607 バーリマンさんとクリームお姉さんって、実はすっごく偉い人だったんだよ
クリームお姉さんはね、にこにこしながら僕の頭をなでた後、今度はお母さんにこんな事を言ったんだ。
「でも意外ね。シーラちゃんが私以外の貴族とのつながりを持っていたなんて」
これを聞いたお母さんは、すっごくびっくりしたお顔になっちゃったんだよ。
「えっ!? クリームさんって貴族様だったんですか?」
「あれ、言ってなかったかしら? 私は男爵家に連なるものよ。そうじゃなければ、この歳でギルドマスターになんかなれるはずないじゃないの」
クリームお姉さんはね、おほほほって変な笑い方をしながら、私みたいな若いギルドマスターはみんな貴族なんだよって教えてくれたんだ。
「冒険者ギルドなんかは貴族がいないから、結構なお年寄りがその地位についているでしょ? ギルドマスターは本来、重鎮と言われるあれくらいの歳の人がなるものなのよ」
「それじゃあ、錬金術ギルドのマスターも貴族様なんですか?」
「ええ。バーリマン家は子爵ね。確かこの街の財務を担当している家じゃなかったかしら」
バーリマンさんのお家はね、この街の役人さんで結構偉い人なんだって。
それを聞いたお母さんは、ちょっと青いお顔をしながらおろおろし始めちゃったんだよ。
「どうしましょう。そんな事知らなかったから今まで普通に話していたし、ハンスなんてかなり失礼な物言いをしてたわ」
「ああ、それは大丈夫よ。私同様、そんなことを気にする人はギルドマスターなんて役目を引き受けないからね」
どこのギルドも、貴族様よりも普通の人の方がよく来るでしょ?
だからギルドマスターになる人は、貴族様でも普通にお話して大丈夫な人ばっかりなんだってさ。
「それにシーラちゃんだって、若い頃から私に結構失礼なことを言ってるじゃない」
「それは知り合ったころのクリームさんはまだ冒険者だったし、年上ではあったけど気さくに話しかけてくれていたから」
「そりゃあ、話しかけるわよ。シーラちゃんは筋がよかったし、何より可愛らしかったから私の作った服を着て欲しかったもの」
クリームお姉さんはね、まだ冒険者だったころからお裁縫が大好きで、よくかわいい服とか小物とかを作ってたそうなんだ。
でも筋肉モリモリだから、自分だとかわいい服を着ても似合わないもん。
だからそういうデザインを思いついた時は、いっつもお母さんに作った服を着てもらってたんだってさ。
「服なんて高くてそうそう買えなかったから、あのころは凄く助かっていたけど……そうか、クリームさんは凄腕の冒険者だから高い布使った服を惜しげもなくくれているんだと思ってたけど、貴族様だったからなのね」
「あら、あの時の服に使った布はみんな、冒険者としての収入で買っていたものよ」
僕ね、貴族様はみんなお金持ちだと思ってたんだ。
でもクリームさんが言うには、おっきな領地を持っている貴族様以外はそんなにお金がいっぱいある訳じゃないんだって。
「貴族と言っても私は5番目だから、人にあげる服のお金なんて家から出してもらえるはずが無いもの。まぁ、それ以前に男爵じゃそれほど多くの収入がある訳じゃないから、嫡子でも他人に服をあげられるほどの収入は無いと思うわよ」
「そんなものなのですか」
「ええ。実際のところ、今の私の収入の方が父や兄よりも多いくらいだしね」
服って新しいのだとすっごく高いでしょ。
それにクリームお姉さんはギルドマスターになっちゃうくらいお裁縫が上手だもん。
だから冒険者をやめた今も、貴族様のお父さんたちよりお金がいっぱいあるんだってさ。
「ただ、ギルドマスターなんてものをやっていると、自由に出歩けないのが悩みよね」
「そうなの? でもバーリマンさん、よく僕のとこに来てるよ」
これを聞いた僕は、頭をこてんって倒したんだよ。
こないだもフロートボードの事を教えないとダメだからってロルフさんを呼びに行ったら、バーリマンさんも一緒についてきちゃったでしょ。
だからそのことを教えてあげると、クリームお姉さんはちょっと苦笑いしながら、あそこはいいわよねって。
「ああ、それは錬金術ギルドにはギルドマスターの代わりに色々な手配や事務管理、それに会員の相談を受けることができる人がいるからよ」
「そんな人がいるの?」
「確かペソラって言う名前の子だったかしら? その子は錬金術の腕はそれほどでもないそうなんだけど、知識面ではギルドの留守番を任せられるくらい優秀らしいのよ」
クリームお姉さんに言われて思い出したけど、錬金術ギルドっていつ行ってもロルフさんかペソラさんが受付に座ってたっけ。
そっか、バーリマンさんがお外に出かけられるのはペソラさんたちがいるからなんだね。
それに気が付いた僕は一人でうんうん頷いてたんだよ。
でもその時に、クリームお姉さんがこんな事を言ったんだ。
「まぁ、その子がいるから錬金術のギルドマスターは、行きたくもない街のお偉方との話し合いに参加させられているらしいけどね」
「そっか。だからバーリマンさん、いつ行ってもいないんだね」
「でも、やっぱりそういう人がいるといないとじゃ大きな違いよね。私だってここを任せられる子が一人でもいてくれたら、大好きなかわいいもの探しに出かける時間ができるもの」
クリームお姉さんはそう言うと、近くに置いてあった箱からあるものを取り出したんだ。
「本当ならかわいい木彫りの人形とかに囲まれて暮らしたいのに、私にはそんなものを彫れる技術は無いでしょ? だからギルドの受付に座ってこんな刺繍をしては、その寂しさを紛らわしているのよ」
それはね、手のひらにのっかるくらいの小さな布。
それが何枚かあって、その全部にウサギとかリスなんかの絵がきれいな糸で刺繍されてたんだ。
「あら、かわいい絵柄。クリームさん、昔からこういうの、好きよね」
「ええ。でも、これはあくまで刺繍でしかないもの。かわいいけど、木彫りでできた動物と違って頭をなでてあげることもできないのよね」
とってもきれいな刺繍なのに、それを見ながらしょんぼりするクリームお姉さん。
でもね、そんなクリームお姉さんのお話を聞いてた僕は、頭をこてんって倒したんだよ。
「クリームお姉さん。何で刺繍なの?」
頭を撫でたいなら、刺繍なんかするよりぬいぐるみを作った方がいいよね?
それなのになんで刺繍なのかが僕には解んなかったんだ。
「頭をなでたいならぬいぐるみを作ればいいじゃないか」
ぬいぐるみだったら木彫りのお人形とおんなじように、頭をなでることも抱っこすることもできるでしょ。
だからなのになんで作んないの? って聞いてみたんだよ。
「ぬいぐるみ? ルディーン君、それって一体どんなものなのかな?」
そしたらクリームお姉さんがそれはなに? って聞いてくるんだもん。
僕はびっくりしながらクリームお姉さんに教えてあげたんだ。
「ぬいぐるみって言うのはね、布とか毛皮で作るお人形さんのことなんだよ」
読んで頂いてありがとうございます。
バーリマンさんが貴族だという情報、ルディーン君たちに初公開です。
それにいつも受付にいるペソラさんが、実は優秀な助手であることも判明しました。
まぁ、ペソラさんに関してはある意味当たり前のことではあるんですけどね。
だってバーリマンさんが留守を任せているだけでなく、ロルフさんが領主のところへの使いに出しているくらいなのですから。
そんなの、無能な人間に務まるはずがないですよねw




