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593 逃げるために隠れてるのを見つけるのは大変なんだって


 ユリアナさんやアマリアさんの足が取れちゃった時、ニコラさんは自分がゴブリンを見つけられなかったのが悪かったんだよって言ってたでしょ。


 それなのに今回も隠れてたゴブリンを見つけられなかったもんだから、その事がすっごくショックだったみたい。


 青いお顔でぶるぶる震えてるそんなニコラさんを見て、僕もどうしようどうしようってあたふたしてたんだ。


 でもね、


「いやいや、あの隠れていたゴブリンを見つけるのは俺でも無理だよ」


 バリアンさんが軽い感じでそう言ったもんだから、ニコラさんはちょっとびっくりしたお顔になってほんと? って聞いたんだよ。


「高ランク冒険者のバリアンさんでも、見つける事ができなかったのですか?」


「ああ、あれは完全に逃げに徹してたからな。ああいうのを見つけるのはかなり難しいんだ」


 バリアンさんはね、さっき僕たちがやっつけたゴブリンはこっちを待ち伏せしてたんじゃなくって、多分僕たちから逃げるために隠れてたんじゃないかなって。


 それにね、そういう逃げるために隠れてるゴブリンは、こっちを襲おうとしてるのよりすごく見つけにくいんだよって教えてくれたんだ。


「殺気が無い上に、とにかく見つからないようにと向こうも必死に息をひそめているだろ? お嬢ちゃんがダメなんじゃなく、それを簡単に見つけるこの人がすごいんだよ」


「いやいや、いくらなんでも、何のヒントも無くやり過ごそうとしているゴブリンを見つける事は俺でも無理だぞ」


 さっきお父さん、何かに気が付いて周りを見てたでしょ。


 あれはね、ゴブリンが通った跡を見つけたから、どっちに向かったのかなぁって周りを見てたんだって。


「うまくごまかしてはいたけど、結構な数が通った痕跡があったからな。見つけた以上、これは退治しておかないとダメだろうと思ったんだ」


「なるほど。あらかじめいる事が解っていたから、離れた草むらの中に隠れているゴブリンを見つける事ができたって訳なのか」


 僕たちの中ではニコラさんたちが一番弱いでしょ?


 バリアンさんは森を歩いてる時、そんなニコラさんたちの近くにずっといて守っててくれたもんだから、ゴブリンたちが通った跡に気が付かなかったんだってさ。


「俺の近くにいたお嬢ちゃんたちじゃその痕跡に気が付けるはずも無いんだから、やっぱりゴブリンに気付けなかったのは仕方がないと思うぞ」


「でも、私たちの近くにいたルディーン君やキャリーナちゃんたちも気付いてましたよ? ならやっぱり、その痕跡に気付かないのは私が……」


「ちがうよ! 私だって、お父さんが最初のゴブリンを倒すまで気付いてなかったもん」


「うん。僕もゴブリンの足跡とか、見てないよ」


 ニコラさんがそれでもやっぱり自分が悪いんじゃないかなって言い出したもんだから、それを聞いた僕とキャリーナ姉ちゃんはおんなじように気が付いてなんかなかったよって教えてあげたんだ。


 そしたらさ、ニコラさんはそんなはずないよって。


「ルディーン君はゴブリンに出会う前に、この先に何かいるって言おうとしてましたよね? それにキャリーナちゃんだってカールフェルトさんがゴブリンを倒した後、すぐに弓で他のゴブリンに攻撃していたじゃないですか」


「それは、お父さんが急に周りの確認をしてたからだよ」


「うん。何にもなかったら、あんな事するはずないもん。だから僕もその時、お父さんが歩いてく方になんかいるんじゃないかなって魔法を使ったから解ったんだ」


 森で狩りをする時はね、先頭を歩いてる人がなんかおかしいぞって態度を取ったら、他の人たちはみんないつでも動けるようにしとかないとダメなんだよ。


 だってそうしとかないと、もし木の上からとかから魔物が襲ってきたら危ないもん。


 それに見つけた相手がもしブレードスワローみたいに音を聞いてすぐに逃げちゃう魔物だったら、声を出して周りのみんなに教える事なんてできないでしょ?


 僕とキャリーナ姉ちゃんはね、いつも村の森でやってるのとおんなじ事をやっただけだから、別にゴブリンの足跡に気が付いてたわけじゃないんだよってニコラさんに教えてあげたんだ。


「それにさっきも、うまく偽装されていたと言っただろう? あれを見つけられるのは俺かシーラ、かろうじてディックが見つけられるかどうかと言ったところだろうな」


「ええ。魔物や動物と違って、亜人は人に近い知恵を持っているから痕跡を消しながら移動するもの。かなりの経験を積まないと、移動した痕跡を見つけるのは難しいと私も思うわよ」


