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閑話 新し年が来た


 グランリルの村はね、新しい年になるとみんなお仕事をお休みして家族でお祝いするんだよ。


 だから僕んちも、朝からご飯を食べるお部屋に集まっておしゃべりしてたんだ。


「ねぇ、ルディーン。お祝いなんだから、なんか新しいお菓子作ってよ」


 新しいお菓子かぁ。


 キャリーナ姉ちゃんに作ってって言われた僕は、なんかあったかなぁって頭をこてんって倒したんだよ。


 そしたらさ、それを見たお母さんがこんなこと言ってきたんだよね。


「前にイーノックカウで買って来た白い大粒の豆。あれって、お菓子に使うものじゃないの? ずっと置いたままだけど」


「あっ、そうだった! ありがとうお母さん」


 前にイーノックカウにある豆のお店で大豆を見つけたでしょ。


 あの時は他に何も買わなかったけど、他にもいろんな豆が売ってたから何度か見に行ったんだよね。


 お母さんが言ってるのはね、その時見つけた豆のことなんだ。


「ルディーン。お豆のお菓子を作るの?」


「う~ん、そうだけどちょっと違うかも」


 確かにその豆を使ってお菓子を作るんだけど、僕が考えてるのは豆のお菓子じゃないんだよね。


「でも、お豆を使うんでしょ?」


「そうなんだけど……なんて言えばいいか解んないから、できたのを見て」


 僕、何とか教えてあげようって思ったんだけど、うまく言えそうになかったんだ。


 だからお母さんに手伝ってもらって、思ってるお菓子を作ることにしたんだよ。



「お母さん。芋揚げに使うお芋出して」


「あれ? 豆を使うんじゃないの?」


「だってお豆って、水につけとかないとすぐに使えないもん。だからその間に他の準備するんだ」


 売ってる豆はみんな一度乾燥させてあるから、水につけて戻さないと使えないんだよね。


 だからツボから白い豆を取り出すと、おっきめのボウルに入れてお水につけたんだ。


「ほんとに真っ白なんだね」


「うん。あんまり見たこと無いお豆だよね」


 水につかった豆を見ながらキャリーナ姉ちゃんとそんなお話をしてたらね、お芋を出してきたお母さんからこれをどうするのって聞かれたんだ。


「あのね、ねばねば草の粉と混ぜて作る柔らかいお菓子を作るんだよ」


「ああ。おもちとかいう、あれね」


 前の世界ではね、新しい年になるとみんなでおもちってのを食べてたんだ。


 でもおもちを作るには、それ用のお米がいるでしょ。


 だからその代わりになるお芋のもちでお菓子を作ろうと思ったんだ。


「わかったわ。じゃあまずは、芋をゆでないとダメね」


 このお芋のもち、実はお母さんやお姉ちゃんたちが大好きなんだよね。


 だからそれを使ってお菓子を作るんだよって教えてあげたら、お母さんはニコニコしながらお芋をゆで始めたんだ。



「レーア姉ちゃん。このお豆、ゆでて」


 お母さんには、お芋のもちを作ってもらわないとダメでしょ。


 でも僕やキャリーナ姉ちゃんだけだとまだ火を使っちゃダメだから、レーア姉ちゃんにお願いしたんだ。


「ええ、いいわよ。どれくらい煮ればいい?」


「えっとね、固まった細かい泡がいっぱいできるくらい。それが終わったら、お湯を捨ててお豆を洗わないとダメなんだよ」


「ああ、まずは灰汁取りをするのね」


 これから作るお菓子はね、前の僕のおばあちゃんがよく作ってくれたんだ。


 前の僕はね、ちっちゃなころからそれが大好きでいっつもお手伝いしてたんだよ。


 だから僕も作り方をよ~く知ってるんだ。


「こんな感じかな? ルディーン、これを水で洗ったらまた煮ればいいの?」


「そうだけど、今度はこれを一緒に入れないとダメなんだよ」


 そう言って僕が取りだしたのは、ベーキングパウダーもどき。


