604 ディック兄ちゃんたちやレーア姉ちゃんはどうするの?
僕とキャリーナ姉ちゃんがやったやったって喜んでたらね、お母さんがそう言えばあれはどういう意味なの? って聞いてきたんだ。
「ところで、ルディーン。さっきから言っている、フロートボードに乗れば高い草の上にも行けるっていうのはどういう事なの? フロートボードって、ベニオウの実を入れた石の箱を森の奥から運んでくるのに使っている魔法でしょ」
「ああ、そう言えばそうだな。でもあの魔法は確か物を楽に運べるよう、少しだけ浮かせる魔法じゃなかったか?」
フロートボードの実験をしに行く時、お母さんに何をしに行くの? って聞かれて、後で教えてあげるて答えたでしょ。
そのせいで僕が何をしてたのかをまったく知らないから、お父さんたちはさっき言ったフロートボードに乗ってけば草の上に行けるんだよって言った意味が解ってないみたい。
だから僕、さっきまでストールさんたちと一緒にやってた実験の事を教えてあげる事にしたんだ。
「あのね、僕、さっきまでストールさんとフロートボードの実験してたんだ」
「ああ、できるかどうか解らないからあとで教えてあげると言っていたのは、その魔法の実験の事だったのね」
「うん。それでね、実験してみたらフロートボードは高いとこで使うと下に何にも無くなっても落っこちずに、そのまんまの高さで浮いてる事が解ったんだ」
僕はね、フロートボードの魔法って本当は物をちょっとだけ浮かす魔法じゃなくって、使った時に浮いた高さで載っけたものをずっと移動させる事ができるようになる魔法だったことをお父さんたちに教えてあげたんだよ。
そしたら二人とも、ちょこっとだけびっくりしたお顔をしたんだよ。
「ほう、それは凄いな」
「ただ、物を動かしやすくするだけの魔法じゃなかったのね」
「うん、すごいでしょ。でね、今度はフロートボードに載っけた敷物を窓の外に出してみたんだ。そしたらそれでも浮いたままだったもんだから、それを見たストールさんがびっくりして、慌てて他のメイドさんにロルフさんを呼びに行ってもらったんだよ」
僕ね、フロートボードの高さが下に物があっても無くても変わんない事が解っても、それがすごい事だなんて全然思えなかったんだよね。
でもストールさんがもしかするとすごい発見かもしれないって言うし、やって来たロルフさんとバーリマンさんにもその事を教えてあげたら、二人ともこれは大変な発見なんだよって言うんだもん。
だから僕、それを聞いてすっごくびっくりしたんだよって母さんに教えてあげたんだ。
「何かね、これが解ったから橋を作るのが簡単になるんだって」
「浮いたままだと、橋を架けやすくなるの?」
「うん。フロートボードが浮いたまんま同じ高さで移動するなら、崖の上でもそのまんま浮いてるって事でしょ。だからこの魔法を使えば、今まではすっごく大変だった反対側に物を持って行くのがすっごく簡単になるんだって」
フロートボードって、魔法が使える人だったら誰でも覚えられる簡単な魔法なんだ。
だからロルフさんたちは、この魔法の使い方が広まればきっとみんなが喜ぶよって言ってたんだよね。
「でね、これは早くいろんなところに教えてあげないとダメだからって、ロルフさんとバーリマンさんは書類? ってのを作るためにその後すぐ帰っちゃったんだ」
「なるほど、あの爺さんと錬金術ギルドのマスターのふたりが、慌てて報告しないといけないと言っていたのならその効果は間違いないな」
ロルフさんたちの事を教えてあげると、それを聞いたお父さんは凄い発見をしたんだねって褒めてくれたんだよね。
だから僕、えへへって笑いながら喜んでたんだけど、
「でも、そんなすごい発見をしたとなると」
「ああ。次に冒険者ギルドに行った時、またルルモアさんとギルマスからの呼び出しがあるだろうな」
お父さんは僕をほめた後、何でか知らないけどお母さんと二人でちょっぴりしょんぼりしたお顔になってはぁ~っておっきなため息をついてたんだ。
それからちょっとの間お父さんたちは二人でナイショのお話をしてたんだけど、それが終わったところでお母さんがレーア姉ちゃんにこう聞いたんだよ。
「ところで、レーアはどうするの? 一緒に行く?」
「う~ん、私も剣はあまり得意じゃないからなぁ」
レーア姉ちゃんもキャリーナ姉ちゃんと一緒で、いつも狩りでは弓を使ってるでしょ。
