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594 イーノックカウの冒険者さんは木に登らないんだって


「おろすよぉ」


「は~い」


 ゴブリンをやっつけた後、僕たちはベニオウの実がなってる木のとこまで来たんだ。


 でね、いつものように登り棒を作って、今はそれを使って登った僕とお兄ちゃんたちが、下にいるお姉ちゃんたちやニコラさんのところへ採った実を入れたかごを下ろしてるんだよね。


「しかし、見事なものですね」


 そんな僕たちを見ながらね、バリアンさんはお父さんにすごいねって言ったんだよ。


「ん、何がだ?」


「この棒ですよ。魔法であっという間に作ったのもそうですが、軽装のルディーン君だけじゃなく、革製とはいえ防具を着けたままの息子さんたちまでするすると登っていくのですから」


 バリアンさんは前にベニオウの実を僕と一緒に取りに来たことがあるから、僕が登り棒を作れることや、それで木の上まで登れる事は知ってるんだよ。


 でも、今日はお兄ちゃんたちも一緒に登ってるでしょ。


 だからそれを見たバリアンさんは、防具を着たまんまで登り棒を登ったお兄ちゃんたちの事を凄いなぁって思ったんだってさ。


「そんなに難しい事か?」


「それはそうですよ。革鎧は金属のものよりも軽いですけど、硬い上に滑りますからね、腕力だけで登れるのなら別ですが。彼らのように手足を使って登ろうと思ったら、それを想定したうえでの技術が必要じゃないですか」


 登り棒って、棒を足で挟んで体を支えながら登ってくでしょ?


 だから革のブーツや腰のとこの装備を着けてると、それが滑って登りにくいんだって。


 それに革と言っても鎧だから、普通の服より重いもん。


 そんなのを着てたら、普通は棒なんて登れないんだよってバリアンさんは言うんだ。


「ふむ。確かに足で棒を締め付ける力はある程度いるだろうけど、そんなに難しい事か?」


 でもね、そんなバリアンさんにお父さんは、そんなに難しい事じゃないよって言って、


「ほら、こんな風にすれば体を支えるのは簡単だろ?」


 目の前の登り棒に捕まると、ちょっと登ってから両手を離したんだよ。


 そしたらそれを見たバリアンさんはびっくり。


 何でかって言うとね、お父さんはブラウンボアとかを狩ったりもするから、お兄ちゃんたちのと違っていろんなところに金属が使われてる鎧を着てるからなんだよ。


 それにお父さんは大人だから、体も僕やお兄ちゃんたちよりおっきいでしょ?


 そんなお父さんが足だけで登り棒にくっついちゃったもんだから、バリアンさんは何でそんな事ができるのさっておっきな声で聞いたんだ。


「カールフェルトさん、何故その装備でそんな事ができるんですか!」


「いや、何故って言われても」


「重装備とまでは言わないですけど、どう考えても俺が着ているものよりも重いですよね、それ。そんなものを着て、普通はそんな事できませんよ」


 でね、そのまんまおっきな声で騒いでたもんだから、僕、その声が気になって下の方を覗き込んでみたんだよ。


 そしたらお父さんが登り棒にくっついてるんだもん。


 だから僕、下にいるお父さんにおっきな声で聞いてみたんだ。


「ねぇ、お父さんも登ってくるの?」


「いや、ちょっとやってみただけだよ」


 そしたら登らないよって言うんだもん。


 だから僕、じゃあ何でそんなことしてたのかなぁって思って、一度下に降りてく事にしたんだ。




 僕がするするぅって登り棒を降りてったらね、何でか知らないけどバリアンさんがごめんなさいしてきたんだよ。


「ルディーン君、作業の邪魔をしたようで申し訳ない」


「? 僕、邪魔なんかされてないよ」


「いや、大きな声で騒いでいたから」


 バリアンさんはね、おっきな声を出してたからごめんなさいしてくれたんだって。


 だから僕も、大丈夫だよってお返事。


「気になったから降りて来たけど、すぐに登れるからへっちゃらだよ。でも、何であんなにおっきな声を出してたの?」


「いや、カールフェルトさんが重い鎧を着ているのに足だけで体を支えていたものだから、それを見てつい」


 僕、それを聞いてもよく解んなかったもんだから、何でそんな事でおっきな声を出したんだろうって頭をこてんって倒したんだよ。


 でもすぐに、そう言えば前にバリアンさんたちと一緒に来た時、エルシモさんが自分たちじゃ登り棒に登れないって言ってたのを思い出したんだ。


「そう言えばエルシモさんも、僕が棒だけで木の上の方に登ってけるのはすごいねって言ってたっけ」


「ああ。うちのパーティではあいつが一番身軽なんだが、そのエルシモでもこの棒を登るのは無理だと言っていたから、カールフェルトさんが登れると聞いて驚いてしまったんだよ」


「俺からすると、その方が不思議なんだが。木に登れないと、木の実や果物なんかを採る事ができないだろう?」


「えっ!? カールフェルトさん、果物を採る事があるんですか?」


 イーノックカウの冒険者さんって、動物や魔物は狩るけど果物とかを採る事は無いんだって。


 だからお父さんから木に登れないと果物とかが採れないじゃないかって言われて、バリアンさんはすっごくびっくりしてるみたい。


 でもね、僕の村だと森に入ったら誰でも木の実とか果物を採ってくるから、僕とお父さんもおんなじようにイーノックカウの冒険者さんたちは果物とかを採らないって聞いてびっくりしたんだ。