 これをちょびっとだけ入れると、苦味が取れたり柔らかく煮えたりするんだってさ。


「へぇ、その粉ってパンケーキに使うだけじゃないのね」


 レーア姉ちゃんはゆでたお豆をしっかりと洗ってから、お水と一緒にもう一度鍋へ。


 そこに僕がベーキングパウダーもどきを入れたら、もう一度かまどの火にかけてくれたんだ。


「後はそのまま煮ればいいのね?」


「うん。お豆がふくらんで、倍ぐらいになったらもう大丈夫だよ」


 あとはもうレーア姉ちゃんに任せっきりでいいから、僕は次の作業へ。


「お母さん。お砂糖使うね」


「いいわよ」


 次に僕がするのは、お砂糖にクラッシュの魔法をかけるお仕事。


 だってそうしないと、粒がおっきすぎてうまく溶けてくれないんだもん。


 ということで、お砂糖のツボからちっちゃな器に移してたんだけど。


 とてとてとて。


「おばあちゃん。スティナきたよぉ」


 そこにスティナちゃんを連れたヒルダ姉ちゃんがやってきたんだ。


「ルディーンにいちゃ、なにしてうの?」


「あっ、スティナちゃんいらっしゃい。お菓子作ってるんだよ」


「おかし! おかあさん、おかしだって」


「ええ。いいところに来たみたいね」


 スティナちゃんはお菓子を食べられると聞いて大喜び。


 早く早くって言うもんだから、ヒルダ姉ちゃんにもお菓子作りを手伝ってもらうことにしたんだ。



「ルディーン。豆が煮えたわよ」


「じゃあお湯から出して、粉振り器でつぶしながら皮を取っちゃって」


「お芋の生地、そろそろできあがるけど焼いておく?」


「ううん。今日は違うのを作るから、丸めといて」


 僕はみんなにこうするんだよって教えながら、お砂糖を魔法でいつもよりすっごく細かくしていったんだ。


 何でかって言うとね、こうしとかないと食べた時にじゃりじゃりしておいしくないから。


 でね、もうこれくらいでいいかなって言うくらい細かくなったところで、僕はそれを持ってお豆をつぶしてるレーア姉ちゃんたちのところへ行ったんだ。


「お豆、つぶれた?」


「ええ。これでいいのよね?」


 見るとしっかりと細かくなってたから、僕はその中にお砂糖をどばっ。


「レーア姉ちゃん。それ持ってこっち来て」


 そしていつもパンケーキを作ってるホットプレートのところに来ると、潰したお豆とお砂糖が混ざった物をその上にのっけてスイッチを入れたんだ。


「あれ? また火にかけるのなら、そんなものを使わなくてもかまどでいいんじゃないの?」


「ダメだよ。だって火が強すぎるとこげちゃうもん」


 まぜたお砂糖を溶かすためには温めないとダメだけど、火にかけるとすぐに焦げちゃうんだよね。


 だからホットプレートでゆっくり温めながら、木のへらでこねこね。


「おいちいにおいがすう! ルディーンにいちゃ、おいちいにおいがすうよ」


「うん。いいにおいだね」


 それをちょっとの間続けるとすっごく甘いにおいがしてきたもんだから、スティナちゃんはもう待ちきれないみたい。


 粘りが出て来たから僕がホットプレートのスイッチを切ると、すぐに聞いてきたんだ。


「ルディーンにいちゃ、できた? おかし、できたの?」


「まだだよ。でも、これだけ食べてもおいしいから、ちょっとだけ味見してみる?」


「うん! あみみ、すう!」


 今ホットプレートの上で出来上がったのは、白あんっていうお菓子なんだよね。


 これは今日作ってるお菓子の材料ではあるんだけど、これだけ食べてもおいしいもん。


 だから待ちきれないスティナちゃんに、ちょびっとだけ味見をさせてあげることにしたんだ。


「ふーふー。はい、あ~ん」


 ぱくっ。


「おいちい! おいちいよ、にいちゃ」


 よかった、スティナちゃんは気に入ってくれたみたい。


 もっともっとって言われたけど、ここで食べすぎちゃうと完成したお菓子が食べられなくなっちゃうでしょ?


