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603 キャリーナ姉ちゃんがいっしょだと逃げられないんだって


 僕が一緒に行こって言ったら、キャリーナ姉ちゃんは大喜び。


「ほんと? ほんとに私もいっしょに行ってもいいの?」


「うん! 僕といっしょにフロートボードに乗ってけば、草の中を歩かなくってもいいもん。お父さん、だからいいでしょ」


 お父さんは背の高い草が生えてるとこに行くから、キャリーナ姉ちゃんは一緒に来ちゃダメって言ってたでしょ。


 だから僕、フロートボードの事を教えてあげたら、きっといいよって言ってくれると思ってたんだ。


 でもね、


「いや、やっぱりダメだ」


 何でか知らないけど、お父さんはダメって言うんだもん。


 だから僕とキャリーナ姉ちゃんは、なんでダメなのって怒ったんだよ。


「えー、なんで?」


「ルディーンが魔法で草の中に入らなくてもよくしてくれたんだよ。なんで行っちゃダメなの?」


「それはな、もしもゴブリンの集団に囲まれるような事態に陥った時、必ずお前たちを守れると言いきれないからだ」


 お父さんはね、ゴブリンやコボルトが相手だったらたとえ200や300居ても、お母さんと二人だけだったらおケガをしないで逃げてこれるんだって。


 でもね、もし僕やキャリーナ姉ちゃんがいっしょに居たら、そうじゃなくなっちゃうかもしれないんだよって教えてくれたんだ。


「今回は集落の殲滅ではなく探索だから、危なくなればすぐに逃げるつもりなんだ。だがキャリーナを連れて行くとなると、そう簡単にはいかない可能性が高いんだよ」


「えー、それじゃあ何でルディーンはいいの?」


「さっきも言っただろう。本当はルディーンも連れて行きたくは無いんだ。だがギルドからの要請で、どうしても連れて行かなければならないんだよ」


「でもでも、危ないのはルディーンも一緒だよ」


「ああ、そうだな。でもルディーンには魔法があるだろ」


 お父さんはキャリーナ姉ちゃんにそう言うと、今度は僕に向かって一つだけ約束を守ってねってお願いしてきたんだ。


「ルディーン。俺かシーラが撤退を判断したら、その時は絶対に魔法を使ってこの屋敷に戻ると約束してくれ」


「えー、でも僕、ゴブリンなんかに負けないよ」


「確かに、10匹や20匹ならそうだろう。だが、集団となるとそうはいかないんだ」


 僕のお目めは前にしかついてないでしょ?


 だから弱っちいゴブリンが相手でも、囲まれちゃうと負けちゃうかもしれないんだよってお父さんは言うんだ。


「俺やシーラは長年の経験で、見えないところからの攻撃でも察知してよける事ができる。だが、ルディーンにはそんな事はできないだろう?」


「うん」


「だからルディーンには、魔法で逃げてもらいたいんだ」


 前にイーノックカウの森の中で幻獣を見つけた時、お父さんからもし見つかったら魔法で逃げなさいって言われたのに、僕、そんなのやだって言ったでしょ?


 お父さんはね、今回は状況があの時とは全然違うから、いやだなんて言わずに絶対に魔法で逃げなさいって言うんだよ。


「さっきも言った通り、俺とシーラなら逃げるのは簡単だ。でもルディーンを守りながら囲まれたゴブリンたちから逃げ延びるのは流石にかなり厳しいからな」


「幻獣の時はもし街まで連れて行ってしまうと困るから逃げられない状況だったけど、今回は違うでしょ? だから私もルディーンには魔法で先に安全なこの館に逃げて欲しいかな」


 確か幻獣に見つかって一度覚えられちゃうとその時は逃げられても必ず追っかけてくるから、やっつけるまでは絶対に逃げちゃダメってお父さんが言ってたんだよね。


 あの時はまだ魔法の武器じゃないとやっつけられないと思ってたから、もし逃げて街に幻獣が来ちゃうと大変でしょ?


 だからもし見つかった時はお父さんたちが残って足止めするから、僕は魔法で逃げてロルフさんたちに助けてって言いに行ってねって言われたんだよね。


「今回はあの時と違って、別に逃げても何の問題も無いからな」


「ええ。ルディーンが魔法で逃げるのが私たち全員の安全を考えると、一番いい方法なのよ」


 そっか、幻獣と違ってゴブリンが相手なら逃げちゃってもいいんだもん。


 そう思った僕は、もしゴブリンがいっぱい来て囲まれちゃったら、ちゃんとジャンプの魔法で逃げるよって言おうとしたんだよ。


 でもその時、僕たちのお話を離れたとこで聞いてたテオドル兄ちゃんが不思議そうなお顔をしてこんな事を言ったんだよね。


「お父さん、探索にはルディーンを一緒に連れて行くんだよね? ならゴブリンに囲まれるなんて事、あるはずないじゃないか」


「ん? 何故そう思うんだ?」


「だってルディーンを連れて行くのは、魔法を使って広い範囲を調べてもらうためだろ? なら気付かれないうちにゴブリンに近づかれる心配なんてする必要ないじゃないか」


「あっ!」


 そう言えばそうだよ。


 僕がお父さんたちと一緒に行くのって、ギルドマスターのお爺さんが魔法で探した方が簡単だからゴブリンの村を探すのに連れてってって頼まれたからだもん。


 ブレードスワローくらいの速さで飛んできたら僕が魔法を使ってても囲まれちゃうかもしれないけど、ゴブリンはそんなに早くないでしょ?


 だったらテオドル兄ちゃんの言う通り、僕たちがゴブリンに囲まれちゃうなんてこと、あるはずないよね。


「う~ん、これは盲点だったな」


「確かに探索中は定期的に魔法を使ってもらう事になるから、ルディーンと一緒に行く以上、気付かないうちにゴブリンの集落に近づきすぎていたなんて事はあり得ないわね」


 そしてそれはお父さんやお母さんもおんなじ考えだったみたいで、僕がいるなら囲まれる事なんてないよねって言ってるんだもん。


 それを聞いたキャリーナ姉ちゃんはとっても嬉しそうなお顔で、お父さんたちに聞いたんだよ。


「ゴブリンに囲まれる事なんてなくなったんでしょ? だったら、私も一緒に行っていいよね」


「ああ、そうだな」


「反対する理由、すべて無くなってしまったものね」


 これを聞いたキャリーナ姉ちゃんは大喜びで、やったやったって言いながら僕のおててを持ってぶんぶん振るんだもん。


 だから僕もうれしくなっちゃって、キャリーナ姉ちゃんと一緒にやったやったって大喜びしたんだ。



 読んで頂いてありがとうございます。


 今回のお話は金曜日にアップした分のプロットに書かれていたものの残りなので、いつもよりもちょっと短めです。


 さて、ゴブリンの集落の探索ですが、本来はハンスお父さんたちが言っているように子供を連れて行けるようなものではありません。


 しかし、ルディーン君がフロートボードの新たな使い方を見つけてしまったので、一緒に行く事を反対する理由が無くなってしまいました。


 なにせキャリーナ姉ちゃんも、11歳とはいえグランリルの村ですでに狩りをしていますからね。


 ただの子供ではないので足場や武器の使用に支障がない状況を作り出せるようになった以上、もうついて来てはダメとは言えなくなってしまったんですよね。


 でも本当は連れて行きたくは無いんですよ。危ないのは変わりませんからね。


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