606 ロルフさんってホントはとっても長いお名前なんだって
クリームお姉さんは僕が呼び方を決めると、今度はお母さんにこんな質問をしてきたんだ。
「シーラちゃん。今日はなんの用事でここへ? 別に遊びに来たわけじゃないんでしょ」
「ええ。実は引っ張るための取っ手のようなものが付いた敷物を探しに来たんですよ」
お母さんがなにをしに来たのかを教えてあげるとね、それを聞いたクリームお姉さんは不思議そうなお顔になっちゃったんだよ。
「敷物なのに引っ張るための取っ手とは変わった組み合わせね。なぜそんなものを探しているの?」
「実は冒険者ギルドから、森の中にゴブリンの集落ができている可能性があるから調べてきてほしいという依頼があってね。それに必要なのよ」
「森の探索に敷物が必要なの?」
お母さんがゴブリンの村を探しに行く時に使うんだよって教えてあげたらね、クリームお姉さんは聞く前よりももっと解んなくなっちゃったみたいなんだ。
だから森で使うの? ってもう一回聞いてきたんだけど、そしたらそれを聞いたお母さんは笑いながら説明が足りなかったねって。
「実はこの子が遊んでいるときに、フロートボードという魔法の新しい使い方を見つけたらしくてね。それに乗せて使うから引っ張るための取っ手が必要なのよ」
「なるほど、フロートボードとセットでというのなら解るわ」
フロートボードって、重い物を運ぶための魔法でしょ?
だからそれを聞いたクリームお姉さんは、それなら解るよって言ったんだ。
でもね、そんなお母さんとクリームお姉さんとのお話を聞いてて、僕はすっごく怒ったんだよ。
「お母さん。僕、遊んでたんじゃないよ。ちゃんとストールさんたちと実験してたもん!」
フロートボードの実験は、ちゃんとはじめっからこうなるんじゃないかなぁって考えながらしてたでしょ?
なのにお母さんは遊んでたら見つけたって言うんだもん。
だから僕、すっごく怒って違うよって言ったんだ。
「ああ、そうだったわね、ごめんなさい。お母さん、魔法の事はよく解らないから、ちょっと勘違いしていたわ」
「もう! お母さんは大人なんだから間違えちゃダメでしょ」
まだちょっと怒ってるけど、お母さんが謝ってくれたからこれで仲直り。
「でも謝ってくれたから許してあげるね」
「ありがとう、ルディーン。それならよく解っていないお母さんの代わりに、フロートボードの事をクリームさんに教えてあげてくれるかな?」
「うん、わかった!」
お母さんにお願いされた僕はね、きょろきょろと周りを見渡してちょうどいいテーブルが無いかなぁって探したんだよ。
そしたら近くにあったもんだから、そこに走っていったんだ。
「クリームお姉さん、こっち来て」
「あら、何が始まるのかしら」
でね、クリームお姉さんにそのテーブルのとこまで来てって言ったらニコニコしながら来てくれたんだよ。
だから僕、腰からポシェットを外してそのテーブルの上に置いたんだ。
「じゃあ、やるね」
でね、体に魔力を循環させてからフロートボードを発動。
テーブルの上に置いたポシェットがちょっと浮いたのを見た僕は、それをテーブルの外まで押してこうとしたんだよね。
「えっ! ルディーン君。あなた、魔法が使えるの!?」
なのにクリームお姉さんったら、僕が魔法を使えることの方にびっくりしてるんだもん。
だから僕、そんなことにびっくりしちゃダメ! って言ったんだ。
「今はフロートボードの実験のお話をしてるでしょ。そんなとこにびっくりしちゃダメ!」
「あっ、ごめんなさい。でも」
「でもじゃないの。これからがいいとこなんだから、ちゃんと聞かないとダメでしょ」
フロートボードの新しい使い方を教えてる途中なのに、変な事にびっくりしちゃダメだよね。
ホント、大人なのに困っちゃうなぁ。
でも僕が怒ったらクリームさんはちゃんとごめんなさいしてくれたから許してあげることにしたんだ。
「それじゃあ、続きをやるから見ててね」
「わかったわ」
クリームお姉さんがお返事をしてくれたから、僕は頷いてちょっと浮いてるポシェットを押したんだよ。
でね、そのまんますーってテーブルの外に出しちゃってから、クリームお姉さんの方を見たんだ。
「ほら。テーブルの外に出してもポシェットが落っこちないでしょ」