 だからヒルダ姉ちゃんにスティナちゃんを渡して、僕はできあがった白あんを持ってお母さんのとこに行ったんだ。


「おかあさん。丸めるのできてる?」


「ええ、できてるわよ」


 お母さんがほらって言ったからテーブルの上を見てみると、そこにはすごい数の丸めたおもちが。


「こんなに作ったの!?」


「ええ。お母さん、がんばったでしょ」


 確かに頑張ったけど、これはちょっとやりすぎ。


 でもすぐに、足りないよりはいいかって思うことにしたんだ。



「お母さん。僕がやる通りにしてね」


「あら、見本を見せてくれるのね」


 僕は丸めたお芋のもちを一つ手に持つと、真ん中を親指でぎゅって押してくぼみを作ったんだよ。


 でね、そこにちっちゃな木のおさじですくった白あんを入れて包んで……。


「あれ? うまくできないや」


 僕、おててが小さいでしょ。


 だから一生懸命包もうとしてるのに、うまくできないんだよね。


「大丈夫よ、ルディーン。何がやりたいのかはちゃんと伝わったから代わるわね。レーア、手伝って」


「はーい」


 でもお母さんはちゃんと解ってくれたみたい。


 レーア姉ちゃんと二人で、あっと言う間に全部のおもちの中に白あんを包んじゃったんだ。


「わぁ。お母さんたち、すごいや」


「後はいつものように焼けばいいの?」


「ううん。焼いてもおいしいけど、今日は違うのを作るから今食べる分だけゆでて」


 せっかく包んでもらったけど、全部だとちょっと多すぎるでしょ?


 だから今からみんなで食べる分だけゆでてって頼んでから、僕は別作業へ。


 残った白あんをおっきな木のおさじですくうとそれをお鍋に入れて、その中にちょびっとだけお塩を入れてからお水でちょっとずつ伸ばしていったんだ。


「うん、こんなもんかな」


 白あんがちゃんと溶けたのを確認すると、おもちを茹でてるお母さんのところへ。


「お母さん。これ温めて」


「これも温めるの?」


「うん。それを茹でたおもちにかけたらお菓子の完成なんだよ」


 これが前の僕が小さなころから大好きだったお菓子、白あんのおしるこなんだ。


 まぁ、ほんとはお芋のもちじゃなくって本物のおもちを柔らかくしたのを使わないとダメだから、これは偽物なんだけどね。



「おいちい! おかあさん、これ、おいちい!」


「よかったわね、スティナ」


 偽物だけど、スティナちゃんはちゃんと喜んでくれたみたい。


「見た目は牛乳のスープみたいだけど、甘くておいしいわね」


「私、焼いたのよりもこっちの方が好き!」


 それに他のみんなも、この白あんのおしるこをおいしいおいしいって食べてくれたんだよ。


 ああ、よかった。


 お母さんも言ってたけど、確かに見た目は牛乳のスープみたいだもん。


 もしかしたら、こんな変なのいらないって言われちゃったかもしれなかったよね。


「ルディーン。またこの白いお豆、買ってきてね」


「うん。また今度買ってくるよ」


 でもキャリーナ姉ちゃんがニコニコしながら、またこの白いお豆を買ってきてねって言ってくれたでしょ。


 だから僕もうれしくなって、おっきな声でうん! ってお返事したんだ。


 あけましておめでとうございます。


 ずっとスティナちゃんが出てこないので、初めは出ないはずだったのに無理やり出してみましたがどうだったでしょうか?


 この物語のメインヒロインなのだから、定期的に出してあげないと、もし忘れ去られてしまったら大変ですからね。


 閑話でもいいから今年はたくさん出してあげようと考えている今日この頃です。


 さて、読者の皆様は年末年始、どうお過ごしですか?


 新年早々、震災や飛行機事故がある中、私は年末の31日からこれを書いている7日まで、ずっと体を壊していたりします。


 なんと昨日の6日までは寝込んでいたんですよね。


 その上、心が弱っている所に面白くないという感想を2件も頂いてしまったし。


 去年はコロナにかかっていたし、私のとって年末年始は鬼門なのだろうか?


 皆さんはくれぐれも体に気を付けてお過ごしください。


 それでは皆様、今年もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 白あんのおしるこ食べたことないですねー 美味しそうー食べてみたいものです。
[一言] 三人娘の方がヒロインだと思っていましたよ(笑)。ってわざとらしかったですね。 遅ればせながら、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
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