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609 クリームお姉さんの腕はね、さささっでずばばばばーなんだよ


 いきなりお人形のぬいぐるみを作って失敗しちゃうとやだからって、簡単なものを作る事にしたでしょ。


 だからどんな形にしようかってお話になったんだ。


「一口に簡単な形と言っても、なかなかいい案は出てこないわね」


「そうだ! 僕、ブラックボアがいいと思う」


「ブラックボア?」


 試しに作るだけだから別に普通のクッションを作ってもいいけど、それだとちょっとつまんないでしょ。


 でもブラックボアだったら2枚の布を合わせただけで体ができちゃうし、足や牙はちっちゃいのを付ければそれっぽくなるもん


 頭とか体を別々に作らないとダメなお人形と違って、これだったら試しに作るのにはもってこいだと思うんだ。


「そうね。ボア系の魔物だったら、立体にするのも簡単そうだもの。試しに図面を書いてみるわ」


 その事をお話したらね、クリームお姉さんは近くに置いてあった木の板を取ってさささって図面を描きだしたんだよ。


「特徴的な鼻はただ一枚の布を使うだけだとうまく形が作れないだろうから、二枚重ねにした方がいいかな?」


 でね、ちょっと考えてはこんな事をつぶやきながら、でもあっという間に描きあげちゃったんだ。


 だから僕、どんな形にするんだろうって思いながらその木の板を覗き込んだんだよ。


 でもそこに描いてあったのは何個かの変な形の絵だけで、全然ブラックボアじゃなかったもんだから、これなんだろうって頭をこてんって倒したんだ。


「あれ? クリームお姉さん、これ、ブラックボアの形してないよ」


「ふふふっ。これだけ見たらそう思うのも無理はないわね。でもこれが組み合わさると、ブラックボアの形になるのよ」


 クリームお姉さんはそう言ってにっこり笑うと、テーブルの上に並んでる端切れを何枚か手に取ったんだ。



 刺繍がしてある端切れって、元は服や小物を作る時に使った布の切れ端でしょ。


 だから色や形が全部違うんだよね。


 クリームお姉さんはね、そのいろんな形の端切れを図面を見ながら何個かに分けていったんだ。


「うん、こんな感じかな」


 でね、近くに置いてあった箱から針と糸を取り出すと、ずばばばばーってその端切れをすごい勢いで縫ってっちゃったんだよね。


「わっ! お母さん、あっと言う間に布ができてくよ」


「ええ。いつ見てもクリームさんの裁縫の腕は凄いわね」


 僕とお母さんがすごいねって言ってる間に、テーブルの上には端切れで作ったいろんな形の布がどんどん積みあがってたんだよ。


 でね、全部の端切れを縫い終わったクリームお姉さんは僕にこう言ったんだ。


「ほら見てごらん。これとこれを組み合わせると、ほら、ブラックボアのお顔みたいになるでしょ」


「あっ、ほんとだ」


 木の板に描いてあるのをみた時は変な形って思ったけど、それを合わせるとほんとにブラックボアのお顔になっちゃうんだもん。


 だからびっくりしてクリームお姉さんに聞いてみたんだよ。


「なんですぐにこんな形になるって解ったの?」


「それは私がついている裁縫師のおかげかな」


 クリームお姉さんはね、一般職の裁縫師ってジョブを持ってるんだって。


 だから頭の中でこんな形の服が作りたいなぁって思うと、すぐにどんな形の布を組み合わせればそれが作れるのかが解っちゃうだよって教えてくれたんだ。


「この職はその他にも縫うのが格段に早くなったり、布の裁断も思った通りにできるようになったりするのよ」


「そっか。だからさっきすっごい勢いで布を作れちゃったんだね」


 裁縫師って、料理人や錬金術師とおんなじ一般職なんだ。


 だから本当に才能がある人しかなれないそうなんだけど、でもなることができればお裁縫の腕がすっごく上がるんだってさ。


「まぁ、裁縫師なら誰でも同じ速さで縫えるわけじゃないけどね」


「うん、知ってる。ロルフさんが、錬金術もうまい人が作るお薬と下手な人が作るお薬は違うって言ってたもん。それとおんなじだよね」


