591 僕の魔法って鳥の魔物を狩るのに向いてるんだって
お母さんとニコラさんたちがブレードスワローの羽根で作るアクセサリーのお話してる時にね、お父さんはバリアンさんとこんなお話をしてたんだ。
「本当に、ブレードスワローをこんなに簡単に狩る事ができるんですね」
「ああ。ルディーンを見ていると、魔法と言うのは本当にすごいなぁといつも思わされるよ」
ブレードスワローって矢が飛んでくる音だけでも気がついて、すぐに飛んで逃げちゃうでしょ?
だからお母さんでも、ブレードスワローをやっつけるのはとっても難しいんだって。
それなのに僕は魔法で簡単に狩っちゃうもんだから、お父さんもすごいなぁって思ってたそうなんだよね。
「でも、それならなぜもっと狩らないんですか? これだけ簡単に狩れるのなら、かなり稼げると思うのですが」
「ああ、それは簡単な事だよ。グランリルの村でなら、ルディーンはもっと高く売れる魔物を狩る事ができるからさ」
これを聞いたバリアンさんはびっくりしたお顔で、僕にホント? って聞いてきたんだよ。
「ルディーン君。君、そんなに強い魔物を狩る事ができるのかい?」
「えっ、何の事?」
でもね、僕、お母さんたちのお話を聞いてたからお父さんたちが何のお話をしてたのか全然聞いてなかったんだよね。
だからお父さんに何の事? って聞いたんだけど、そしたら僕が前に狩ったもののお話をしてたんだよって。
「僕がやっつけた魔物のお話をしてたの?」
「ああ。前にレーアのパーティと一緒に森に行って、クラウンコッコを何匹か狩って来ただろ? その話をしようとしていたんだ」
「クラウンコッコですか!?」
お父さんから僕とレーア姉ちゃんがクラウンコッコを狩って来た時のお話をしようとしてたんだよって教えてもらってたら、何でか知らないけど横で聞いてたバリアンさんが急におっきな声を出すんだもん。
だから僕、すっごくびっくりしちゃったんだよ。
それにね、びっくりしたのは僕だけじゃなくって、それはお姉ちゃんたちも一緒だったみたい。
「なになに?」
「お父さん、一体何のお話をしたのよ」
だからお姉ちゃんたちはお父さんに、なんかあったの? って聞きに来たんだけど、そしたらそれにこたえる前にバリアンさんが大騒ぎを始めちゃったんだ。
「クラウンコッコと言ったら一応Bランク指定にはなっていますけど、Aランクの冒険者でも油断をすると大きなケガを負わされるって言われているほどの魔物ですよ。そんな魔物を、ルディーン君が本当に狩れるというんですか!?」
「えっと。驚く気持ちも解らないではないけど、ちょっと落ち着こうか」
だからちょっと落ち着いてってお父さんが言ったんだけど、そしたらバリアンさんは一人で騒いでたのが恥ずかしくなったのか、ちょっぴりしょぼんとしちゃったんだよ。
「あっ! えっと、すみません。でも、本当なんですか? クラウンコッコは冒険者の間で前衛殺しとまで言われている魔物なんですよ?」
「体が大きくて長い間は飛べないくせに、森の中では枝と枝の間を縦横無尽に飛び回って攻撃してくる厄介な魔物だからなぁ。その上タフだからシーラくらいかなり強力な弓使いじゃないと一撃で狩れない、辛い相手ではあるな。でもルディーンの魔法は、そのクラウンコッコを一発で仕留める事ができるらしいぞ。そうだよな、レーア」
「うん。ルディーンたら1度に2個の光の玉を出して、それを2匹のクラウンコッコの頭に当てて倒しちゃうんだもの。本当に簡単に狩れるもんだから私たちも楽しくなっちゃって、あの日は狩りすぎちゃったのよね」
グランリルの森でクラウンコッコを狩った時は、馬車で迎えに来てくれたお父さんに狩りすぎだって怒られちゃったんだよね。
でもその時の狩りがすっごく楽しかったからなのか、レーア姉ちゃんはニッコニコの笑顔で、もう一度あんな狩りがしたいなぁって。
「おいおい、あの時は村人総出で解体する事になったんだぞ」
そしたらお父さんに、ちょっとあきれたお顔をされちゃったんだけど、
「でも楽しかったんだもん。ルディーンも楽しかったわよね」
「うん、楽しかった!」
でもレーア姉ちゃんはすっごく楽しかったんだもんって言って、僕にも楽しかったでしょ? って聞いてきたんだよ。
だから僕もおっきな声で、うん! ってお返事したんだ。
「少しそれたから話を戻すが、実を言うとルディーンの魔法は、クラウンコッコのような魔物と相性がいいんだ」
「相性ですか?」
お父さんはね、僕の魔法はクラウンコッコを狩るのにすっごく向いてるんだよって言うんだよ。
「ああ。ボア系のようにタフで頭も固い頭蓋骨に守られている魔物は、いくら強力な魔法であっても1発で仕留めるのは流石に難しいんじゃないかと思う。だがクラウンコッコは頭を撃ち抜く事ができるからな」
「なるほど。気付かれる前に狙撃をすれば、確実に仕留められるという訳ですね」
「それにもし頭に当てるのが難しい状況だったとしても、体や羽根に当てればもう飛び回る事ができなくなるから脅威ではなくなるんだ」
僕の魔法って威力はあるんだけど、弱っちいジャイアントラットでも体に当たると貫通しちゃうから1発じゃ倒せないでしょ?
