590 慣れてないと色が全然違っててもなかなか見つけられないんだって
バリアンさんと一緒にお父さんたちを追っかけてって、そのまま一緒にブレードスワローの反応があった方へ。
でね、しばらく森の中を歩いてると、お父さんが右手を横にシュタッてやって、みんなに止まれの合図をしたんだ。
「お父さん、いたの?」
「ああ、あそこだ」
だから見つけたの? って聞いたんだけど、そしたらあそこにいるよって教えてくれたんだ。
「あっ、ほんとだ」
お父さんの指さした方を見るとね、かなり遠くの木にブレードスワローがとまってたんだよね。
だからそれを見つけたキャリーナ姉ちゃんは大喜び。
気付かれないようにちっちゃな声でだけど、僕の肩をゆすりながらきれいだねって。
「わぁ、本当にきれいな鳥だね」
「うん。今は木陰だからあんまり光ってないけど、お日様の下に持ってくと羽がキラキラするんだよ」
だから僕も近くで見るともっときれいなんだよって教えてあげてたんだけど、
「あの、どこにいるのでしょうか?」
「うん、私も解らないわ」
ニコラさんたちは何でか知らないけど、ブレードスワローがどこにいるのか解んないみたい。
それにね、バリアンさんまで変な事を言い出したんだよ。
「ああ、あそこか。あんなに遠くにいるのなら、君らが見つけられなくても仕方がないよ」
これを聞いた僕はちょっとびっくりしたんだ。
だってブレードスワローとの距離は100メートルも離れてなかったんだもん。
「バリアンさん、あれで遠いの?」
「ああ。ブルーフロッグみたいな大きな獲物が開けている場所にいるのなら誰でも簡単に見つけられるだろうけど、大型とは言え木にとまってる鳥をこの距離で見つけるのは流石に難しいと思うぞ」
そう言いながら、俺も見つけられたのはついさっきだって笑うバリアンさん。
それを聞いた僕は、もういっぺんブレードスワローの方を見てみたんだ。
「う~ん、そっかなぁ。あんなに周りと色が違うんだから、すぐわかると思うんだけど」
「それは、それだけルディーン君の獲物を見つける技術が優れているって事だよ」
バリアンさんは冒険者だから、森での狩りは慣れてるでしょ?
だから魔物や動物がいたら、それが木や草の陰でもすぐ見つける事ができるんだって。
でも鳥は獲った事が無いから、見つける技術がほとんど無いんだよって教えてくれたんだ。
「そっか。僕やキャリーナ姉ちゃんは、いっつも村でビックピジョンとかを狩ってるもん。だからすぐ見つけられたんだね」
「ああ。それに比べてそこにいる子たちは、狩りの腕自体がまだ未熟だろ。だからこの距離ですぐブレードスワローを見つけるのは、ちょっと難しいんじゃないかな」
そう言えばこっからだと、ブレードスワローはほんとにちっちゃくしか見えないもん。
それに木陰にいるから、お空を飛んでる時みたいにキラキラもしてないでしょ。
それに気が付いた僕は、だからニコラさんたちには見つけられなかったのかぁって、一人でうんうん頷いたんだ。
そこから、ブレードスワローに気付かれないようにそ~っと移動。
でね、魔法がとどくくらいの所まで近づいたところで、僕は体に魔力を循環させたんだ。
「ルディーン。きれいなまんまの方がいいから、あんまりおっきな傷はつけないでね」
「うん、わかってるよ」
キャリーナ姉ちゃんにそう答えると、僕はいつもブレードスワローを狩る時とおんなじようにちっちゃな声でマジックミサイルって唱えてから魔法が発動する場所を指定。
斜め下からふさふさな胸のとこに当たるように、魔法を発射したんだ。
ピギィ。
「やった!」
「よし、取りに行くぞ」
そしたら狙ったとこに魔法が当たったブレードスワローが枝から落ちてったもんだから、僕たちはその場所に向かって歩いてったんだよ。
でね、近くまで行ったところで落ちてたブレードスワローを見つけたキャリーナ姉ちゃんが、あったぁ! って大喜びでそこまで走ってっちゃったんだ。
「お母さん、ほら見て! 近くで見たら、すっごくきれいだよ」
「ええ、ほんと。この羽根でアクセサリーとかを作ったら、素敵でしょうね」
ブレードスワローの羽根って柔らかくてふさふさなのに銀色のピカピカだから、お金持ちが帽子とかの飾りに使うんだって。