「ええ、そうよ。私はこれでも裁縫ギルドのギルドマスターだからね。それだけの腕は持っているのよ」


 クリームお姉さんはそう言いながらバチってウィンクをすると、さっき僕に見せてくれたブラックボアのお顔になる布を縫い始めたんだ。


 でね、お顔の部分が完成すると今度は他のところを作り始めようとしたんだけど、そこで何かに気が付いたようなお顔になって僕にこう聞いてきたんだよね。


「そうだ。ルディーン君もただ見てるだけじゃつまらないでしょ。試しに簡単なところを縫ってみる?」


「えっ、いいの!?」


「これは売り物にする訳じゃないし、牙に使う部品だったら多少曲がって縫ってもそれほどおかしくはならないだろうからいいわよ」


 クリームお姉さんはそう言うと、針に糸を通してから布と一緒にはいって僕に渡してくれたんだ。


「ありがとう!」


「シーラちゃん。針は危ないから、ルディーン君が怪我をしないようにちゃんと見てあげるのよ」


「はい、解りました」


 って事で、お母さんと一緒にお裁縫。


 僕は縫うとこを教えてもらいながら、ゆっくりと針を布に刺してったんだよ。


 そしたらさ、ちょっと曲がっちゃったんだけどちゃんと縫えたもんだから、うれしくなってお母さんに見せてあげたんだ。


「ほらほら、お母さん。ちょびっとだけどぬえたよ!」


「ええ、そうね。ルディーンはお裁縫が上手ね」


「うん。もっとぬうから見ててね」


 お母さんに褒めてもらってうれしくなった僕は、その先も頑張ろうって思いながらゆっくりと縫っていったんだ。


 そしたらね、次はさっきよりもまっすぐ縫えたもんだから大喜び。


「見てみて、もっとまっすぐにできたよ」


「ええ、そうね。でも危ないから、針を持ったまま暴れないの」


「は~い」


 そっか、針はとがってるから振り回すと危ないもんね。


 お母さんに言われて反省した僕は、縫うのに集中したんだよ。


 そしたらさ、慣れて来たのかちょっとずつうまくなっていって、最後にはすいすいとまではいかないけど、すーすーすーくらいのペースで縫えるようになったんだ。


「あら、ルディーンは器用ね。もうコツをつかんだのかしら」


「うん。なんかね、急にうまくぬえるようになったんだよ」


 そんな僕を見てお母さんがほめてくれたんだけど……あれ? これって前にもおんなじような事があったような?


 そう思った僕は縫物を一度やめて、ステータス画面を見てみたんだ。


 そしたらさ。


 裁縫師<1/30>


 思った通り、一般職の欄にこんな文字が増えてたんだ。



 読んで頂いてありがとうございます。


 例のごとく、ルディーン君がまた新たな一般職を手に入れてしまいました。


 前に後書きに書いた通り、ルディーン君はドラゴン&マジック・オンラインのゲームキャラクターと同じように一度その職業を体験するとその一般職1レベルを取る事ができるんですよね。


 ただ、裁縫師のレベル上げに関しては特に優遇されるスキルは持っていないので、鑑定解析が使える錬金術師や前世の知識でいろいろなお菓子を作り出す料理人のようにどんどんレベルが上がっていくという事は無いと思われます。


 ルディーン君が家族の服を作るとは思えませんからねw


 さて、今月ですが24日のクリスマスまではちょっと忙しいんですよ。


 なので申し訳ありませんが、12月中は土日に原稿が書ける月曜日たけの更新になります。


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― 新着の感想 ―
[一言] 最初の石灰使うほどの文明はどこえやら。
[一言] 始めに。 私は作者様に嫌がらせとかする気はないのです。 服飾の歴史を調べると面白いなと思いまして。 ボタンが5000年以上前の遺跡から見つかったと思えば、女性用下着が20世紀に入るまでなか…
[一言] ルディーンは小学5〜6年、中学1年頃の技術・家庭科の授業で料理や裁縫・刺繍をやっているはずですよね。 ナーロッパ世界(なろう的中世欧州のような世界)なら、マジックテープは技術的に可能でしょ…
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