でもクラウンコッコ相手だと頭に当たれば一発でやっつけられるし、もし木とかの陰になって頭を狙えなくったって、体や羽根に当てれば飛び回る事ができなくなっちゃうもん。
ボア系と違ってクラウンコッコは地面を早く走れないから、そうなったら簡単に倒せちゃうんだよってお父さんは言うんだ。
「確かに、かなり相性のいい相手のようですね」
「だろ。そしてクラウンコッコは羽根の値段こそブレードスワローに劣るが、その他の素材を合わせればかなりの値段になるからな。わざわざブレードスワローなんか狙わなくてもいいという訳だ」
「今は需要が多くて値上がりしているから、そのクラスの魔物だと魔石だけでも今はギルドで1個金貨60枚以上で買い取ってくれるはずですよ。それを一度に2匹かぁ。確かにブレードスワローなんて狩る必要はないですね」
そう言えば僕の持ってるクラウンコッコの魔石、ルルモアさんがすっごく高く売れるんだよって言ってたっけ。
でもね、僕、それを聞いてもよく解ってなかったんだよね。
だってお金の事、よく解んないんだもん。
だからお父さんに、何で狩らなくていいの? って聞いてみる事にしたんだ。
「ねぇ、お父さん。クラウンコッコが狩れるなら、ブレードスワローは狩らなくってもいいの?」
「いや、ルディーンが狩ったブレードスワローを見て、シーラたちが喜んでただろ? だから狩らなくてもいいわけじゃないぞ」
だから狩らなくてもいいの? ってお父さんに聞いたんだけど、そしたら狩った方がいいって言われちゃったもんだから、僕、余計に解んなくなっちゃって頭をこてんって倒したんだ。
そしたらさ、それを見たお父さんが笑いながらお金じゃないんだよなぁって。
「クラウンコッコの方が高く売れるけど、イーノックカウまで運ぶことを考えればブレードスワローの方が簡単に稼げるよな」
「うん。持って来るの、大変だもんね」
「でも村での狩り以上にブレードスワローで稼ごうと思ったら、俺たちと別れてイーノックカウに住まないとダメなんだぞ」
「そんなの、やだ! 僕、お父さんやお母さんと一緒の方がいいもん」
お父さんのお話を聞いて、僕、すっごくびっくりしてそんなのヤダって言ったんだよ。
そしたらそれを聞いたお父さんはにっこり笑いながら、
「ああ、俺もルディーンとは別れたくないな。だから、そんな事をしてまでブレードスワローを狩って稼がなくてもいいんだよ」
そう言って僕の頭をなでてくれたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
また私の悪い癖が出てしまいました。
本当は今回、まったく違う話のプロットが書いてあったんですよ。
でも書き始めた瞬間、そう言えばブレードスワローはとても高く売れるのになぜ狩りに行かないのかという説明をしていなかったなぁと思ってしまったんですよ。
一応所々でグランリルの村で狩れる魔物の方がブレードスワローよりも価値があるというような描写は入れていたのですが、説明自体は後書きでもしてなかったですよね。
なのでそれに気が付いた途端、説明を入れないといけないのではないかという強迫観念がムクムクと。
結果、このような説明回になってしまった次第です。




