612 ハンスお父さんの受難
今回はハンスお父さん視点です。
「ああ、カールフェルトさん、ちょうどいい所に」
冒険者ギルドに顔を出すと、予想通りカウンターにいたルルモアさんが俺を見つけて声を掛けてきた。
「はぁ。やっぱり厄介ごとになっていたか」
ため息交じりに片手をあげて挨拶をすると、俺はルルモアさんがいるカウンターへと歩を進める。
「どうせギルマスの呼び出しなんだろ?」
「あら、予想をしていらっしゃったのですか?」
「ああ。シーラから言われてな」
本当なら今日は、家族で探索の準備をするはずだったんだ。
でもルディーンが新しい発見をしたらしく、シーラから言われてしまったんだよなぁ。
子供たちを連れて、ギルマスたちと話をする訳にはいかないでしょって。
そんな訳で、ルディーンとキャリーナはシーラに任せて、俺一人で冒険者ギルドにいるという訳だ。
「シーラさんから? ということは、フロートボードの話はすでに知っているのですね?」
「ルディーンが話してくれたからな」
俺がそう答えると、ルルモアさんは少しお待ちくださいといってカウンターにいた他の職員に小声で一言。
その職員が階段をあがっていくのを確認してから、再度俺の方へとやってきた。
「今ギルドマスターのところに人をやりましたから、私たちも向かうことにしましょう」
「はぁ。難しいことは解らないから、本当なら行きたくないんだがな」
話がルディーンのことだから、流石にそういう訳にもいかない。
イヤイヤながら俺はルルモアさんの後について、ギルドマスターの部屋へと続く階段を上がっていった。
「お前のところの息子は、ちょっと目を離すとすぐにとんでもないことをしでかすな」
「ほんと、なんで俺とシーラからあんな凄い子供が生まれたのやら」
案の定、ルディーンが見つけたという新しいフロートボードの使い方はとんでもない発見だったらしい。
詳しいことはギルマスもよく解っていないようなのだが、本当にいろいろなところでその真偽や有効な使用方法が話し合われているそうな。
「今までも、街中で日常的に使われておった魔法だからな。まさかこんな使い方ができるなどまさに寝耳に水。知恵者と呼ばれるやつらが皆、顔色をなくしておったそうだ」
ギルマスはとても愉快そうに笑っていたのだが、次の瞬間、急に真剣な顔になってこんな事を言いだしたんだ。
「今回の話、流石のフランセン老でもルディーン君の名前を伏せることができないようでな。もしかすると、今まで以上の騒ぎになるかもしれぬ」
「そんな大げさなことなのか? ただ、新しい使い方が解っただけだろ?」
確か、新しい使い方をすると橋を架けるのが楽になるという話だったな。
それだけ聞くと確かにかなり便利だなと思うが、でもそれだけのことだろ?
そう思った俺は、何を大げさなことを言っているんだと笑おうとしたんだ。
だがギルマスは、そんな俺にこう言った。
「あのな、このフロートボードは魔法が使える者のほぼすべてが覚えているといっていいほどの魔法なのだぞ」
「それがどうかしたのか?」
「解らぬか? それほど有用で、多くの者が使える魔法の新しい使い方が見つかったのだ。その情報がどれほどの価値を持つか、考えてもみよ」
正直、ここまで言われても俺にはよく解らない。
だがギルマスの表情から、これが大事だということだけは解った。
「おい、もしかしてこれでルディーンに何かあるんじゃないだろうな」
「いや、この発見によって彼がどうこうなるということはない。別に新たな魔法を生み出したわけではないし、秘匿するような効果でもないからな」
だから慌てて大丈夫なのかと聞いてみたところ、ルディーンに大きな問題が降りかかるということは無いらしい。
それを聞いてほっと胸をなでおろしたのだけど、そんな俺にギルマスが爆弾を落としてきた。
「ただ、これだけの発見だからな。もしかすると帝国府から、少なくとも中央の魔法局から確実になにか言ってくるだろうな」
「なにかって、なんだよ」
「そうさな。叙勲くらいはされるのではないか?」
じょくん?
言われた意味が解らず、俺がぽかんとしていると、ギルマスはあきれ顔で教えてくれた。
「勲章がもらえるってことだよ」
これには流石に開いた口が塞がらない。
ルディーンはまだ8歳だぞ。
そんな子供に勲章?
「待て待て待て。じゃあ、何か? ルディーンが帝都のお貴族様の前に呼び出されるっていうのか?」
「いや、流石に8歳の子供を中央に呼び出すなんてことはしないと思うぞ」
それを聞いて俺はほっとしたのだが……。
「多分親であるハンス、お前が代わりに呼び出されるんじゃないか?」
「おっ、俺が!?」
これを聞いた瞬間、あまりのことに頭が真っ白に。
しかしそこで、ルルモアさんが放った一言で俺は何とか持ち直すことができたんだ。
「ああ、それは多分大丈夫だと思います」
「本当か? ルルモアさん」
「はい。フランセン様とバーリマン様が、この街でのルディーン君の後見人となっているようですから」
話によると、その後見人っていうのになってくれているおかげで、貴族関係のことはその二人が何とかしてくれるらしい。
「式典を開く場合、平民のカールフェルトさんを呼ぶよりもフランセン様やバーリマン様を呼んだ方がスムーズに行きますからね」
「ふむ。確かに作法を知らぬこいつを式典の主役にするのは、少々心許ないからな」
難しいことはよく解らないが、どうやら俺を呼んでやり方を教えるよりも知っている人を呼んで式典とやらをやった方が楽だという考えのようだ。
「まぁ、何にしても俺は行かなくても済むということだな」
「はい。最終的にはフランセン家とバーリマン家がそう動くと思いますよ」
よかったぁ。
安堵のあまり脱力する俺。
しかし、そんな俺をルルモアさんは放っておいてはくれなかった。
「ただ、これだけの功績ですから、これまでのような報奨金をもらって終わりということにはならないと思われます」
「えっと、それはどういう?」
「流石に爵位まではもらえないと思いますが、勲章の位によって毎年一定の金額が支給されるでしょうね」
どうやらルディーンは、これから一生帝国から給金が支払われるようになるそうな。
それを聞いただけで俺はもういっぱいいっぱい。
「後、中央には行かなくてもいいと思いますけど、領主からの呼び出しは間違いなくありますからその覚悟だけはしておいてくださいね」
それなのにルルモアさんが最後に大きな爆弾を落としてきたせいで、俺は座っていた椅子から崩れ落ちることになったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ルディーン君たちがぬいぐるみを作っている間に、ハンスお父さんは大変なことになっていました。
ただ、本来ならこんなものじゃ済まないはずなんですよね。
だってルディーン君、今では誰も使えない転移魔法を復活させているのですから。
ハンスお父さんはもっとロルフさんたちに感謝した方がいいと思う今日この頃ですw