「僕たちの村には果物屋さんなんかないから、みんな森で採ってくるんだよ」


「それにだ。そもそも俺たち今日、元から家族みんなでベニオウの実を採りに来る予定だったことを忘れてないか?」


「ああ、そう言えばそうですね」


 そんな僕たちのお話を聞いて、バリアンさんはだからこの棒も簡単に登れるんだねって。


「でも、なるほど。木の実や果物を採るのも村での生活の一部だから、みなさんこういう事に慣れているんですね」


「ああ、子供の頃から木に登っているからな。うちの村のものだったら誰でも登れると思うぞ」


 それからお父さんは、バリアンさんに村の人たちが普段どんなことをして暮らしてるのかを教えてあげてたんだよ。


 でもね、


「お話が盛り上がっているところを悪いんだけど、そろそろマジックバッグに採れたベニオウの実を入れてもらえないかしら」


「あっ、すみません」


 そこにお母さんが来て、ベニオウの実がたまってきてるからマジックバッグを出してって言いに来たんだ。


 だからバリアンさんは慌てて背負ってたバックパックからマジックバッグを取り出したんだけど、その時に何かに気が付いたようなお顔をして僕にこう聞いてきたんだよ。


「そうだ、ルディーン君。マジックバッグにベニオウの実を入れてみるかい?」


「えっ、いいの? やったぁ!」


 前にルルモアさんから借りてブレードスワローを獲りに来た時は、お父さんがみんな入れちゃったんだよね。


 だから僕、初めてマジックバッグに物を入れられるって喜んだんだよ。


 でね、バリアンさんと一緒にベニオウの実が置いてある枯れ草のとこに行くと、早速一個拾って入れさせてもらったんだ。


「わっ! しゅぽって入っちゃった」


「マジックバッグに物が入るのは、何度見ても不思議な光景だよな」


 普通の袋に物を入れる時って、上から入れると底にそのまんま落ちてくでしょ。


 でもマジックバッグは入口のとこに持ってくと、その中にしゅぽって吸い込まれるような感じなんだよね。


 だからそれが面白くって何個か入れてたんだけど、そしたら近くにいたキャリーナ姉ちゃんが僕ばっかりずるいって言ってきたんだ。


「ルディーン、私も入れてみたい」


「うん、いいよ。僕、いっぱい入れたから、次はキャリーナ姉ちゃんの番ね」


 だからベニオウの実を入れる係は、キャリーナ姉ちゃんに交代。


 僕はその横でベニオウの実がマジックバッグに入ってくとこを見てたんだよ。


 そしたらさ、バリアンさんが持ってるマジックバッグにちっちゃな魔石が何個かついてる事に気が付いたんだ。


「あっ、このマジックバッグにも黒っぽい紫色の魔石がくっついてる」


「ん? ああ、これか。あまり見た事のない色の魔石だけど、多分この色の魔力属性のおかげでこんな不思議な袋ができてるんだろうな」


 バリアンさんはね、あんまり魔道具の事には詳しくないから、この紫色の魔石が何の属性なのか知らないんだよって言うんだよ。


 だから僕、これが何の属性なのか教えてあげる事にしたんだ。


「あのね、これは時空間って属性の魔石なんだよ」


「聞いた事が無い属性だな。どんな効果があるんだい?」


「あれ? そういえば、何に使う属性だっけ?」


 確か前にルルモアさんに借りた時も、鑑定解析で調べた時に何に使う魔石だったのか思い出せなかったんだよね。


 だから僕、頭をこてんって倒して考えたんだよ。


 そしたらさ、すっごくいい考えが浮かんだんだ。


「そうだ! 何に使うのかなぁって考えながら使ったら解るかも!」


 僕の鑑定解析、何にも考えないで使ったらそれが何なのかって解るだけなんだけど、これが知りたいって思いながら使ったらもっと詳しい事が解るんだよね。


 だからこの魔石も知りたい事を考えながら鑑定解析をかければ、きっともっと詳しい事が解るはずなんだ。 


「でも、何を調べたいって思ったらいいのかなぁ?」


 せっかくいい事を思いついたのに、何を調べたいのか解んなかったらダメでしょ?


 だから僕、それを一生懸命考えてたんだけど、


「おーい、ルディーン。いつまでも遊んでないで、早く上に登ってきてベニオウの実を採るのを手伝え!」


「あっ! うん、今登ってくよ」


 ベニオウの木の上からディック兄ちゃんに手伝ってよって言われちゃったもんだから、僕はバリアンさんに行ってくるねってご挨拶してから木の上へ。


 そのままお兄ちゃんたちとベニオウの実を採ってるうちに僕は、時空間属性の魔石を調べるなんて事、すっかり忘れちゃったんだ。



 読んで頂いてありがとうございます。


 ルディーン君、マジックバッグの秘密に迫るチャンスをまたも逃してしまいました。


 前と違って鑑定解析の使い方が解っている今なら、前回調べた時に解らなかったことがいろいろ解るんですけどねぇ。


 その中でも特に袋に使われてる生地がどんなものなのかは、結構重要な情報だったりします。


 まぁ、それが解っても前回同様その素材を手に入れる事ができないので、マジックバッグ自体を作る事はできないんですけどね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 身体に精神が引きずられているのでしょうか? 前世知識持ちの転生者だから思考能力は大人並みのはずなのですけどね。 それに転移系魔法を使っているから周りの人(ルディーンの家族と錬金術ギルドのマス…
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