんの方が持っててうれしいと思うからあげたんだよ」
ブラックボアのぬいぐるみは丸っこくって抱っこすると気持ちいいから、僕もちょっとだけ欲しいなぁって思ったんだよ。
でもキャリーナ姉ちゃんがもっと欲しそうにしてたから、あげちゃったんだ。
「へぇ。よかったわね、キャリーナちゃん」
「うん!」
ニコラさんによかったねって言われて、すっごく嬉しそうにブラックボアのぬいぐるみをぎゅってするキャリーナ姉ちゃん。
そしたらアマリアさんが、そんなお姉ちゃんにちょっとだけ貸してってお願いしたんだよ。
「キャリーナちゃん。ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから私にも抱っこさせて」
「あっ、私も! 私も抱っこしたい」
キャリーナ姉ちゃんがぎゅっとするだけで、ふにゅってするぬいぐるみ。
それだけで抱っこしたら気持ちいいって解るもん。
だからアマリアさんだけじゃなくって、ユリアナさんまでキャリーナ姉ちゃんに貸してって言いだしたんだ。
「ちょっとだけならいいよ」
「やったぁ」
キャリーナ姉ちゃんが渡してあげるとね、受け取ったアマリアさんは大喜び。
すぐにギュっとしたんだけど、次の瞬間すっごくびっくりしたお顔になっちゃったんだよ。
「なにこれ、すごく気持ちいい」
「そんなに? そんなに気持ちいいの?」
「わらみたいなものが詰まってるのかと思ってたけど、そんなのとは比べ物にならないくらい柔らかいの」
アマリアさんがそう言いながらぬいぐるみを渡すと、ユリアナさんはすぐにギュってしたんだよ。
そしたらさっきのアマリアさんとおんなじで、すっごくびっくりしたお顔になっちゃったんだ。
「ルディーン君、何これ? 一体、何を入れたらこんなに柔らかくなるの?」
「あのね、ブルーフロッグの背中の皮、あれをなめしたのが入ってるんだよ」
そういえばクリームお姉さんも、冒険者ギルドが売り出したばっかりの物だよって言ってたっけ。
それじゃあユリアナさんたちが知らなくっても仕方ないかぁって思ってんだけど。
「ブルーフロッグの背中の皮って、よほど腕の立つ冒険者じゃないと傷だらけで使い物にならないって言うあれよね」
「確か、売り出されるものはお貴族様や大金持ちしか買えない値段って聞いた気が……」
どうやら二人とも知ってたみたい。
さっきまではニコニコしながらギュってしてたのに、ユリアナさんはぬいぐるみをすっごく大事なものみたいに持ち始めるんだもん。
だから僕、すぐに大丈夫だよって教えてあげることにしたんだ。
「それは硬くないとこだけを切って作ったのが入ってるから、そんなに高くないってクリームお姉さんが言ってたよ」
「高くないの?」
「うん。このお家の入口に座るとこが柔らかい椅子が置いてあるでしょ? あれもこれとおんなじのが使ってあるんだ」
僕ね、このお家にある椅子とおんなじのだよって教えてあげたらきっと安心すると思ったんだ。
でもそれを聞いたニコラさんたちが、こんなことを言いだしたんだよね。
「入口のって、あのお客様用のテーブルセットのこと?」
「あれって確か、ストールさんがかなり高価なものだと言っていた気が……」
これを聞いて、今度は僕がすっごくびっくりしたんだよ。
だってあれ、このお家ができた時にストールさんが、何にもないのは寂しいから置いただけって言ってたもん。
「そんなことないよ。だってストールさんがロルフさんに、ここには何にもないから置いといたって言ってたもん」
「でも、来賓用のテーブルセットだって言ってたわよね」
「テーブルもすごく高そうで、そんなのが両側の窓のところに2セット置いてあったから、初めて見た時は凄く驚いたのを覚えてるわ」
そういえば椅子と一緒に置いてあったテーブル、おっきくてきれいな飾りが彫ってあったような気がする。
ってことは、あれってやっぱり高いものなのかなぁ?
「それと同じものが使われているってことは、やっぱりこれも」
そう言ってぬいぐるみをまじまじと見るユリアナさん。
でもね、ちょっと離れたところで僕たちのことを見ていたお母さんが、笑いをこらえるように言ったんだ。
「そんなに大事そうにしなくても大丈夫よ。さっきルディーンも言ってたじゃない。それに使われている素材は、冒険者ギルドから安価で買えるそうよ」
「それって、本当なのですか?」
「ええ。ブルーフロッグ自体はほぼ毎日入荷するくらい、冒険者ギルドではおなじみの素材でしょ。活用法さえ見つかれば、安くなるのは当たり前よ」
ブルーフロッグの背中の皮が高かったのは、狩る時に傷が付いたら硬くなって使えなくなると思ってたからだもん。
数自体はいっぱい入ってくるんだから、柔らかいとこだけを切り抜いても使えるって気が付いたら安くなるのは当たり前だよって教えてあげたんだ。
「そうか、ブルーフロッグなら私たちも狩ったことあるものね」
「傷がついてもいいのなら、確かに安くなるかも」
お母さんのお話を聞いて、ユリアナさんたちはほっとしたみたい。
「それなら、安心して抱きしめることができますね」
さっきまであんなに大事そうに持ってたのに、ユリアナさんは形が変わっちゃうくらいブラックボアのぬいぐるみをギュって抱っこしたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
本来書くはずだったものの前振りくらいのつもりで書きだしたのに、楽しくなってそれだけで1本できあがってしまったw
そのせいでまたも内容が薄い話になってしまった。ちょっと反省しなくては。
さて、気を取り直して皆様に一つお知らせが。
すでに活動報告でお知らせしたのでご存じの方もいると思いますが、この度、本作「転生したけど0レベル~チートがもらえなかったちびっ子は、それでも頑張ります~」の書籍化が決まりました!
今まで何度も後書きや感想返しで書いていた通り、正直なところすでに書籍化は諦めていたので打診が来た時にはすごく驚きました。
発売はアース・スター様からで、発売日は3月15日です。
絵は高瀬コウ先生。まだラフ画だけですが見せて頂いたイラストはかなりかわいかったです。
まだ完成画ではないので出してはダメと編集さんから言われているので、お見せできないのがとても残念。
内容の方ですが、今まで感想などで頂いていた初期の心理描写が大人びているとか、無駄な表現をだらだらと書きすぎるという部分は大幅に修正しました。
正直かなり長い時間をかけて本編の殆どすべてのエピソードに加筆修正をしているので、なろう版に比べるとかなり読みやすくなっていると思います。
また、書籍化ということで当然書き下ろしエピソードもあります。
すでにアマゾンと楽天で予約が始まっているようなので、もしよければ購入を検討して頂けるとありがたいです。
売れないと続巻が出せないので、よろしくお願いします。
できたらスティナちゃんのイラスト、特に勇者の剣(自分専用の木のおさじ)を高々とかかげる挿絵をあのかわいいタッチで是非とも描いてほしいので、それまでは何とか出し続けたい。
うちのメインヒロイン最大の見せ場なのでw




