585 専属って他の人のお仕事しちゃダメなんじゃないの?
僕たちがルルモアさんから金庫のお話を聞いてたらね、後ろの方で冒険者ギルドのドアが開く音がしたんだ。
だから僕、誰か来たのかなぁって思ってそっちを見たんだよ。
そしたらさ、そこに居たのは僕がよく知ってる人だったんだ。
「用事があるとギルド職員から聞かされてきたんだが、何の用なんだ?」
「ああバリアンさん、お待ちしておりました。こちらに来てください。詳しい話をしますので」
そこに居たのはね、前に僕と一緒にベニオウの実を採りに行った冒険者パーティのリーダーのバリアンさんだったよ。
って事はさ、もしかして一緒に行くのってバリアンさんなのかなぁ?
そう思いながら見てたらね、ルルモアさんがバリアンさんに、領主様のマジックバッグを持って僕たちと一緒に行ってほしいってほんとに言い出したもんだから、僕、すっごくびっくりしたんだ。
「ルルモアさん。バリアンさんさんが一緒に行くって言ってた冒険者さんなの?」
「ええ。彼はCランクパーティーのリーダーだし、前にも一度ルディーン君と一緒にベニオウの実を採りに行っているという話だから適任でしょ」
「でもでも、バリアンさんってロルフさんとこのパーティだって、前にあった時に言ってたよ」
前にベニオウの実を採りに行った時、ロルフさんがバリアンさんたちの事を専属ってやつなんだよって教えてくれたんだよね。
僕知ってるよ、専属ってのはロルフさんちのお仕事しかしちゃダメな人たちだもん。
だったら領主様のお手伝いだって、ほんとはしちゃダメなはずでしょ?
だから僕、こんな事お願いしてロルフさんに怒られない? ってルルモアさんに聞いたんだよ。
そしたらさ、ルルモアさんは呆れたようなお顔でさっき言ったじゃないのって言うんだ。
「あら、さっき説明したでしょ? 領主様が懇意にされている方の専属冒険者に来てもらうって」
「ああ、なるほど。だから俺が呼ばれたって訳か」
バリアンさんが笑いながら教えてくれたんだけど、ロルフさんと領主様はね、ルルモアさんの言う通り懇意ってのなんだって。
だから専属のバリアンさんはロルフさんちのお仕事しかほんとはしちゃダメなんだけど、今日だけは特別に僕たちと一緒に来てくれるんだってさ。
「それに今回はニコラさんたちが久しぶりに森に行くでしょ? それならやはり知らない人と一緒に行くより、一度でも顔を合わせた事がある人と一緒の方がいいと思って」
「あれ? ニコラさんたち、森に行ってないの?」
これには僕、ちょっとびっくりしたんだよ。
だってニコラさんたちが僕んちに来てから、もう結構経ってんだもん。
それに僕、お家に帰ってたからイーノックカウに居なかったでしょ?
だからきっとその間にニコラさんたちは、何度も森に出かけてるんだろうなぁって思ってたんだよね。
なのにルルモアさんが久しぶりに森に入るんだよなんて言ったもんだから、僕はニコラさんにホント? って聞いてみたんだ。
そしたらさ、ニコラさんたちはちょっと恥ずかしそうなお顔でこう言ったんだよ。
「ルディーン君にお金を返さないといけないから、私たちも何度か森に出かけようとは思ったのよ」
「でもあんな事があったものだから、なかなか踏ん切りがつかなくて、ねぇ」
「ついつい、ずるずると先延ばしになってしまいました。ごめんなさい」
ユリアナさんとアマリアさんは、森でゴブリンに襲われて足首が取れちゃった事があったでしょ?
だからそれ以来怖くって、なかなか森に行く事ができなかったんだって。
でもね、それでもほんとだったら僕にお金を返すために行かなきゃダメだったよねって、ニコラさんたちは3人そろってごめんなさいしたんだよ。
そしたらそれを聞いたディック兄ちゃんが僕に、おっきなおケガをしたんだったら怖くて森に入れなくなってもしょうがないよって。
「まぁ、大怪我をして狩りが怖くなるというのはよく聞く話だからなぁ。ルディーン、俺もそれは仕方がないと思うぞ」
「ああ。それに俺たちが一緒だからと言っても、また森に入ろうと決心しただけでもすごい事だと、お父さんも思うぞ」
それにね、お父さんもこれは凄い事なんだぞって言ったもんだから、僕はいいよって言ってあげる事にしたんだ。
「うん! 怖いのはしょうがないもんね。ニコラさん、無理して森に行かなくってもいいよ」
「でも、ルディーン君には着るものや食事、それに住むところのお金まで出してもらってるし」
「ええ。少しは稼がないと、本当にただの足手まといでしかないから」
そしたらさ、ニコラさんたちは僕にご飯とか食べさせてもらってるからこのままじゃダメだよって言うんだ。
「まだ剣を使って狩りをするのはちょっと怖いなぁと思っていたんだけど、弓の使い方を教えてもらえたしね」
「うん。これなら遠くからでも狩りができるから、これからはちょっとずつ森に出かけるつもりよ」
ニコラさんたちはそう言いながら、これからはやるぞぁ! って3人でうなずき合ってたんだよ。
でもね、
「あっ、でも最初のうちはうまく当てられないだろうから、今まで以上にお金を使わせちゃう事になるかも?」
一番年下のアマリアさんが急に不安そうなお顔になって、弓はまだへたっぴだから矢をいっぱい無駄にしちゃうかも? ってしょんぼりしちゃったんだ。
そしたらそれを見たディック兄ちゃんが大慌てて何か言いそうになったんだけど、
「そ……」
「何を言ってるの。弓なんて何度も撃って、外しながらうまくなっていくものだもの。そんな事気にしなくても大丈夫よ」
お母さんが笑いながら気にしなくってもいいよって先に言っちゃったもんだから、そのまま黙っちゃったんだ。
ディック兄ちゃん、何を言おうとしたんだろう?
読んで頂いてありがとうございます。
ちょっと短めですが、キリがいいので今回はここまでで。
実を言うと前回のプロットは本来、ここまでで一区切りになるはずだったんですよ。急用が無ければ土日に書くはずでしたから。
でも平日という事で最後まで書ききる事ができず、続きを今日書いているため、申し訳ありませんがいつもより短いエピソードになってしまいました。
さて、ディック兄ちゃんは相変わらず、アピールを繰り返しています。
でもそれに気付かなかったお母さんに、声を掛ける絶好のチャンスをつぶされる事にw
はてさて、彼の努力が実を結ぶ日は来るのだろうか?