だから一緒に行かない方が居んじゃないかなぁって言うんだよね。
「フロートボードにはキャリーナとルディーンが乗るんでしょ? そうなると、弓を引くのが大変なんじゃないかな」
「そうね。私かハンスが引っ張って探索に行くとなると、あまり大きなものは使えないだろうし」
「だから私は、ニコラさんたちと一緒に街を見て回る事にするわ」
お母さんの言う通り、乗る敷物があんまりおっきなものだと広げた時に引っ張るのが大変そうだし、持ってく時だってきっと邪魔だもん。
だからそんなにおっきな敷物は使えないのに、もし僕たちと一緒に乗る事になったらきっと弓が撃ちにくくなっちゃうからって、レーア姉ちゃんはお留守番する事になったんだ。
「解ったわ。それじゃあ、ディックとテオドルはどうするの?」
「う~ん、集落の殲滅じゃなくって探索なんだよなぁ」
ディック兄ちゃんはね、ゴブリンをやっつけに行くんじゃなくって住んでる村を探すだけなのがつまんないみたい。
それにテオドル兄ちゃんも、僕たちと一緒には行かない方がいいんじゃないかなぁって言うんだよね。
「さっきお父さんも言っていたけど、もし先にゴブリンに見つかって囲まれたりしたら大変だからね。あまり大人数だと目立ちすぎるだろうから、僕もやめておくよ」
「そうだな。キャリーナと違ってどうしてもついて行きたいわけじゃないから、俺も行かないよ」
「そうか。それじゃあ探索には、俺とシーラ、それにキャリーナとルディーンの4人で行く事にする」
って事でゴブリンの村を探しに行くのは4人で行く事になったんだけど、ここでキャリーナ姉ちゃんが僕にこんな事を聞いてきたんだよ。
「ねぇ、ルディーン。私たちが乗る物ってもうあるの?」
「うん。さっきストールさんたちとフロートボードの実験をした時に使った敷物があるから、あれでいいと思うよ」
さっき僕が乗ってた敷物、あれだったらそんなにおっきくないけどキャリーナ姉ちゃんと二人で乗れるくらいの大きさはあるもん。
だからあれでいいんじゃないかなぁって言ったんだけど、それを聞いたキャリーナ姉ちゃんは不思議そうなお顔でもう一個聞いてきたんだよ。
「私とルディーンが乗るものって、お父さんかお母さんが引っ張るんだよね。その敷物、持つところってついてるの?」
「あっ、そっか。持つとこが無いと大変かも」
さっきの実験ではストールさんが押してくれたけど、森だと押すよりも引っ張る方が絶対楽だもん。
でも敷物のまんまだったら引っ張るのが大変だから、持つところは絶対にいるんだよね。
「どうしよう、お母さん。僕、そんなことまで考えてなかった」
「そうねぇ。探索に行くとなると他にも準備をしないといけないものもあるから、その持つところが付いた敷物も明日一緒に準備したらいいんじゃないかしら?」
お母さんが言うには、狩りへ行く時とゴブリンの村を探しに行く時は持ってくものがちょっとだけ違うんだって。
僕ね、ギルドマスターのお爺さんが急いでるって言ってたから、明日からすぐにゴブリンの村を探しに行くだろうなぁって思ってたんだよね。
だからどうしようってちょっと慌てたんだけど、出かける前の準備を明日するんだよってお母さんが教えてくれたもんだから一安心。
「そっか。キャリーナ姉ちゃん、明日はみんなで引っ張れる敷物を探しに行こ!」
「でも、お店にそんなのあるかなぁ?」
「イーノックカウはとってもおっきいから、きっとどっかで売ってるよ」
僕はキャリーナ姉ちゃんにそう言うと、絶対見つけてやるぞってふんすと気合を入れながら両手をぎゅって握ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
キャリーナ姉ちゃんは一緒に行く事になりましたが、流石に家族全員での探索は目立ちすぎるという事で他の兄姉はお留守番です。
まぁ、もしこの家族全員で行くような事になっていたら、ゴブリンの集落は探索ではなく殲滅される事になりそうですけどね。
実際ハンスお父さんとディック兄ちゃんが前衛を務め、テオドル兄ちゃんがレーア姉ちゃんとキャリーナ姉ちゃんの護衛、そしてシーラお母さんとルディーン君が遊撃に回ったら300匹程度の集落なら軽く殲滅してしまう事でしょう。
ただ集落なので当然ゴブリンの子供もいる訳で、もしできたとしてもハンスお父さんとシーラお母さんはやらせようとはしないでしょうけどね。