だからなのか、お母さんはその羽根を見てアクセサリーにしたらいいんじゃないかなって言うんだよ。
そしたらさ、それを聞いたキャリーナ姉ちゃんとレーア姉ちゃんも欲しいって言い出したんだ。
「アクセサリー!? 私も! 私もそのアクセサリー、欲しい」
「私もこれの羽根で髪飾りとか作って欲しいなぁ」
「あら、これだけの大きさだもの。羽根もいっぱい取れるから私たちだけじゃなく、ここにいる全員分のアクセサリーくらい軽く軽く作れるわよ」
それを聞いたお母さんは、そう言いながらニコラさんたちに向かってニッコリ。
でもね、そのニコラさんたちはお母さんのお話を聞いて、すっごくびっくりしたお顔になっちゃったんだ。
「ちょっと待ってください。ブレードスワローの羽根って、すごい値段がするんですよ!」
「私たち、ルディーン君に多くの借金があるのに!」
「そうだよ。そんな高いもの、もらえないよ」
ニコラさんたちはね、そんな高いものをもらえるはずないじゃないかって言ったんだよ。
だけどそんなニコラさんたちにお母さんは、それは違うよって。
「これがお店で買ったものなら、あなたたちの言っている事は正しいわよ。でもこのブレードスワローはルディーンが見つけて狩ったものでしょ。さっきあなたたちが弓を使って狩った鳥たちと、どんな違いがあるというのかしら?」
「えっ、でも」
「第一、このブレードスワローは売る気が無いんだから、お金の話をしてもしょうがないじゃないの」
そりゃあ、もし冒険者ギルドまで持ってって売るんだったらニコラさんたちの言う通り高く売れるかもしれないよ。
でも羽根はお母さんやお姉ちゃんたちのアクセサリーにする事が決まってるし、お肉だってブレードスワローはおいしいって前にお父さんが言ってたからみんなで食べちゃうつもりだもん。
だからお金の事を言っても、あんまり意味が無いんだよね。
「それに、これを獲ったのはルディーンでしょ。この子はあなたたちの主人という立場なんだから、もらっても特に問題は無いと思うのだけど」
「そうだな。確かニコラちゃんたちの衣食住は、ルディーンが全部払うっていう話だったろう?」
お父さんとお母さんはね、ニコラさんたちが住むお家や食べる物、それに着る服とかのお金は全部僕が出す事になってるんだから、アクセサリーだって僕から貰ったっておかしくないでしょって言うんだよ。
でもね、ニコラさんたちはそれを聞いてもやっぱりダメだよって。
「確かに羽根はただで手に入れたものですけど、アクセサリーにするにはお金がいるじゃないですか」
「そうですよ。ブレードスワローの羽根ほどのアイテムをアクセサリーにするのなら、かなり腕のいい職人さんに頼まないといけないですよね」
「ルディーン君にそんなお金を出させるわけにはいきません」
「ああ、その事を心配してたの」
お母さんはね、ニコラさんたちにそんな心配する必要は無いんだよって笑ったんだ。
「だって、アクセサリーにするのはルディーンがやってくれるはずだもの。そうよね、ルディーン」
「うん。前にお母さんたちと一緒に行ったお店で羽根のアクセサリーを見た事があるし、錬金術ギルドでもバーリマンさんが作った羽根と魔石のお守りを見た事があるから多分作れると思うよ」
僕のお返事を聞いたお母さんはニコラさんたちに、ほら、大丈夫でしょってにっこり。
でもね、そのニコラさんたちは今言われたことの意味がよく解ってないのか、えっ、えっ、って言いながらぽかんとしたお顔で僕のお顔を見てたんだよ。
読んで頂いてありがとうございます。
街の常識で言うとニコラさんたちの言っている通り、たとえ森で狩ったものだとしてもそれ相応の価値があるものと考えるのが普通です。
でもグランリルの村はお金を使わず互助制度で動いている村なので、そういう価値という意識が薄いんですよね。
なので街に持ち込めばかなりの高値で取引されるにもかかわらず、ブラウンボアやクラウンコッコのような魔物から獲れる高級なお肉も、多く獲れたらご近所の皆さんにおすそ分けしてしまいます。
そして、そんな生活をしているのですからこそ、例え街に持って帰れば高く売れるブレードスワローの羽根でも、簡単に子供たち(内、1人はまだ11歳)のアクセサリーにすればいいなんて言いきれるのです。