「ほらって言われても……」
クリームお姉さんは僕のお話を聞いてからも、よく解んないってお顔をしながらちょっとの間浮いてるポシェットを見てたんだよ。
でもね、何かに気が付いたのか急にすっごくびっくりしたお顔になって僕の方を見たんだ。
「ルディーン君。これってどうなっているの? なぜポシェットが浮いたままなの?」
「あのね、フロートボードはこう言う魔法なんだよ。だから落っこちないんだ」
「ルディーン。それだけの説明じゃ流石に解らないと思うわよ」
お母さんはそう言うとね、クリームお姉さんに知ってる事を教えてあげたんだ。
「私もよく解って無いんだけど、この魔法はテーブルの上に置いたものとかに使うと、移動させてその下にテーブルが無くなってもそのままの高さを維持するらしいのよ」
「あら、そうなの?」
クリームお姉さんはお母さんのお話を聞いても、最初はへーってお顔をしてるだけだったんだよ。
でもね、言われた意味が解るとすぐにすっごくびっくりしたお顔になっちゃったんだ。
「……って、魔法に関しては素人の私から見ても、それはすごい発見じゃないの!」
「ええ。そうみたいね。だってこれを知ったルディーンがいつもお世話になっている錬金術ギルドのお爺さんとそこのギルドマスターが急いで報告しなければといっていたらしいもの」
お母さんがロルフさんたちもびっくりしてたんだよって教えてあげると、クリームお姉さんは錬金術ギルドの人たちまでが驚いたのならほんとにすごい事なんだねって感心したお顔に。
でもね、次の瞬間不思議そうなお顔に変わってこう聞いたんだよ。
「錬金術ギルドのお爺さん? それって、もしかしてフランセン様?」
「違うよ、ロルフさんだよ」
お母さんが言ってるのはロルフさんのことだよね。
なのにクリームお姉さんが違う人のお名前を言ったもんだから、僕はすぐに違うよって教えてあげたんだよ。
でもね、そんな僕にお母さんは笑いながら教えてくれたんだ。
「ルディーン。冒険者ギルドのギルマスがロルフさんのことをフランセン老と呼んでいたでしょ? 呼び方は違うけど、どちらも同じ人を指しているのよ」
「ああ、そう言えばフランセン様のフルネームは確か、ランヴァルト・ラル・ロルフ・フランセンだったわね」
僕は知らなかったけど、ロルフさんってそんな長いお名前なんだって。
でね、それを教えてくれたクリームお姉さんはにっこり笑いながらこんな事を言ったんだよ。
「ロルフさんと呼ばせているところを見ると、ルディーン君はフランセン様によほどかわいがられているみたいね」
「ええ。ロルフさんにはいつもこの子がすごくお世話になっているわ。それに錬金術ギルドのギルドマスターにもね」
お母さんがそう言うとね、それを聞いたクリームお姉さんはバーリマンさんにもかわいがられているのねって。
だから僕、クリームお姉さんに教えてあげたんだ。
「僕、ロルフさんやバーリマンさんと、とっても仲良しなんだよ」
「そうなの。二人ともとてもいい方ですもの。ルディーン君はよい縁を結ぶ事ができたのね」
クリームお姉さんはそう言うとね、僕の頭をなでながらよかったねって笑ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
クリームお姉さんですが、前回の後書きでその容姿を書くつもりだったのに忘れていたのでその説明を。
筋肉モリモリとルディーン君が表現している事からごつくてあごの割れた、青髭が目立つゴリラのような男性の女装姿を思い浮かべている方も多いと思います。
ですが、同時にルディーン君はクリームお姉さんに、おじさんなのかおばさんなのかを聞いていますよね?
青髭が浮いているおばさんなんかいないので、当然そんな容姿ではありません。
わたしがイメージしているのは、ドラマの役作りから筋トレにはまってバンプアップしすぎていた頃の香取慎吾さんです。
要するに、慎吾ママですね。
髪の色も今の香取さんと同じような感じかな? 慎吾ママを少し西洋風な顔立ちにしてその髪色にしたらかなり近いイメージになるかと。
そんな訳で、クリームお姉さんは筋肉モリモリですが、意外と美人さんでもあったりします。




