599 やったぁ、成功だ!
手伝ってってお願いしたらね、ストールさんはすぐにいいよってお返事してくれたんだ。
だから僕はさっそく、フロートボードの実験をする事にしたんだよ。
「それじゃあ、始めるね」
って事で、まずはちっちゃなものを使っての実験。
僕はさっきストールさんから渡してもらった敷物をテーブルの上にのっけると、その上にいっつも腰に着けてるポーチを外しておいたんだ。
「フロートボード」
でね、体に魔力を循環させてから力のある言葉を話すと、机の上に置いた敷物がふわって浮いたんだよね。
「これがフロートボードという魔法なのですね。わたくし、初めて見ました」
「そうなの?」
「はい。わたくしたちの仕事では、このような魔法を使って物を運ぶという事がありませんし、何より魔法を使えるもの自体がメイドや執事にはおりませんから」
ストールさんはね、僕がかけたフロートボードにのっかったベニオウの実の入れ物は見た事があるんだって。
でもロルフさんちじゃ、そんな重い物を運ぶことが無いでしょ。
だからフロートボードの魔法をかけるのを見たのはこれが初めてなんだってさ。
「それで、実験は成功したのでしょうか? ちゃんと浮いているようですが」
「ううん、違うよ。実験はこれからするんだ」
僕はそう言うとね、浮いてる敷物の端っこをトンって押したんたよ。
そしたらその敷物はすーって動いて行って、
「危ない!」
机の端っこまで行ったんだけど、それを見たストールさんが慌てて手で押さえちゃったんだ。
「ルディーン様、少々強く押しすぎたようですね。もう少しでテーブルから落ちてしまう所でしたよ」
「違うよ。落ちるかどうかを見ようと思ったんだもん」
ストールさんは、僕が強く押しすぎて敷物が机から落ちそうになったと思ってるみたい。
でもね、僕がやろうとしたのは、机の外まで行ったら床まで敷物が落ちるかどうかの実験なんだ。
「えっと、それはどういう事でしょう」
「そのまんまだよ。今度は触らないで、どうなるか見ててね」
ストールさんは僕が何を言ってるのか解らないってお顔をしてるんだけど、とりあえずそっちはほっといてもういっぺんフロートボードで浮いてる敷物を押してみたんだ。
そしたらさっきとおんなじようにすーって動いて行って、
「えっ!?」
机の外に出ちゃった後も、敷物は落ちずにそのまんまの高さで先に進んでいったんだ。
「やった! ちゃんと落ちずに進んでった」
「ルディーン様、これは一体どういうことなのですか? もしかして物を宙に浮かせる魔法を開発なされたのでしょうか」
「ううん、違うよ。フロートボードは元々、こういう魔法だったみたい」
机が下になくなっちゃってるのにフロートボードに載ってる敷物が落ちなかったから、それを見たストールさんは新しい魔法なのかな? って思ったみたい。
それはそうだよね。
だっていつも使ってる僕も、この実験をするまではフロートボードの事、ちょっとだけ物を浮かせて運べるようにする魔法だと思ってたんだもん。
でもね、それは違うって事が今の実験で解ったんだ。
「元々、このような効果があったと?」
「うん。僕もフロートボードは物をちょっとだけ浮かせる魔法だと思ってたんだよ。でもね、ステータスに書いてあるフロートボードのとこには違う書き方がしてあったんだ」
僕はそのまんまフロートボードのお話を続けるつもりだったんだけど、ここでストールさんが不思議そうなお顔でこう聞いてきたんだよね。
「あの、ルディーン様。ステータスとは身体的数値の事ですよね? そこに書いてあるというのはどういう意味でしょう? もしかしてグランリルの村にステータスという名の書物があるのですか?」
「あっ、そっか。僕のステータス画面の事はないしょにしないとダメって、ロルフさんが言ってたんだった」
僕はストールさんのお話を聞いて、大慌てでお口を両手でふさいだんだよ。
でもね、もうステータスのお話をし始めちゃったし、ストールさんはロルフさんのお家のメイド長さんだもん。
多分教えちゃってもロルフさんは怒らないよねって思った僕は、ストールさんにも教えてあげる事にしたんだ。
「旦那様が秘密にと?」
「うん。でもね、ストールさんにだったらロルフさんは怒らないと思うんだ。だから教えてあげるね」
僕はいつでも自分のステータスを見られる事と、その中には魔法のページがあって、そこを見れば今使える全部の魔法とその詳しい内容が書いてあるんだよって教えてあげたんだ。
そしたらそれを聞いたストールさんはびっくり。
「魔法の詳しい効果まで解るのですか?」
「うん。だからね、そこに書いてあったのを読んで、もしかしたらフロートボードにはこんな効果があるんじゃないかなぁって思ったんだよ」
ステータスに書いてあったことによるとね、フロートボードって発動させるとまず浮かび上がってその高さが固定されるんだって。