 それにね、お父さんとお母さんがゴブリンの歩いた跡を見つけるのは僕たちでも多分無理だよって。


 だからそれを聞いたニコラさんは、ほんのちょびっとだけど、ほっとしたお顔になってくれたんだ。




「あのぉ、一つ聞いていいですか?」


 ニコラさんがちょびっとだけ元気になったのを見て僕たちもほっとしてたらね、ユリアナさんがそぉっと手をあげて質問してきたんだ。


「ん? なにを聞きたいんだ?」


「隠れているゴブリンを見つけるコツとか、あるんですか?」


「あっ、それは私も聞きたいです」


 ユリアナさんはね、みんなのお話を聞きながら、どうやったら隠れてるゴブリンを見つけられるのかなぁ? ってずっと思ってたんだって。


 だからお話が終わったのを見てすぐに、隠れてるゴブリンはどうやって探せばいいの? って聞いてみたそうなんだよ。


 そしたらさ、アマリアさんまで一緒になってそれは私も知りたいって言い出したもんだから、それを聞いたお父さんはちょっとだけ考えた後にこう答えたんだ。


「そうだなぁ。ゴブリンは人の子供くらいの大きさしかないとはいえ、それでもそこそこの大きさはあるだろ?」


「はい」


「だからその体を隠せる草むらとなると、それ相応の大きさがいるんだ」


 おっきな木があればその陰に隠れる事もできるけど、でもそんなにいっぱいは隠れられないよね。


 ゴブリンは冒険者より少ない数で襲ってくる事はないから、そういうとこに隠れるのはこっちから逃げたい時だけなんだって。


 だから隠れてこっちに襲い掛かれるようなおっきな草むらに近づかなければ、ゴブリンに奇襲される事は無いんだよってお父さんは言うんだ。


「そっか。隠れられそうなところに近づかなければいいんですね」


「あっ、でもこの辺りみたいに周りがすべてゴブリンが隠れられるほどの高さがある草ばかりの場所もありますよ。その場合はどうしたらいいんですか?」


 確かに、こんな森の奥の方まで来ると周りは草ばっかりなんだよね。


 だからユリアナさんは、こういうとこに来た時はどうしたらいいの? って聞いたんだけど、そしたらそれを聞いたお父さんはちょっと苦笑い。


「そもそも、こんな森の奥まで分け入る事ができる実力があれば、さっきバリアンさんが言ってた通りゴブリンの殺気で気が付く事ができるようになるんだが」


 そう言うと、ひょいっと片足をあげて、そこに着けてる足装備をとんとんって叩いたんだ。


「ただ、中には気配を消すのがうまい個体もいるだろうから、例え奇襲をされてもいいように足に着ける防具には気を使う必要があるんだ」


 そう言えば僕が初めてイーノックカウに来た時、隠れてるゴブリンやコボルトに襲われたら大変だから足の装備だけはちゃんとしたのを着けないとダメだよってお父さんに買ってもらったんだっけ。


 お父さんはね、しっかりした足の装備さえしとけば、ゴブリンなんかこわくないんだよって言うんだよ。


「ニコラちゃんたちは実際に襲われたからよく解っているだろうけど、ゴブリンの中には武器を持ったものもいる。だが、冒険者が持つ武器と違って、錆びたものや刃がかけたものばかりだからな。装備さえしっかりしたものをつけておけば奇襲をされても、危機に陥るほどのダメージを受ける事はないんだ」


「そうよ。それに万が一毒蛇に噛まれたとしても、しっかりとした足装備を付けていればその牙がとどくことはないでしょ? だから森に入る者にとって、足装備は胸や頭を守る防具以上に大切なのよ」


 そんなお父さんとお母さんのお話を聞いて、そうなのかって感心したお顔でうなずくニコラさんたち。


 でもね、それ以上にそうなのかってお顔をしてる人がいるんだよ。


「なるほど、この森にはいないから気が回らなかったけど、毒蛇から身を守るためにも足の装備には気を付けないといけないのか」


「いや、流石にお前クラスなら知っておかないとダメだろ」


 横で足装備は大事だよってお話を聞いてたバリアンさんが感心したお顔でうんうん頷いてたもんだから、それを見たお父さんは呆れたお顔になりながら、はぁ~って大きなため息をついたんだ。




 読んで頂いてありがとうございます。


 ユリアナさんたちですが、ハンスお父さんの言う通り、しっかりとした足装備をしていたらいくら奇襲をされたとしても足首を飛ばされるなんて大怪我をする事は無かったんですよね。


 だから今の半分奴隷のような立場になったのは、足装備を重要視しなかったからとも言えます。


 ただ、そのおかげでルディーン君と出会えて普通の冒険者なんかよりかなりいい生活ができるようになったのですから、ニコラさんたちにとってはある意味その方がよかったのかも?w


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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しく読ませていただきありがとうございます。 普通の冒険者より良い生活=借金が増えるのはずですが、一流の教育を受けてトップランク冒険者になれるといいですね。 作者様にとってこの世界の元になっ…
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