僕は前にこれを読んだ時、浮いた高さが決まるんだろうなぁって思ったんだよ。
でもね、よく考えるとそれってちょっと変なんだよね。
だってさ、フロートボードの魔法って何度かけてもおんなじ高さの分だけ浮かぶんだもん。
「魔法をかけたらいっつもおんなじだけ浮くのに、高さが固定されるってわざわざ書いてあるのは変でしょ?」
「なるほど。だから浮いた高さではなく、床や地面からの高さが固定されると考えてのですね」
「うん。だからほんとにそうなのか解るように実験する事にしたんだ」
多分だけど、この考えはあってると思うんだよね。
だってさ、もし浮かんだ高さが固定されるんだったら、お尻の痛くならない馬車でデコボコの道を走ったら上下に揺れるはずだもん。
でも、どんなとこを走ってもフロートボードは揺れずにすーって動いてくでしょ。
これは多分、最初に基準の高さに固定する事でデコボコがあってもちょっとくらいならそのまま揺れずに進めるようになってるんじゃないかなぁって思うんだ。
だってそうしないと、載っけた 物が崩れちゃったりして荷物を運ぶ魔法としては使えなくなっちゃうからね。
「なるほど。それではこの敷物は魔法を解除しない限り、ずっとこの高さで移動するのですね」
「解んない。だって今は床の上だからこの高さだけど、窓の外に出したら落ちちゃうかもしれないもん」
フロートボードで浮かせた敷物は机の上から飛び出しても落ちなかったけど、それはその机が置いてある床の上だからかもしれないでしょ。
だからもしその床が無い所までフロートボードを持って行ったら、それがどうなるのかは僕にも解らないんだ。
「なるほど。ではその実験もしなければいけませんね」
「うん。だから今度はもうちょっと高いとこに敷物をのっけて実験してみようって思ってるんだよ」
今浮いてる敷物は、机の上にのっけてフロートボードの魔法をかけたでしょ。
机の高さは窓枠よりも低いから、このまんまだと窓枠の下のところで壁に当たって止まっちゃうんだよね。
だから他のお部屋から箱を持って来てもらって、それを机に載せてから僕はその上に敷物を敷いてフロートボードをかけたんだ。
「それじゃあ、お外に出してみるね」
でね、その敷物を押して窓のとこまで持って行くと、僕はそのままそーっとお外に出してみたんだよ。
そしたらさ、敷物は下に落ちてっちゃう事無く、そのままの高さで浮いてたんだ。
「やった! 浮いたまんまだ」
だから僕、それを見てすっごく喜んだんだよ。
でもね、ストールさんはこれってほんとに喜んでいい事なのかなぁって。
「このままの高さで浮いているという事は、2階から下ろす事ができないのではないでしょうか」
「あっ、そっか」
落ちないって事は、魔法を解かないと下ろせないって事だもん。
だからちょっと慌てたんだけど……あれ? でもちょっと待って。
「高さが変わらないんだったら、物を運べないよね」
「あの、ルディーン様。もしかするとこれは単純な高さではなく魔法をかけたルディーン様を基準として高さが決まっているのではないでしょうか」
そっか、そう言えばフロートボードって、かけた人があんまり遠くに行っちゃうと消えちゃうんだよね。
それってもしかしたら高さの基準になる人がいなくなるから、固定された高さの基準が解らなくなっちゃうからなのかも。
「ならこのまま階段のとこまで持ってったら」
「きっとこの高さのまま、階段を降りていくと思いますよ」
ストールさんにそう言われた僕は、早速浮いたまんまの敷物を押しながらお部屋の外へ。
そのまま階段まで移動しておりてみると、
「やった! ちゃんと敷物も一緒に降りてきた」
ストールさんの言った通り、浮いた敷物は僕とおんなじように1階に降りて行ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
フロートボードの魔法は最後の描写を見ても解る通り、術者を基準として高さを固定します。
ただ、ルディーン君たちが考えているのとは一つ違ったところがありまして、実は術者の位置を基準にしているのではなく、認識を基準に高さを固定しているんですよね。
なので強く念じると、基準となる高さを変える事ができたりします。
まぁこれに関しては裏技のようなもので、ルディーン君はその事を知らないためステータス画面にはそのやり方や効果は表示されませんが。
さて、前回の後書きで、10月中は週1更新になるかもしれないと書きましたよね。
いろいろ考えたのですが、前倒しで進めないともし間に合わなかった時に困るので、申し訳ありませんが来週の更新をお休みさせて頂き、30日から元の週2更新に戻したいと考えております。
更新が開いてしまいますが、お許しいただけるとありがたいです。




